日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

丹後一宮・籠神社・海部氏系図 

2011年08月21日 | 日記

京都府宮津市に丹後一宮・元伊勢籠(この)神社があります。
海部氏系図とは、籠神社の宮司を務められる海部(あまべ)氏の古系図です。
本系図と秘伝を伝える勘注系図があります。
今日は勘注系図を考えます。

系図は、海部氏一族の私家の来歴を記したもので、「私」の領域に属します。
しかし、この系図には大和朝廷成立を考えるにあたって、避けて通れない「史実=異伝」が伝えられております。
ブログで論評させていただくことは、系図を守り伝えられて来られました御当家にとって、快(こころよ)からぬものであろうことと、十分拝察される所であります。
何卒、御寛恕を給わりたく存じます。

今日はたくさん神名が出て来ます。
特に断らない限り、神名は「勘注系図」のものです。

A.系図は云います。(兒の御名前は直前の御方の御子です)。
1.始祖彦火明命(ひこほあかりのみこと) 一云 亦名 天火明命 亦名 彦火瓊々杵尊(ひこほのににぎのみこと)
2.火明神 一云 亦名 天御蔭命 一云 天御桙命 兒宇介水比古命
3.天御中主尊―伊弉諾尊―天照皇大神 兒正哉吾勝々也速日天押穂耳尊(まさかあかつかちなりはやひあまのおしほみみのみこと) 兒彦火明命 兒彦火々出見命(ほほでみのみこと)
  「天照皇大神」に添えられた別名:「一云 亦名 天照御魂命 一云 亦名 天照火明命 一云 亦名 天香語山命(あめのかごやまのみこと)
  正哉吾勝々也速日天押穂耳尊」に添えられた別名と兒の御名前:「一云 天押穂耳命 亦名 天香語山命 一云 天村雲命 亦名 彦火瓊々杵尊 兒一云 亦名 彦火明命 
   亦名 大御蔭志楽別命 兒宇介水彦命  一云 亦名  彦火瓊々杵尊

4.始祖彦火明命 正哉吾勝々也速日天押穂耳尊第三御子 一云 穂瓊々杵尊御子 亦名 穂々手見之命
5.一云 始祖彦火明命 兒彦波瀲(なぎさ)命 兒彦火々出見命

B.系図は秘伝も云えます。
1.彦火明命 古記一云 亦名 彦火々出見命
彦火明命 亦名 火明命 一名 稲井命 一云 穂赤命 一云 瓊杵穂命 一云 大己貴命(おおなむぢのみこと)之御子

C.この系図から分かること。
1.1・3・4から正哉吾勝々也速日天押穂耳尊→兒彦火明命→兒彦火々出見命(宇介水彦命)と全ての方が彦火瓊々杵尊の尊称を持たれていた事。
2.天香語山命という御名前が天照皇大神にも正哉吾勝々也速日天押穂耳尊にも添えられていて、名前は代を継いで継承された事。
3.2からB‐2の大己貴命も彦火明命と云う御名前を持たれていたであろうと判明する事。 

D.結論
『記・紀』が記録する瓊瓊杵尊の天降りから神武天皇の誕生までの記述は、史実にないことを潤色したものではなく、史実から派生した物語を綴(つづ)ったものです。
例えば、『記・紀』が記す神武天皇が実在されたことを証すためには、彦火火出見尊(山幸彦)に由来する名前が残っていなければなりません。
九州霧島市には今も隼人の名前が残ります。

では、丹後籠神社に残る「彦火火出見尊」は何だということになりましょうが、女王国からは数次に亘って東征が行われており、
その中で最大の部隊を擁された饒速日命(にぎはやひのみこと)の所で継承されていた御名前です。これがどういう所以によるものなのかは、今の所、分かりません。
推測するに、歌舞伎役者が名前を襲名するような慣習であったものと思われます。

そして、C‐3 に書きましたように大己貴命が彦火明命と云う名前も持たれていたとすると、『記・紀』の書くことは正しく、大己貴命が饒速日命だということが判明します。
饒速日命は、女王国から日本海ルートを取って、畿内に入られました。そして女王国では、熾烈な正統をめぐる争いがあったことを窺(うかが)い知ることができます。

これらの事情を総合すると、饒速日=天火明命と正統を争われた、
正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(『書紀』)の御子・天津彦彦火瓊瓊杵尊(『書紀』)は、別にいらっしゃったという結論を、論理的に導くことができます。
そして、神武天皇が大和朝廷を建てられましたので、その記録が正史として残りました。

E.補足
1.女王国は、九州・市杵嶋姫命(いつきしまひめみこと)の国です。
  海部氏系図が、「市杵嶋姫命 秘伝 一云 天照大神 一云 道主貴 一云 多岐理姫命」と伝えています。
2.饒速日命が畿内大和に入られる前には長隋彦(ながすねひこ)の王国がありました。
3.今までいろんな人が述べて来られました神武朝は存在しないという説は全く成立しません。

F.ちょっと一息
1.前回、アンシャルを「AN」「sa」「r」の音節に分解して、その日本語の意味は天御中主神であることを書きました。更に接尾語(辞)「r」を持つ日本語を探してみました。
「いる」「おる」「ある」「来る」「去る」「乗る」「張る」「である」「ござる」「ごじゃる」「あじゃる」「おじゃる」
どうも日本では断定や状態を示す接尾辞として機能しているようです。
これがアッシリアと繋がりがあるか、にわかには断じがたいのですが、
言語からアプローチする方法も、面白いものだろうと思われます。

参考文献:神道大系 古典編13 所収 「海部氏勘注系図」 神道大系編纂会 平成4年

訂正及び語句の追加と補正(8月22日):
1.大己貴命のふりがなを『書紀』に従い「おおあなむちのみこと」に訂正いたしました。→ 再度、『古事記』に従い「おおなむぢ」に変更いたしました。(2014.03.16)
2.語句の追加と補正を行いました。(但し、文意は全く変わりません)。

 

追記: 1)天御中主尊―伊弉諾尊を新たに書き加えました。 (2014.03.16)

    2)天照火明命天照大明神に書き換っていましたので元に戻しました。(2014.03.16)

 

 

 

 

 

      
             

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