自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆米国版メディア・スクラム

2009年12月23日 | ⇒メディア時評

 日本のマスメディアの取材手法を否定的に表現する言葉として「メディアスクラム(media scrum)」がある。メディアスクラムとは、テレビ局や新聞社、雑誌社の記者やカメランが大人数で取材に押しかけること。集団的過熱取材ともいう。「横並び取材、みんなで渡れば怖くない、そんな日本的な取材手法」と説明できる。どうやらアメリカでも同じ現象が起きているようだ。ゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズの不倫騒動を巡る報道が過熱している。

  新聞各紙やテレビのニュースをまとめる。11月27日、フロリダ・オーランドの自宅前でウッズが乗用車で自損事故を起こし重傷との一報を、地元テレビ局が報じた(11月27日)。スーパースターのけが。マイケル・ジャクソンの急逝も記憶に新しいアメリカでは、国民の関心が一気にウッズに集中したのも無理はない。ウッズは顔面に軽い傷を負った程度で、病院で手当して帰宅したが、ウッズの退院後の姿を取材しようと、「ゲートコミュニティ」と呼ばれる塀で囲まれた高級住宅街のメインゲートにはテレビ中継用のSNG(Satellite News Gathering)車がずらりと並んた。このSNG車はカメラで撮影した素材(映像と音声)を電波として通信衛星を経由させ、本局に伝送する装置を搭載していて、パラボラアンテナが付いている。つまり、「おわん」の付いた車が横一列に並ぶ、日本のニュース現場ではおなじみの光景がオーランドでも再現されたのである。

  ウッズは姿を現さず、おそらくゲートコミュニティの住民からのクレームもあったのだろう、おわん付きの車は徐々に減っていった。ところが、その自損事故の原因がウッズの不倫を巡る夫婦げんかと一部で報じられ、報道合戦が再燃した。今度はスキャンダル専門のタブロイド紙などもこれに参戦してきた。ここがアメリカの面白いところで、「私が不倫相手」と称する女性が次々と10人以上も名乗り出ている。ここまで過熱したのは、超有名人という一方、ウッズは慈善事業に熱心な模範市民というイメージが定着していて、それが覆った。その落差感がさらに国民の関心を引き付けたのだろう。

  日本の取材ならば、ここで新聞とテレビそれぞれのメディアのまとまって話し合い、ウッズ側の代理人と交渉し記者会見を設定するという「手だれた」手法を用いる。が、独立独歩の取材でスクープを身上とするアメリカのメディアには「一致団結して、ウッズを会見に引っ張り出そう」という雰囲気が取材現場にないだろう。

  ともあれ、ウッズのスキャンダル報道から感じることは、経済の閉塞感に覆われたアメリカ国内の関心事が内向き、あるいは「巣ごもり」状態になっているのではないか、と。

 ⇒23日(水)夜・金沢の天気  くもり   

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