2019年のアメリカ映画「マー サイコパスの狂気の地下室」。
オハイオ州の田舎で孤独な生活を送る中年女性スー・アン(オクタヴィア・
スペンサー)。ある日彼女は、街で出会った女子高生マギー(ダイアナ・シ
ルヴァーズ)に「友人たちと酒を飲もうと思っているが、未成年なので買
えない。代わりに買ってきて欲しい」と頼まれる。一旦は断ったスー・ア
ンだったが、結局彼らのために酒を買ってきてやる。それをきっかけに彼
女はパーティーができるように自宅の地下室を提供し、高校生たちは彼女
を良き理解者だと喜ぶ。高校生たちに「ママ」と呼ばれて人気者になるス
ー・アンだったが、彼女の態度は次第に変わり始め、マギーたちは不審な
ものを感じるようになる。
「
ガール・オン・ザ・トレイン」のテイト・テイラー監督によるサイコ・
サスペンス。スー・アンは動物病院の受け付けとして働き、娘と2人で近
所付き合いもなくひっそりと暮らしている。ある日彼女は街で高校生のマ
ギーから、自分たちの代わりに酒を買ってきて欲しいと頼まれる。車の中
には数人の高校生の男女が待機していた。彼女は仕方なく酒を買ってきて
やり、高校生たちは喜ぶ。その時スー・アンは彼らが乗っている車に警備
会社のロゴが入っていることに気づき、彼らに関する情報をネットで集め
始めた。高校生たちは空き地で酒を飲むが、その後スー・アンは彼らに自
宅の地下室をパーティーの場として提供するようになり、話のわかるスー
・アンはたちまち彼らの人気者になった。彼らはスー・アン宅の地下室で
度々楽しい時間を過ごすようになるが、マギーはやがておかしな出来事に
気づくようになる。
この映画は邦題がちょっと変。スー・アンは生まれながらのサイコパスで
はない。彼女はこの街で育ち学生生活も送った。学生の頃の彼女は今で言
う陰キャとかイケてない存在だった。そのため彼女は数人の同級生たちか
らひどい辱めを受ける。そのことで性格が歪んでしまっていたのだ。それ
は彼女の人生に暗い影を落とし、いつまでも付きまとっていた。スー・ア
ンが考えたことは復讐だった。マギーたち高校生は、自分をひどい目に陥
れた同級生たちの子供だったのだ。
でもかつての同級生たちはともかくその子供たちまで巻き込まなくても…
とは思ったが、それだけ恨みは深いということなのだろう。マギーたちは
スー・アンの家の地下室で度々パーティーを開くが、次第にスー・アンの
言動に不審なものを感じ始め、彼女と距離を置いた方がいいのではないか
と話すようになる。ある日マギーが学校から帰ると家にスー・アンが来て
いて、マギーの母は「私たち高校の同級生なのよ」と言って嬉しそうにス
ー・アンを紹介する。驚くマギーだったが、マギーとスー・アンは初対面
のふりをする。マギーの母は昔のことなど忘れたようにスー・アンとの再
会を喜んでいるのだが、こういうところはいじめた側といじめられた側の
違いなのだろう、と思った。
物語に矛盾もある。スー・アンや同級生たちはずっとその街に住んでいる
のだから、いくらスー・アンが近所付き合いをしていなくても小さな田舎
街で顔を合わせることもあるのではないかと思った。でも高校生たちの1
人の父親とは、彼がスー・アンが勤める動物病院に犬を連れてきたことで
すごく久しぶりの再会をしているといった感じなのだ。そういうところは
ちょっと不自然に思えた。スー・アンもそんなに辛い思い出のある街に住
み続けなくてもいいのにとも思った。
スー・アンの行動はエスカレートしていき、被害は子供たち(高校生たち)
にも及ぶ。スー・アンは確かに異常だが少しかわいそうな気もした。高校
時代ひどい目に遭わなかったらあんなふうにはならなかっただろう。でも
彼女は自分の娘が脚が不自由ではないのに何故か車椅子生活をさせていた
りして、やっぱり変な人ではある。いじめた側といじめられた側の認識の
違いが招いた悲劇である。
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