☆今日は歩けないかもしれない
日曜日の昨日、シェラは朝からずっと寝ていた。前日、久しぶりの「薬師池公園」がこたえたのかもしれない。冬のさなか、曇天で寂しいだけの公園だったが、ここにはぼくたちの思い出がたくさん詰まっている。むぎのビジョンだって濃密だ。シェラが張り切って歩き通したのもそんな思い出が後押ししてくれたせいではなかろうか。ぼくにはそんな気がしてならない。
ぼくもこの冬のさまざまな疲れがどっと出た。
昼前に所用をすませて帰り、昼食後にソファーでむぎと遊びながら寝てしまった。ルイもまたぼくの身体の上でぼくの胸を枕にして寝ていた。かつてはこうやって子犬だったシェラと一緒に寝て、無邪気な寝顔に「おまえと出逢えてよかった」と無言で語りかけながら過ごしたひとときがあった。
午後3時過ぎ、家人の声で目が覚めた。「今日はシェラの調子がかなりよくないわ」と沈んでいる。休みの日、シェラが「お出かけしましょう」と出てこないこと自体が異常である。朝の散歩の様子で、ぼくもシェラの状態が落ちているのはよくわかっていた。
もしかしたら散歩にもいきたがらないかもしれないと思ったが、寝転んだままのシェラにハーネスを着けてやるとよろよろと立ち上がる。動きは鈍いが散歩を嫌がる様子もなく、素直にぼくに従った。
☆シェパードにも吠えつく気力
クルマに乗せて、「奈良山公園」を目指す。駐車場から近いことと、シェラの好きなお茶ができるテラスがあるからだ。駐車場から歩かせ、様子を見てカートに乗せるつもりで、家人がシェラのリードを持ち、ぼくが空のカートを押しながらルイのリードを持ってのスタートだった。
いつ、シェラがへたりこんでもいいように付き添っているにもかかわらず、シェラはよろけながらもズンズン歩いていく。途中、二頭のシェパードと遭遇した。ルイが寄っていくのをシェラはだるそうながらも不安げに見ている。家人が、「大丈夫よ、遊んでいるだけだから」となだめてその場から離れていこうとすると、元気なシェパードがシェラのほうへ寄っていく。振り向きざま、シェラは「こないで!」といわんばかり吠えた。声にいくぶん濁りがあったがなかなか力強い声だった。
気力は健在だが、身体のほうはそうもいかない。シェラのうしろ足がきかなくなるのは時間の問題だろう。特に左足がよくない。歩きながらプルプルと全身を震わせるだけで転びそうになる。座るのさえ容易でなくなっている。家の中でもちゃんと座るのがひと苦労だし、オシッコのときに踏ん張るのもきつそうだ。
それでも昨日はまだ気力だけは残っていて、とうとう公園内の往復を歩き通した。カートに乗せようとしても抱き上げられるのを断固拒否する。
「無理するなよ、シェラ」
シェラの身体を撫でながらぼくは語りかけた。
☆ルイ、いまはカンベンしてくれ!
残っているのは気力ばかりではなく、美味しいものへの食欲も同じである。
シェラの希望にそってスーパーに併設されているロッテリアのテラス席で休憩した。カートの中に入れて目線をテーブルに合わせてやる。そうやって、ロッテリアのチキンの唐揚げ一人前ををほぼ食べてしまった。
食べたいものをなんでも食べさせてやろう。それがもし何か不測の事態を誘発してもいいじゃないかという開き直りがいまやぼくの確固たる信念になっている。むさぼるように食べる姿こそがシェラらしい。
テーブルの下からルイが顔を出してほしがるが、思いのほか聞き分けよくすぐにあきらめてしまった。ルイには悪い癖をつけたくない。
今朝の散歩でも、ルイは聞き分けよかった。シェラが立ち止まり、じっとしているその横で、ルイは跳びつきもせずにシェラが動くのを待っていた。やがてなかなか動かないシェラにしびれを切らして腹這いになっていた。
ようやくシェラが動き、自分の意志でクレートまでいって中に入ったあと、シェラをその場に残し、ほんの300メートルほどの距離に過ぎないがルイだけの散歩になる。喜び勇んでぼくに従い、オシッコやウンコをやってくれる。
本当はもっと歩いてやりたいのだが朝は時間がない。それでもルイはうれしそうに跳ねて歩いた。
ルイ、ごめんな。いまは辛抱してくれ。いずれ、きみに100パーセントの愛情を注ぐ。土曜日の夜だって、きみのためにぼくはロングリード(写真=左)を買いに出かけている。いずれ、きみが思う存分走れるための準備だ。
決してきみのことをおざなりにいしているわけじゃないんだよ――笑顔でぼくを見上げるルイに無言のメッセージを送る。
きっとわかってくれたと思う。