頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓

2021-02-27 | books
七大陸最高峰 無酸素単独制覇を目指した栗城は2018 年にエベレストで亡くなる。彼の番組を作ろうとしたテレビディレクターが、栗城の真の姿に迫るドキュメント。

綿密な取材をもとにした渾身の一作。素晴らしい。何度もうーむと唸ってしまった。

読むと決めてる人は以下ネタバレするので、スルーして下され。


分かったことを箇条書きにすると、

1.彼はエベレストに登れるような実力はなかった。努力してから挑むというよりも、先に南西壁という超難関ルートから登るという「妄想」にかられていた。
2.「無酸素」と謳いながらどうも酸素を吸っていたようだ。
3.「単独」とは言えないような大人数のサポートを受け、自分で背負える荷物もシェルパに持たせたり、ザイルもシェルパに張ってもらっていた。
4.凍傷で手の指を失うが、事故ではなく、わざとやった可能性がある。
5.政財界のあちこちにコネを作り、クライマーというよりビジネスマンに近い。
6.スピリチュアル系にハマり、占い師にいつ頂上をアタックすべきか訊いていた。
7.メールの返信をしない、電話に出ない、当日ドタキャンをする。


こんな風にまとめてしまうと身も蓋もないが、著者は言葉を選びながら、故人の尊厳を傷つけないよう慎重に書いている。自分の近い知り合いに似た言動をする者がいて、ある種の「症候群」なのかも知れないと思った。

 

今日の一曲

フジファブリック feat.幾田りらで、「たりないすくない」



では、また。


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店名にツッコんでください256

2021-02-25 | laugh or let me die
店名にツッコんでください256
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『ミライの授業』瀧本哲史

2021-02-23 | books
なぜ勉強しなければならないのか?14歳に向けて様々なな偉人を紹介しながら、その問いに答える。

中学生向けといっても、十分に面白い。日清戦争で脚気が原因で亡くなる兵士が多いのを、細菌のせいだと間違えた森鴎外。統計学を駆使したナイチンゲール、暦を正確にするために、地球の大きさを測定する目的で蝦夷地に行った伊能忠敬。

14歳のときにこんな本を読んでいたら、自分の人生は、変わって・・・(はなかったかな。他にも影響力の強い本を山ほど読んでたから。松本清張とか森村誠一とか高木彬光とか)いや、現代ならばっちり変わっていただろう。

 

今日の一曲

aikoで「ハニーメモリー」



知り合いで、aikoオタクというか、ライブに頻繁に行っている人がいるのだけれど、彼女の魅力は、彼の探知している百分の一も理解できていない。

では、また。



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『春や春』森谷明子

2021-02-21 | books
俳句好きの生徒が中心になって、女子高に俳句同好会を作り、俳句甲子園に挑むという話。

昔テレビでちょっと観たことがある程度。俳句は、「プレバト」で夏井いつき先生が出演者の俳句をぶった切ってるのを面白く観たぐらいの基本未知の世界。

これがなかなか楽しかった。テーマに沿った俳句で相手方と勝負するのだけれど、ディベートで、相手の句より、自分たちの方が上であると審査員に納得させる。この過程がなかなかエキサイティング。

文化系サークルで勤しむ学生たちの青春も良かったけれど、俳句にも興味を抱いた。

早速一句。

もうそろそろ
収束しても
いいコロな

 

今日の一曲

I love you Orchestra Swing Style & mahinaで、"Night Distance"



では、また。


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『一橋桐子(76)の犯罪日記』原田ひ香

2021-02-19 | books
一橋桐子76歳、独身。親友のトモが夫を喪った後、一緒に暮らすことになった。楽しい日々だった。しかし、トモが病没してしまい、精神的にも金銭的にも困窮し、刑務所に入れば楽になれると考え、長く刑務所にいられる犯罪を犯そうとするが・・・という話。

意外な収穫。独居老人の悲哀とも現実とも受け取れるが、根底には、桐子の性格の良さがあり、簡単には犯罪者なれない。

先が読めない展開と、ハートウォーミングさ双方ともグッド。

 

今日の一曲

ずっと真夜中でいいのに。で、「暗く黒く」



では、また。


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『大人のための恐竜教室』真鍋真・山田五郎

2021-02-17 | books
恐竜とは何か、新しい学説は、歴史など、長いこと恐竜に触れることのなかった大人が読んで楽しめる対談。

恐竜は守備範囲外なので、書いてあることのほぼ全てが初耳だった。でも分かりやすく書かれているので、充分理解できた。

恐竜は鳥と近いことや、産業革命が進んだ英国で、道路工事で出た化石から近代的な古生物学が始まったという話、興味深かった。

かなり親しい知り合いが恐竜好きなのだが、少しは近づけただろうか。

 

今日の一曲

藤井風で、"Tsumi No Kaori"




では、また。


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『生きるぼくら』原田マハ

2021-02-15 | books
麻生人生24歳、引きこもり。ひどいいじめにあって以来。母と二人暮らし、母は仕事を掛け持ちして大変そう。すると母が家出してしまった。書き置きには、届いた年賀状の差出人の誰かが助けてくれると書いてあった。その中に昔大好きだった蓼科のおばあちゃんのものがあった。思い切って出掛けてみると、少しボケ始めていたが、快く受け入れてくれた。そしてもう一人若い女性がいた。彼女も孫だった。おばあちゃんは、手間暇をかけた古い農法で米を作っていたが、やめると言う・・・

とっても良かった。人生の再生物語。

腹が減りさえしなければ、なんだっていいんだ。そう思って、味気ない食物を、機械的に流しこんできた。

そんな彼が米作りに挑む。その過程も面白かった。そして、

あの頃の自分は、あまりにも弱かった。少し強い風が吹けば、たちまち飛ばされてしまう若木のようだった。

こんな風に自分を客観視できるようになったのだ。ええ話や。

 

今日の一曲

MIZで、「パレード」



では、また。


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Netflixドラマ「ザ・クラウン」

2021-02-13 | film, drama and TV
シーズン4まで観た。エリザベス女王の少女時代から、ダイアナ妃とチャールズ皇太子の破局までを描く、ドキュメント風ドラマ。奔放な妹マーガレットやカミラとずっと不倫し続けていたチャールズ皇太子などのスキャンダラスな描写が多く、下世話な話好きな私にとって、大好物だった。

フィリップ、チャールズを割と悪者に描き、エリザベスとダイアナを割と善人に描いてるが、そう描いて欲しいという(私の?みんなの?)願望が具現化されていた。

首相との会話などどこまでが事実でどこからがフィクションなのか判別できないものが多かったけれど、面白かったから、いいか(いいのか?)

 
 

今日の一曲

「関ジャム」で紹介されてた。りりあで、「浮気されたけどまだ好きって曲。」



では、また。




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店名にツッコんでください255

2021-02-11 | laugh or let me die
店名にツッコんでください255
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『レンブラントを取り返せ』ジェフリー・アーチャー

2021-02-09 | books
「クリフトン年代記」の中で作家の登場人物が書いていた小説が、スピンアウトしたのがこれ。高名な弁護士である父に逆らって大学で美術を専攻し、刑事になったウィリアム・ウォーウィック。担当は美術品盗難。大物詐欺師フォークナーの仕業だと分かっているのに立件できない。フィッツモリーン美術館から盗まれたレンブラントも彼の元にあるに違いない。恋をしたり、チャーチルのサインの偽造事件などを解決していき、そしてレンブラントを奪還できるか・・・

うおー!面白すぎて、終わるのが悲しくなってしまった。

英国の新聞デイリーテレグラフが「もしノーベル賞にストーリーテリング賞があったら、彼が取るに違いない」としただけあって、立ったキャラクターに、二転三転四転するプロットで読む者を翻弄する。

本国では昨年秋に第2作、今年第3作が出るそうだ。80歳の御大にはなるべく長生きして欲しいものだ。

 

今日の一曲

TENDREで、"HOPE"



では、また。



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『羊の国のイリヤ』福澤徹三

2021-02-07 | books
健美フーズに勤める入矢は会社の食品偽装を知り、知り合いの記者に情報をリークする。が、社内闘争に破れ、子会社に飛ばされた。そこでのパワハラを公にしようすると、やってもいないのに、パソコンに児童ポルノをダウンロードしたとして逮捕される・・・娘は半グレに拉致され・・・会社をクビになり、留置所で知り合った者を頼った先では今まさに殺人が行われようとしていた・・・殺し屋四科田のストイックな生き方を見習い・・・

最初はかったるいなと思っていたら、ウエスタンラリアットをガツンとくらった。途中から激しく面白くなる。大薮春彦原作、村川透監督、松田優作主演の映画を彷彿とさせる。

果てしない暴力と怨念で、羊としてぬるま湯に生きるイリヤが再生+四科田の哲学の物語だった。

「この世は自分以外になにもない。あんたは自分の人生という映画を観ている、たった一人の観客だ」

「世間のこたあ、どうでもええ。客観ちゅうのは想像上の主観や」

「過去は記憶、現在は感覚、未来とは想像だ」

「恐怖も苦痛も実体はなく、意識の範疇にある。意識の範疇にあるものは意識で制御できる。苦痛とは、物質である肉体が非物質である意識に影響して起きる。意識もまた肉体に影響を与える。ストレスからくる病がその典型だ。恐怖や苦痛を克服するには、意識と肉体のつながりを断ち切ればいい。それには死を覚悟することだ」

 

今日の一曲

ROTH BART BARONで、「極彩 | I G L (S)」



では、また。


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『コロナと潜水服』奥田英朗

2021-02-05 | books
妻の不貞がきっかけで、葉山の古い家でひと夏過ごすことになった小説家。不思議な物音がする・・・<海の家>

メーカーでリストラ対象になり、工場の警備に回された者たちの前に現れたのはボクシングのコーチだった・・・<ファイト・クラブ>

フリーアナウンサーがプロ野球選手と付き合っている。最近彼の成績が良く、色んな女がつきまとってくるようになった。紹介された占い師に会うと・・・<占い師>

小さな息子は、コロナの危険がある場所を探知する能力があるのか・・・<コロナと潜水服>

初期型のフィアット・パンダが欲しくて探したら、状態の良いのが新潟で見つかったので、買いに行った。乗ってみると、カーナビが不思議な指示をし始めた・・・<パンダに乗って>

共通するテーマは、不思議な現象。ニヤリとさせられたり、ハッとしたり、とても良い短編集だった。特にパンダは最高の話だった。

 

今日の一曲

yamaで、「春を告げる」



では、また。


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映画「ビリーブ 未来への大逆転」

2021-02-03 | film, drama and TV
先日亡くなった合衆国最高裁判事ルース・ベイダー・キンズバーグの若い頃を描いた伝記的映画。ハーヴァードのロースクールに入学したが、子育てにも忙しい上に夫は癌になってしまう。トップの成績なのに、卒業後弁護士事務所には就職出来なくて、大学で教えることになった。母親の介護をする男性が控除を受けられないとい男女差別で、裁判を闘うことになった。

素晴らしい映画だった。差別と闘う事の大変さ、根源的意義について大いに考えさせられた。

こういう人を後に最高裁判事に任命するというところに、日本にはない、アメリカの懐の深さを感じるのだが、その深さもこの4年ほど消え失せていた。また復活するのだろうか?

 

今日の一曲

椎名林檎の「丸の内サディスティック」 藤井風によるカバーで。



では、また。



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『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ

2021-02-01 | books
裕福な女性ダイアナが葬儀屋で自分の葬式の予約をした。そしてその日に殺された。謎を解くのはスコットランドヤードをクビになったホーソーンと、一緒に本を書こうとするホロヴィッツ。ダイアナの息子は有名な俳優、ハリウッドで暮らしてる。彼女は昔、車を運転してる時に、飛び出してきた二人の児童をはねた。一人は死亡、一人は障害を抱えてしまった。しかし彼女は無罪に。その時の事が関係してるのか・・・

こういう、本格的推理小説は昔大好物だったのだけれど、近年ほとんど読んでない。妊娠中酸っぱいモノが食べたい的な嗜好の変化なのだろうか。

面白かったのだけれど、絶賛する多くの人の60パーセントほどしか、楽しんでいないと思う。

ある意味似ている、同じ英国ミステリーのフロストシリーズは600パーセント楽しめるのに。

根本にあるお下品さとか、育ちの良さとか悪さとかが関係してて、本人には説明しようがないことなのかも。

 

今日の一曲

Omoinotakeで、"One Day"



では、また。


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