スカンジナビア漂流 ・北欧の海洋文化を辿る旅・ (2)

2009年08月26日 | 風の旅人日乗
ドイツからスウェーデンへ


この地方の海洋文化の背景を探るには、やはり博物館に行くことから始めるべきだろう、と思った。

北欧で、海に関する博物館といえば、ノルウエーの首都オスロである。
オスロには海洋博物館、バイキング博物館、フラム博物館、コンティキ博物館と、船や海洋関係の博物館が集まった一画がある。
オスロを目指すことにしよう。

ドイツのキールからスウェーデンのイェーテボリまで船で行き、そこからスウェーデン西海岸を走る国道をクルマで北上してノルウエーとの国境を越え、そのまま北上を続けてオスロに向かうことにする。

しかしその前に、まずはここドイツで何か、この国の海洋文化に触れられる場所に行きたい、と思った。

かつて、有能な潜水艦「Uボート」の母港でもあったキールは、第2次世界大戦で徹底的な爆撃を受けたらしく、古い建物はポツンポツンとしか残っていない。街並みも何かまだ復興途中のようで、痛々しい。

しかし競技セーラーにとってキールといえば、ヨーロッパの夏の訪れを告げるセーリングの祭典、“キール・ウイーク”が行なわれる港である。
それを主催しているのはキール・ヨットクラブだ。
そのヨットクラブは1936年ベルリン大会、1972年ミュンヘン大会の、2つのオリンピックのセーリング競技を担当したことでも知られている、ドイツの代表的なヨットクラブでもある。
旅の始まりに、まずはキール・ヨットクラブを表敬訪問してからルウエーへ旅立つことにした。

キール・ヨットクラブでは、現会長のオットー・シュレンズカー氏と面会して、ドイツのセーリング競技の歴史に関する興味深いお話を聞くことができた。ドイツと日本のセーリング界の、意外と深い繋がりについても知ることになった貴重な時間だった。
その日の午後7時半、キールを出港してイェーテボリに向かう客船〈ステナ・ジャーマニカ号〉に乗り込む。
デンマーク国土にはさまれたバルト海を抜けてスウェーデンへと向かう、約13時間の船旅である。

日が長い夏の夕暮れ、〈ステナ・ジャーマニカ号〉は細く長いキール港の中を、ゆっくりとしたスピードで、港口に向かって走り始める。
船内やサンデッキにはバーがあって、出港するや否や、乗客はもうビールやワインを楽しんでいる。
平日なのに、何隻かのヨットが客船の脇を走る。

キール湾口には、1隻のUボートが陸上に展示されている。
当時、ナチズムに塗り固められたドイツを憎んでいた敵国の立場から見れば、忌むべきものとも言えそうな潜水艦を、堂々と展示している。
失敗であれ成功であれ、自分たちの祖先が残した歴史を正面から見つめ、その事実や技術をきちんと未来に伝えようとするこの展示物を客船の高いデッキから見下ろしているうちに、今回の旅で探すべきものが見えてきたような気がした。
(続く)