ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

2012年に読んだ「圧倒的!」な本5冊  ※うち4冊は韓国関係

2013-01-14 21:50:50 | 韓国の小説・詩・エッセイ
 1つ前の記事<ソウルで買い込んだ本[その2 なぞなぞのポケット版]>の前に書いた<ソウルで買い込んだ本[その1 韓国語学習書]>をアップしたつもりでいたら下書きのままでした。未読の方は目を通していただければ幸いです。

 さて、昨年(2012年)の私ヌルボの読んだ本の中で、「これは圧倒的!」というレベルだったのが次の5冊です。

①イ・ヨンスク「「国語」という思想―近代日本の言語認識」(岩波現代文庫)  
②チョン・ユジョン「7年の夜」(韓国書)
③バチガルピ「ねじまき少女」(早川文庫SF)
④チュ・ホミン「神と一緒に」(韓国書.ネット漫画)
⑤李恢成「地上生活者」(講談社)
 ※既刊1~4部
 
①イ・ヨンスク「「国語」という思想」は、もっと早く読むべきでした。近現代の日本語という「国語」の歴史が見通せる、この分野のまさに定番の書でしょう、「一般書」というにはページ数も多く読むのも一苦労以上ですが、国語学史を通して、近代日本の国家意識や、イデオロギー政策の推移、植民地での「国語」政策のありよう等々、いろんなことが見えてきます。
 韓国人研究者だからこそ、「国語」としての日本語をより客体視して考察できたのかな、というのはたぶん誰しも思うことでしょう。

②チョン・ユジョン「7年の夜」は2011年韓国のベストセラー小説。
 500ページを超えるボリュームで、何ヵ月もかかってやっと完読。こんなに長い韓国小説を原書でなんとか読み通せたのもこの作品のパワーゆえ。
 村を水没させて造ったダム湖の畔で「事件」が起こるのですが、その真実を追う側ではなく、「犯人」の側からの描写が多く、読んでいる自分自身が追いつめられていくような気分に・・・。しかし物語のメインはその真相の究明ではなく、事件の7年後に・・・という複雑かつ緻密な構成の小説で、文章に力があり、読み応え満点。主な登場人物数人の過去が詳しく書き込まれたりしていることもページ数が多い理由の1つですが、それにより現代の韓国社会の問題も垣間見えてきます。印象としては、宮部みゆきとか桐野夏生のような感じかな? 近年これらの作家の作品は韓国でも多く訳されているので、その影響もあるかも。しかし、だいぶ前に読んだので詳しくは頭に残っていませんが、桐野夏生「OUT」よりも構成が重層的で、最後まで展開が予測しにくく、厚みがあると感じました。
 近く映画化されるとか・・・。ダムの描写が詳しいので、小説の舞台はどこかと探したら、全羅南道順天市の住岩ダムだそうです。このダムの関係者の皆さん、こんな恐い事件の舞台なのに現地ロケを認めるのかな?

③バチガルピ「ねじまき少女」だけが5冊中韓国と関係がない本です。また、5冊どれもボリュームがあり、読み通すのが大変でしたが、その中では「ねじまき少女」は早川文庫上下2冊ながら、他の4冊と比べるとまだ早く読めました。
 このSF作家の想像力はすごいです。21世紀に入ってからのSF界の代表的作品の1つという評価を何かで見ましたが、読んでみてナットク。しかしネット内の感想・評価を見ると必ずしも高評価ばかりでもなく、その逆の方が目につくほど。そんなもんですかねー?
 アメリカの作家がタイを舞台に書いたこのSFは、アイディアが一見奇抜に見えながらも、戦略物資としての食糧問題、種子の管理統制問題、エネルギー問題等々、現実の世界的課題がそのまま投影されています。ちょっと前に知り合いの人が「ネパールでサフランを云々」と話をしていたそのサフランのことがこの小説にも少し書かれていて、あららと思いました。
 他のSF作品では、韓国でも翻訳されて(それなりに?)人気のダグラス・アダムス「銀河ヒッチハイク・ガイド」(河出文庫)も読みましたが、これは以前読んだジェローム・K・ジェローム「ボートの三人男」(中公文庫)のような味わいで、SFというよりイギリスらしいユーモア小説といった趣きでしたね。SFといえば、これも昨年読んだチャイナ・ミエヴィル「都市と都市」(早川文庫)。これについては昨年3月31日の記事でも書きましたが、設定はSFでも中身はミステリーで「週刊文春ミステリーベスト10」でも7位にランクインしていました。私ヌルボと同じく、このSFから「板門店」を思い起こした人はそれなりにいるみたいです。

④チュ・ホミン「神と一緒に」(韓国書.ネット漫画)は、韓国の人気漫画の多くと同様、もとはウェブトゥーン(ネット漫画)です。
 この作品については、昨年11月4日の記事<韓国のベストセラー漫画(20教保文庫の1~20位>でかなり詳しく紹介しました。
 本の方も「あの世編(全3巻)」「この世編(全2巻)」「神話編(全3巻)」に分かれ、最近完結しました。
 「あの世編」は、若くして亡くなってしまった会社員が主人公。彼は閻魔大王(韓国では閻羅大王.염라대왕)の使いの日直差使と月直差使に従い冥界に向けて旅立つのですが、日韓の「仏教的あの世観」が共通していることを知るとともに、この作家の創造的イマジネーションにびっくり! またあの世に行く手段として深夜の地下鉄に乗ったり、49日の裁判を受ける過程で、最初から彼の担当の新米弁護士が有能ぶりを発揮したり等々、あの世もつまりは現代の反映、という描き方もおもしろかったです。
※「あの世編」は現在「ヤングガンガン」で三輪ヨシユキ:画による日本語版が連載中です。7月には単行本第1巻が刊行されました。
 「この世編」にも日直差使と月直差使は登場しますが、舞台はタイトル通りこの世。それも都市再開発のため生活を脅かされる地域住民の問題が描かれます。
 昨年5月17日の記事<[韓国語の新語]<ヨンヨク(用役)>とは? その社会背景>でもこの漫画のコマを引用しました。
 「神話編」には、昔から伝わる伝承神話・伝説が盛り込まれていますが、それらを読むとやはり東アジア圏に共通する要素が多いことがよくわかります。
 この「神と一緒に」は<NAVER漫画>で、予告編から読むことができます。→コチラ
 また最近知ったところでは、チュ・ホミンはこのWebtoonで大統領賞までもらったとか・・・。そして、映画化されて2013年公開される予定らしいです。
※先の「7年の夜」も映画化されるし「トガニ(るつぼ)」、「ワンドゥギ」、そして「26年」や「拝啓、愛しています」等、私ヌルボが原書で読み、このブログで紹介した本が次々に映画化されていくことに、自分自身でも驚いています。(ま、「日本人が読むくらい注目度が高い→映画化してヒットが見込める」というだけのことかもしれませんが・・・。)

⑤李恢成「地上生活者」(講談社)は、2000年1月号から「群像」で連載が始まり、今も書き継がれていますが、このタラタラした(!?)自伝的大河小説を毎月きちんと読んでいる人が全国でどれくらいいるのでしょうか?(数百人?)
 私ヌルボはその数少ない(?)1人、ではありません。たまたま60年代頃の在日社会、とくに朝鮮総聯関係のことを少し調べていてゆきあたったのがこの小説。しかし、作家の記憶力はすごいものです。樺太での少年時代のこと、あるいは北海道での中・高校時代のこと、友人との会話やいろんなエピソードが実に具体的に書かれています。文学作品としてよりも、とくに在日の人たちの暮らしや、半島の南北分断が彼等にどのように影を落としたかが興味深く描かれています。
 有名な、あるいは名前だけは知っていた人々が見れば見当がつく仮名で多数登場。たとえば金達寿→金達鎮とか。在日作家の間の人間関係がいろいろわかってきました。たがいに親しいとかその逆とか・・・。李恢成が在日作家仲間で(たぶん今も?)不信を買っているのは、光州事件の翌年の1981年金達寿、姜在彦、李進煕の訪韓に反対した彼が、それ以前にこっそり訪韓したことがばれてしまったからだ、とか、それには事情があったんだ等々・・・。
※あらためて思うのは、金石範の気骨ある思想的文学的生き方はかつても今も、一貫しているなあ、ということ。李恢成は「北であれ南であれわが祖国」という立場を長くとっていますが、金石範は南北両政権に対して批判的な目を持ち続けていると思います。ヌルボが思うに、金石範にとっての一番の大敵は「時代の流れ」というヤツではないでしょうか?

 上記以外にも、その何倍かの本を読みましたが、読んでためになった本はいろいろあっても、心にずしんとくる圧倒的な本といえばこの5冊だけでした。
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