頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『ウォーターゲーム』吉田修一

2018-06-30 | books
どっかで読んだような気がすると思ったら、「太陽は動かない」「森は知っている」の続編だった。でも読んでなくても、覚えてなくても影響なし。

ダムを爆破するというテロ発生。フランスの水メジャーと日本国政府の大物と日本の企業が水力発電機能に打撃を与え、水道事業を民営化しようと目論んだ。しかし、テロを中止することにしたのに、何者かがテロを実行した。別のダムを爆破しようとするグループと阻止しようとするグループ・・・

うーん。つまらなくはないけれど、ものすごく面白いというほどでもなかった。でも、吉田修一の作品はつい読んでしまう。

インターナショナルな丁々発止がふんだんに盛り込まれていて、何というか軽い「ジェームズ・ボンド」的なものと、重厚な国際謀略小説の中間のような感じだった。どうしてそんなに楽しめなかったのかよく分からない。来年読めば十分に楽しめる、なんてことがあるのだろうか。

ウォーターゲーム

今日の一曲

J.D. Southerで、"You're Only Lonely"



では、また。
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『未来』湊かなえ

2018-06-28 | books
章子は小学生。父親のことが大好きだったが亡くなってしまった。母はしょっちゅう具合が悪くなってしまい、家事もままならず、私が自分で何とかしないといけない。学校では実里という嫌な子がいて、私が臭いといじめてくる。担任の先生は篠宮先生から林先生に変わった。林先生は具合の悪い母の事を気にかけてくれるが少し過剰のようだ・・・の所に手紙が来る。30歳になった自分が未来から書いた手紙だというのだ。将来いいことがある。東京ドリームマウンテン30周年のしおりが同封してあった。(ディズニーランドを想像させる)・・・

と書いてもあまりストーリーが分からないかと思うけれど、ストーリーがこうだと説明されて、だったら面白そうだから読んでみよう、というタイプの小説ではないと思う。(うまく説明できないことの言い訳)

可哀想な章子の章から始まり、章子の同級生の亜里沙の章、章子の昔の担任の篠宮先生の章、章子の死んだ父親のと、主人公を変えて、違う目線から前に出てきた事件の説明をし、また時間を遡って説明をする。

巧い。ものすごく巧い。

湊かなえらしく、最初は女児っぽい文体が不自然で読みにくく、駄作の臭いがプンプンとしていた。しかし、読み進めると、巧妙に張られた伏線があちこちにあるのが分かる。あの時のあれはああだったからなのか!と思わず膝を叩いて脱臼しそうになる。

湊かなえ作品は、人間が描かれていない、プロットばかりが先行するのが不満だったけれど、本作は人間を深く掘り下げて描いていると思う。

私も、相手の男子も、極端に短いものさしをふりまわし合っていただけなのだ。それを先生が教えてくれなかったら、おばあちゃんを守るフリをした自分が傷つかない手段として、その先も、短いままのものさしをふりまわし続けていたかもしれない。


面白いだけじゃなく、良い話だった。

未来

今日の一曲

Suchmosで、"VOLT-AGE"



では、また。
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『SHOE DOG』フィル・ナイト

2018-06-26 | books
ナイキの創始者による自伝。ナイキ創業後の快進撃については、昔何かの本で読んで多少覚えていたので、記憶をなぞるような読書になるかと思ってたら、全然違った。

オレゴン出身で、大学では陸上部にいた。大学院を出た後、ハワイなどを放浪する。靴に目を付けて、日本のオニツカ(今のアシックス)から靴を輸入することからビジネスを始める。その当時のドタバタや苦労、訴訟を描き、また別の日本の総合商社(日商岩井)と組んで、ビジネスを広げていく。

知らない話だらけでとても面白かった。

エアジョーダンが出た後のような近年の話はほとんどなくて、創業の60年代から70年代が中心。

ビジネスを始め、継続する苦労やコツ、あるいは楽しみがたっぷり描かれている。しかし、いわゆる自己啓発本でもなく、(ビジネスパーソンしか読まない)ビジネス書でもない、比較的万人が読んで面白がれる本だと思う。

フィル・ナイトが、自慢ばかりする爺さん(政治家の回顧録なんで自慢が多すぎる)じゃなくて、自分を客観的に見ることの出来る人なのも、読んでいて清々しかった。

SHOE DOG(シュードッグ)

今日の一曲

MonaLisa TwinsによるThe Beatlesのカバー、"Drive My Car"



二人ともドラマかなにかに出てそうな感じの美人。では、また。
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『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

2018-06-24 | books
高校生優子。父親も母親も何回も変わっており、今二人で暮らしている森宮も、実の父親ではない。女子高生時代の優子の成長と、章を変えて、小さい頃の生活を交互に描いてゆく・・・

おー。これは良かった。

最初、 森宮が実の父親ではないのと、ちょっと変わった男性なのはすぐに分かる。そして直前まで母親だった梨花はもう一緒に暮らしてないのもすぐに分かる。しかし、なぜそういう状態になったのかはそう簡単には教えてもらえない。じれったい。じれったい。その我慢がやがて快感に変わってゆく。そう、そうよ、もっと焦らして・・・

段々と少しずつ、実の父親や母親がどうなったのか分かる。なぜ37歳の男性が一人で女子高生を育てなければならないのか分かっていく。最初、森宮のボケた感じが、「こんな男で大丈夫か?」と思うのだけれど、やがて、人柄が分かってくると、最初の印象が間違っていたことがわかる。この辺がうまい。

また、優子の描写もいい。美人でモテるのだけれど、そのメリットを謳歌して生きているというわけでもない。屈折してるとまではいかないけれど、やや内向的で、よくものを考えてる。すごく魅力的な人だと思った。

たぶん、最大の読みどころは、血なんて繋がってなくても関係ない/あるということだろう。ラスト近辺の優子と の言動に胸を熱くしてしまった。(胸肉の照り焼き出来上がり) かなり、オススメ。

そして、バトンは渡された

今日の一曲

既に話題の8歳のドラマー。よよかによる、Led Zeppelinの、"Immigrant Song"



きっとジョン・ボーナムの草葉の陰で仰天してるだろう。では、また。
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店名にツッコんでください191

2018-06-22 | laugh or let me die
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『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ジェームズ・M・ケイン

2018-06-20 | books
あちこちを転々としながら暮らす男、フランク・チェンバース。カリフォルニアの食堂で働くことになった。店主はギリシャ人のニック・パパダキス。奥さんはコーラ。フランクは奥さんとできてしまい、一緒に旦那の殺害を目論む・・・

80年も前に書かれた小説。よくあるファム・ファタールものだとタカをくくって読んでいた。

すると、実はちょっとややこしいリーガル・サスペンス的側面があって、驚いた。その部分は一読してもよくわからなかったので、再読してしまった。なかなかよく出来ている。ものすごく面白いというほどではなかったけれど。

何度も映画化されているそうで、ジャック・ニコルソン主演のは観たつもりでいたけれど、本の内容にほとんど記憶がないので、多分観ていないらしい。人の記憶とは(特に私の記憶は)当てにならないということを改めて実感す。

記憶は嘘をつく、と言うけれど、たまに嘘をつくこともある、と言うより、嘘しかついてないというのが実感。きおくんの、うそつきー!

郵便配達は二度ベルを鳴らす (新潮文庫)

今日の一曲

「郵便配達は二度ベルを鳴らす」ということで。The Beatlesで、"Please Mr. Postman"



そうそう、本のタイトルは内容と全く関係がなく、郵便配達は一切出てこなかった。では、また。
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『消えたベラスケス』ローラ・カミング

2018-06-18 | books
英国バークシャー州のレディングで書店を営んでいたジョン・スネア。1845年地元紙の広告欄に注目した。オークションで「チャールズ1世の半身像(推定ヴァン・ダイク作)が売りに出されるのだ。8ポンドで競り落としたスネアは、その作品がベラスケスの描いたものではないかと考える。様々な文献を調べ、自分の論拠を固めていく。しかし、不運な裁判に巻き込まれる・・・ベラスケスの絵、歴史がふんだんに織り込まれたノンフィクション。

小説だと思って読んだ(そう思う方がおかしい)ら、まさかのノンフィクションだった。

しかし、絵の蘊蓄や、スネアの人柄など、読みどころが多く楽しめた。(ベラスケスに興味がないとちと苦行になるかも知れない。)絵の来歴が正しいと証明するのはなかなか難しいことなのが分かった。

プラド美術館でいつかベラスケスの絵を見てみたい。

消えたベラスケス


今日の一曲

DA PUMPで、"U.S.A."



では、また。
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『死刑囚』アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム

2018-06-16 | books
17歳の時に、少女を殺したとして、死刑囚になったジョン・マイヤー・フライ。刑務所で発作を起こして、死亡した。スウェーデンで暴行事件を起こした男ジョン・シュワルツ。カナダのパスポートを持っているが、全くの別人のものだと分かった。まさか、アメリカで死亡したはずの、フライと同一人物なのか・・・

ネタはすぐに判明してしまう。興味を持って読み続けることが段々難しくなってしまう。しかし、ラストで大きく背負い投げしてくれた。

※以下軽くネタバレ(全でネタバレするわけではないです)

どうやってジョンが刑務所を脱出したか、明らかになるけれど、これはちょっと現実味がない気がする。しかし、大きなネタは、死刑を認めないスウェーデンは、死刑になることが分かっている国へ犯人を引き渡さない事になっていることだ。EUとアメリカの合意でもそういう事になっているらしい。逮捕したスウェーデン側はアメリカに引き渡したくないのだが、アメリカとしては刑務所から逃亡した犯人はどうしても帰国させなければならない。その辺をどうするかがなかなか面白い。もう一つは殺人事件の真相。どうやらジョンは殺人事件の真犯人ではないらしい。しかし誰がやったのか、捜査が全くされないままラストに向かうので、そこは気にするなということかと思って読むと、驚くような結末がある。

ということで、なかなかに楽しめた。

死刑囚 (ハヤカワ・ミステリ文庫)死刑囚 (RHブックス・プラス)

今日の一曲

平井堅で、「トドカナイカラ」



では、また。
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『バッグをザックに持ち替えて』唯川恵

2018-06-14 | books
45歳で結婚して(Wikipedia情報)すぐに飼った犬はセントバーナードだった。暑い夏には散歩出来ない。それで軽井沢に引っ越すことになった。執筆が忙しく、運動など全くやってない筆者。しかしすぐそばには浅間山がある。山登りのかなりの経験者の旦那さんの助けを借りつつ、登り始める。素人の彼女が段々と山にハマっていく様を描いたエッセイ。

いやいや、パラパラめくっていた時には大して面白くなさそうだった。しかし、勧められて読み始めたら、とっても面白かった。

良かったのは、唯川さんが自分のポンコツさを一切隠さず、また具体的に表現してくれていること。旦那さんが厳しくも的確なアドバイスをしてくれること。(運がある人は、いいパートナーに恵まれるのだと思う)(あるいは、持つべきものはやはりいいパートナーということなのだろう)

山開きの直後の富士山で、濡れたレインウェアだと室内が濡れるからと、山小屋の外で、濡れながらカップ麺をすすったり。アイゼンを付けて、冬山に行ったり。そして、エベレストが観られるカラ・パラール(5545メートル)にまで登ることになる!

ここと、谷川岳で一ノ倉沢を登っていく人達を眺める所は、自分でも行ってみたくなった。一応、ハイカットのトレッキングシューズやらゴアテックスのレインウェア上下やら、大型のザックやら、バーナーやらは持っている。持っているだけで最近全然使ってない。

いいエッセイは、読んだ人に何かをやる気にさせてくれるものだと思うけれど、まさに、「ちょっと」山に登りたい気持ちにさせてくれた。

バッグをザックに持ち替えて

今日の一曲

Young MCで、"Bust A Move"



では、また。
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『バベる!自力でビルを建てる男』岡啓輔

2018-06-12 | books
高専を卒業後、住宅メーカーを二年で辞め、鉄筋工などをしながら一級建築士の資格を取った筆者。奥さんから一軒家を建てて欲しいと頼まれた。何とか安い土地を探し、競売物件を狙うがなかなかいいものがない。そして、三田で5千万の土地を見つけ、1500万まで値切る。そしてそこに、自分でビルを建てるというドキュメント。

なかなか面白かった。

コンクリートは、水を多く入れると加工しやすいけれど、長持ちしないものになる。(現場で水増ししてたりするらしい)筆者は自分でセメントと水をこねて、水分37%をキープするようにした。すると200年ももつコンクリートになるそうた。現在作られているコンクリの耐用年数は50年程度らしい・・・そんなんだから日本の家は長持ちしない消耗品になってしまってるわけだ。

というような建築うんちくがあちこちにあり、また筆者の建築に向ける哲学のようなものも読んでいてすごく好感を持てた。こういう人になら是非家を建てて欲しいと思う。

「タモリ倶楽部」で、くだんの家「蟻鱒が登場し、タモリさんにいじられたそうだ。「蟻鱒鳶ル」(アリマストビル)とGoogle Mapに入れるとちゃんと検索できる。田町駅にほど近いいい場所だ。(岡啓輔と検索しても出てくるのには驚いた)

バベる! (単行本)

今日の一曲

ペトロールズで、"ASB"とか"Profile"



では、また。
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『あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続』宮部みゆき

2018-06-10 | books
江戸、袋物を扱う三島屋では怪談を聞く。主人の姪、おちかは怪談を「聞いて
聞き捨て」る。他には漏らさない。という設定の百物語シリーズ、第五弾。

今までで一番良かったんではなかろうか。特に、最初の「開かずの間」が素晴らしい。

とっても怖い。それだけでなく、人の我欲がいかに周囲の人の人生、そして自分の人生を狂わせるか。突き刺さる。

ある日突然、梅吉が死に、その騒動の真っ最中に徳助が三好屋にやって来て、おりくとの縁談を白紙にし、おみちを嫁にもらいたいと言い出すまでは。

人は弱いから、欲をかくから、いろんなのとを願う。その弱さにつけ込む行き逢い神は、喰らうものには困らない。


義理と人情、恐怖、そして教訓がここにはある。

「おちか、嫌な顔をしちゃいけないよ。人ってのはね、昔の出来事をよく学んでおかないと、同じ過ちを繰り返してしまうんだからね」

そして本作で一区切り(第一部終了?)ななるような終わり方だった。次はどんな聞き方になるのだろう。楽しみ。

あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続

今日の一曲

Starcrawlerで、"I Love LA"



では、また。
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店名にツッコんでください190

2018-06-08 | laugh or let me die
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『サイレント・スクリーム』アンジェラ・マーソンズ

2018-06-06 | books
キム・ストーンは英国ウエストミッドランド地区の刑事。カワサキの大型バイクに乗り、古いトライアンフのレストアもしている。連続殺人事件が発生した。遺跡の発掘場所に昔あった児童養護施設と関係のあった人間が続けて殺されているようだ・・・

主人公のキャラがいい。他人のことを慮ることが難しい。その分、部下のブライアントがフォローする。

児童養護施設であったおぞましい事件。現在に繋がる憎悪。その辺りの設定も巧い。ただ後半若干だれてしまった。Amazon.co.ukのレビューを見ると、本作の評価は結構高いのだが、第二作以降はさらに高くなっているので、第一作を我慢できれば、以降楽しめるだろうと思いつつ読んだ。(翻訳され続けないと意味ないけれど)

サイレント・スクリーム (ハヤカワ・ミステリ文庫)

今日の一曲

サイレント・スクリームということで、槻坂46で、「サイレントマジョリティー」



いつだったか、「欅って、書けない?」の中で、「オダナナはなぜモテるか?」という特集をやっていたけれど、確かに、彼女はいい人だった。男性とか女性を超越して、人としてすごくいい奴だった。モテて当然。



では、また。
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『それまでの明日』原尞(はらりょう)

2018-06-04 | books
探偵沢崎は、金融会社ミレニアム・ファイナンスの新宿支店の支店長の望月から依頼を受ける。老舗の料亭に対しての融資の話があるのだが、そこの女将について調べて欲しいというもの。会社内の派閥争いの関係があるので、調査していることは誰にも知られたくない、来週の土曜日まで連絡して欲しくないと言われた。少し調べてみると、件の女将は去年亡くなっていることが分かった。どういうことだろう?電話連絡はよくないだろうと判断して、直接支店に行くと、強盗事件に巻き込まれてしまった。そして支店長は行方不明になっていた・・・

軽妙な会話、筋を通す探偵による、正統派ハードボイルドミステリー。

真相の意外性にあまり心を打たれなかった。私自身の調子の問題なのか、あまり頭に入って来なくて、ラスト近辺同じところを二回読んでしまった。

読書メーターや書評では評判がいいようだけれど、他の人の評価に迎合してもしょうがない。会話や沢崎らのキャラは良かったのだけれど、すごく楽しめたというわけでもなかった。

それまでの明日

今日の一曲

The Rolling Stonesで、"Honky Tonk Women"



では、また。
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『ボックス21』アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム

2018-06-02 | books
エーヴェルト・グレーンスは、スウェーデンの刑事。リトアニアからなかば騙されて娼婦になった女性リディアが凄まじい暴力を振るわれ、警察に保護され入院することになった・・・しかし、彼女は人質をとって遺体安置室に閉じこもった。なぜ?・・・暴力を生業にする は、目撃者を脅迫するためなかなか有罪にならない。何とかこいつを有罪にしたい刑事・・・

暴力、ドラッグ。世界一幸福度が高いとされる北欧の国が小説の舞台となると、こういう物騒なものがテーマになることが多い。幸福度が高いからこそ、ちょっとしたことが目立つのか、それとも本当に危険なのか、あるいは小説家独特の「盛っている」ということなのか。いずれにしても、北欧ものの暗さは好み。

本作は、ネタがある程度途中で想像できたので、意外性がやや薄れてしまった。それ以外は、充分楽しめた。

ボックス21 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ボックス21 (ランダムハウス講談社文庫 ル 1-2)

今日の一曲

MONDO GROSSOで、"One Temperature"



では、また。
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