「狼花」(新宿鮫IX)大沢在昌 光文社・2006年
キャリアとノンキャリアの警察官の対立はドラマ「踊る大捜査線」でよく知られるようになったかもしれない。
それより遥か前から大沢在昌は新宿鮫シリーズでそれをリアルに、ときに鮮明過ぎるほどに描き出していた。
シリーズ9作目にあたるこの作品はそれまでと少しテイストが違って来た。

「盗品を売買するマーケット。その裏に蠢く広域暴力団、外国人マフィア。利用して行こうとするキャリア警官と、対立する新宿鮫こと鮫島」
鮫島が単独で捜査を行うエクストラな存在なのは変わらないが、読んでいると、今までのシリーズと明らかに違ってることがある。
アクション、ドンパチが少ない。文章が極めて内省的だ。
犯罪に関してどう考えるか、鮫島の言葉、上司、犯罪者の言葉を借りて、出てくる出てくる。
これは大沢氏の考えを登場人物の言葉として言わせてるのだろう。
そしてその「考え」がなかなか読ませる。
例えば、鮫島の友人は語る。
「麻薬汚染で苦しんでいる先進国は、俺に言わせればかつての植民地政策のしっぺ返しをうけているのさ(中略)かつて大日本帝国は中国大陸を侵略し、そこに傀儡政権を作り上げた。中国を完全に植民地化していたとはいわないが、彼らの国土を蹂躙していたことは事実だ。そして今、この国やこの街が、中国人がもちこむ犯罪に痛めつけられているとしたら、歴史って奴は、いつか必ずツケを支払わせるものだ、と思えてくる」
「犯罪も戦争も、結局は根っこは同じだ。経済なんだよ。そういう意味じゃ、石油と麻薬はよく似ている。いつも国際紛争の火種になるところにあるんだ。現象面がかりでなく、経済面から犯罪を見ると、いろんなことがわかるかもしれんぞ」
こんな薀蓄(?)が至るところにあり、うなりながら読ませてもらった。
肝心のストーリーだってなかなかのもの。
・どうしてそんなに自分の身を粉にして捜査にあたるのだ?
・なぜ一人の女をめぐって、それほどまでに犠牲を払うのだ?
その「なぜ?」に対する答えはない。
直接答えてくれていない。
しかし、読んでいると、その答えが伝わってくるのは
小説家としての上手さにあるのだろう。
日本の警察小説の金字塔と言っても過言ではない新宿鮫シリーズ。
もし一度も読んだことがないとすれば、
あなたはとても幸運だ。
これから読めるのだから。
もし可能なら第一作から読んで行くことを薦める。
個人的には「毒猿」の鬼気迫るキャラクター造形がいまだに忘れられない。
シリーズをずっと読んで来た人には、意外な結末が待っている。
キャリアとノンキャリアの警察官の対立はドラマ「踊る大捜査線」でよく知られるようになったかもしれない。
それより遥か前から大沢在昌は新宿鮫シリーズでそれをリアルに、ときに鮮明過ぎるほどに描き出していた。
シリーズ9作目にあたるこの作品はそれまでと少しテイストが違って来た。

「盗品を売買するマーケット。その裏に蠢く広域暴力団、外国人マフィア。利用して行こうとするキャリア警官と、対立する新宿鮫こと鮫島」
鮫島が単独で捜査を行うエクストラな存在なのは変わらないが、読んでいると、今までのシリーズと明らかに違ってることがある。
アクション、ドンパチが少ない。文章が極めて内省的だ。
犯罪に関してどう考えるか、鮫島の言葉、上司、犯罪者の言葉を借りて、出てくる出てくる。
これは大沢氏の考えを登場人物の言葉として言わせてるのだろう。
そしてその「考え」がなかなか読ませる。
例えば、鮫島の友人は語る。
「麻薬汚染で苦しんでいる先進国は、俺に言わせればかつての植民地政策のしっぺ返しをうけているのさ(中略)かつて大日本帝国は中国大陸を侵略し、そこに傀儡政権を作り上げた。中国を完全に植民地化していたとはいわないが、彼らの国土を蹂躙していたことは事実だ。そして今、この国やこの街が、中国人がもちこむ犯罪に痛めつけられているとしたら、歴史って奴は、いつか必ずツケを支払わせるものだ、と思えてくる」
「犯罪も戦争も、結局は根っこは同じだ。経済なんだよ。そういう意味じゃ、石油と麻薬はよく似ている。いつも国際紛争の火種になるところにあるんだ。現象面がかりでなく、経済面から犯罪を見ると、いろんなことがわかるかもしれんぞ」
こんな薀蓄(?)が至るところにあり、うなりながら読ませてもらった。
肝心のストーリーだってなかなかのもの。
・どうしてそんなに自分の身を粉にして捜査にあたるのだ?
・なぜ一人の女をめぐって、それほどまでに犠牲を払うのだ?
その「なぜ?」に対する答えはない。
直接答えてくれていない。
しかし、読んでいると、その答えが伝わってくるのは
小説家としての上手さにあるのだろう。
日本の警察小説の金字塔と言っても過言ではない新宿鮫シリーズ。
もし一度も読んだことがないとすれば、
あなたはとても幸運だ。
これから読めるのだから。
もし可能なら第一作から読んで行くことを薦める。
個人的には「毒猿」の鬼気迫るキャラクター造形がいまだに忘れられない。
シリーズをずっと読んで来た人には、意外な結末が待っている。