ただの気まぐれだろうが、昼過ぎからずっとルイが足元で横になったままだ。
じゃまだけど、どかしたりせず、そのままにしておく。
わるい気持ちじゃないからだ。
ルイにとっては、別にとりたてて意味はないのだろうが、めったにない彼の”気まぐれ”を、ぼくは喜んでしんぼうする。
あすも同じことをしてくれるわけじゃない。
また、きっとぼくから少し離れたところに横たわり、呼んでもせいぜい頭をもたげ、物憂そうにちらりと目を向けてくれるのがオチだろう。
リタイアしてから、ぼくは自分の部屋はほとんど使っていない。
家にいるときは、たいてい、居間のテーブルの前に座っているか、脇のソファーで横になっている。
そばにいても、ルイはいつも一定の距離を保ちながら、付かず離れずで寝ている。
呼んでも決してそばにこない。
こちらの指示どおり”芸達者ぶり”を見せてくれるのは食べものを前にしたときだけだ。
食べもの以外には、まったく冷淡な子である。
ぼくからのコマンドさえ無視する。
それだけにきょうの気まぐれは、ただの気まぐれであってもぼくにはウエルカムだ。
「犬だからこうあらねばならない」と強制するつもりはない。
そんなことは、10歳を迎えたルイはすっかり承知いる。
ぼくとの関係の根本が少しも変わらないのだから、年老いて偏屈になっていってもかまわない。
ふたりして、嫌われないように、でも、自分には正直で、偏屈になっていこうと思う。
それがぼくたちのこれからの共通の生き方だ。
あんがい、ぼくたちは似た者同士。
いや、ルイがぼくをパクってくれたのだろう。