フランス・ベルギー合作映画「午後8時の訪問者」を観にいった。
若き女医ジェニー(アデル・エネル)は、まもなく大きな病院に好待遇で迎えられる予定
である。体調を崩し入院した老齢の知人の医師の代わりに郊外の小さな診療所で診てい
た彼女の元には、ジュリアン(オリヴィエ・ボノー)という研修医がいる。ある日、急患
の発作を見て身動きできなくなったジュリアンにジェニーは「患者の感情に流されすぎ
る」と注意するが、それがもとでジュリアンはジェニーの話を聞こうとしなくなる。そ
んな時ドアベルが鳴る。しかし応じようとするジュリアンをジェニーは「もう8時よ。
診療時間はとっくに過ぎてるわ」と言って止める。「何でも患者に振り回されてはだめ」
と更に叱責すると、ジュリアンは無言で診療所から去っていってしまう。翌日、警察が
やってきて、診療所の近くで身元不明の少女の遺体が見つかったと知らされる。午後8
時にドアベルを押している姿が監視カメラに映っていた少女こそ、遺体となって発見さ
れた少女だった。身元もわからず、警察は困惑しており、無縁仏として埋葬せざるを得
ないと言う。ジェニーは罪悪感から少女の顔写真を携帯のカメラに残し、時間を見つけ
ては少女の名前を聞いてまわる。
サスペンスでもあり、人間ドラマでもあるこの映画、色々と考えさせられた。診療時間
をとっくに過ぎた夜の8時、ドアベルが鳴った。出ようとした研修医のジュリアンを、
ジェニーは止める。ジュリアンは翌日から出勤してこなくなった。そして警察がやって
きて、近くで身元不明の少女の遺体が発見されたので、監視カメラを見せて欲しいと言
う。見てみると、そこにはその少女が映っていた。ジェニーはひどく後悔した。自分が
ドアを開けていたら、少女は死なずに済んだのではないか?そして携帯のカメラに少女
の写真を収め、患者や道行く人に「この人を知らない?」と聞いてまわる。
ジェニーの気持ちはわからないでもない。でもジェニーのやっていることは警察の仕事
だと思う。実際ジェニーは見知らぬ男たちに「この件に近づくな」と脅されたりもする。
それでも、罪悪感から何かをせずにはいられなかったのだろう。そして少しずつ、少女
の素性がわかってくる。そんな時警察から少女の身元がわかったという連絡が入る。だ
が彼女の死因ははっきりしていなかった。事故なのか、事件なのか。そして、ジェニー
の患者であるブライアンという少年が何かを知っていることがわかるが、彼はなかなか
話そうとしない。そのうち、ブライアンが少女のことをしつこく聞かれて具合が悪くな
ったからと、ブライアンの両親は主治医を変えると言ってくる。
ジェニーは死んだ少女のことと、研修医のジュリアンのこと、2つ問題を抱えていた。
ジュリアンの部屋を訪ねると、医者になるのは諦めて引っ越すと言う。せっかく今まで
頑張って勉強してきたのに、と止めようとするジェニー。「私があんなことを言ったせ
い?」と聞くと、違うと言う。ジュリアンは自信を失っていた。
この物語では、ヨーロッパの移民の問題や貧困についても描かれている。日本で暮らし
ている私たちにはあまりピンと来ないというか、普通考えない社会のひずみである。決
してジェニーが悪いのではない。彼女も、普段は考えていなかったであろう問題だ。そ
して彼女が辿り着いた真相は、あまりにも悲しい。だがその悲しみの中で、ジェニーが
医師として、1人の人間として、学んだことはあるはずだ。それがこれからの彼女の人
生において、糧となることを願わずにはいられない。静かだが深い映画だった。
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