自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★文明論としての里山3

2009年12月30日 | ⇒トレンド探査

 日本の里山は、1960 年代から始まったとされる燃料革命や大規模な宅地開発などで、その役目を終えて荒廃の道をひた走っているかのように見えた。ところが、ここ数年で里山の価値が見直されつつある。多くの動植物を育み、人が恩恵を受ける場所としての里山。「生態系サービス」という言葉が使われ始めていることはその象徴である。里山を守るための行政や市民などによる取り組みが始まっている。里山保全は日本の環境問題(二酸化炭素の吸収、生物多様性の保全)を打開するキーワードの一つになっているともいえる。

         ジョグラフ氏が見た能登半島の里山

  さらに、<SATOYAMA=里山>は国際用語として認知されようとしている。その認知度を一気に高めたのが、生物多様性条約第9回締約国会議(CBD/COP9、ドイツ・ボン)で日本の環境省と国連大学高等研究所が主催したサイドイベント「日本の里山・里海における生物多様性」(2008年5月28日)だった。スピーチの中で、環境省の黒田大三郎審議官(当時)らが「人と自然の共生、そして持続可能社会づくりのヒントが日本の里山にある」と述べ、科学者による知識と伝統的な自然との共存を組み合わせることを目的とした「里山イニシアティブ」を生物多様性の戦略目標として提唱した。さらに、石川県の谷本正憲知事は「石川の里山里海は世界に誇りうる財産である」と強調し、森林環境税の創設による森林整備、条例の制定、景観の面からの保全など具体的な取り組みを紹介した。

  これに、生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラフ氏は、日本が提唱する里山イニシアティブに「成長を続けて現代的な社会を形成した一方で、文化や伝統、そして自然との関係を保ってきた。そのコンセプトは世界で有効であり、日本の経験に大きな期待が集まっている」と、条約事務局として支援を表明した。COP10の名古屋開催が予定されていたこともあり、会場に集まった海外の環境NGOや研究機関、メディアの関係者の脳裏には2010年のテーマとして<SATOYAMA=里山>が刻まれた。

  その後、ジョグラフ氏は谷本知事がスピーチで紹介した日本の里山を実際に見てみたいと能登半島を訪れる。名古屋市で開催された第16回アジア太平洋環境会議(エコアジア、2008年9月13日・14日)に出席した後、15日に石川県入り、16日と17日に能登を視察した。初日は能登町の「春蘭の里」、輪島市の千枚田、珠洲市のビオトープ、能登町の旅館で宿泊し、2日目は「のと海洋ふれあいセンター」、輪島の金蔵地区を訪れた。珠洲の休耕田をビオトープとして再生し、子供たちへの環境教育に活用している加藤秀夫氏(同市立西部小学校長=当時)から説明を受けたジョグラフ氏は「Good job(よくやっている)」を連発して、持参のカメラでビオトープを撮影した=写真=。ジョグラフ氏も子供たちへの環境教育に熱心で、アジアやアフリカの小学校に植樹する「グリーン・ウェーブ」を提唱している。訪れた金蔵地区で、里山に広がる棚田で稲刈りをする人々や寺参りをする人々を目の当たりにしたジョグラフ氏は「日本の里山の精神がここに生きている」と述べた。金蔵の里山に多様な生物が生息しており、自然と共生し生きる人々、信仰心にあふれる里人の姿に感動したのだった。

  能登視察はジョグラフ氏にとって印象深かったのだろう。その後の生物多様性に関する国際会議で、「日本では、自然と共生する里山を守ることが、科学への崇拝で失われてしまった伝統を尊重する心、文化的、精神的な価値を守ることにつながっている。そのお手本を能登半島で見ることができる」と述べていたそうだ。

 ⇒30日(水)夜・金沢の天気   くもり

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