頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『バッドタイム・ブルース』オリヴァー・ハリス

2013-10-08 | books
ロンドンハムステッド署の刑事ニック・ベルシーは金があればつかってしまう。ギャンブルに借金、ついには住むところもなくなってしまった。高級住宅地の住人が行方不明になったという通報に金の匂いをかぎつけたニックは、そこの住人が本当に行方不明になったことを確認し、そこに住むことにした。刑事なのに。行方不明の住人アレックス・デヴェルーについて調べてみると、彼はロシアの大富豪だと分かり、何とか彼の金を自分のものにできないかと考える。すると殺人事件に巻き込まれ…

うーむ。単なるハチャメチャ悪漢小説かと思っていたら、けっこうややこしい経済犯罪小説でもあり、よくできたコン・ゲームでもあった。

そんなに悪くないのだけれど、ニックが何かを調べるために自分の身元を隠したりあるいは隠さないで誰かに会うと、こちらが何も情報を提供しないのに、向こうが自分から情報を提供してくれる、という都合のいい場面が多すぎる。全体が全ておとぎばなしのようなフィクションだったらよいのだけれど、他の場面はかなりリアルなので、そこだけリアリティが欠けているとバランスが悪い。そして、長すぎる。これだけの内容に600頁は長い。半分で充分だろう。

続編の予定はあるらしいのでそちらに期待したい。

今日の一曲

RCサクセションで、サマータイムブルース



原発を歌うかなり過激な曲

では、また。

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店名にツッコんでください73

2013-10-06 | laugh or let me die
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『ナイトホークス』マイクル・コナリー

2013-10-04 | books
「リンカーン弁護士」を読んだら、無性に読みたくなった同一作者によるハリー・ボッシュシリーズ。第一作がこれ。

ベトナム戦争から帰還したボッシュはLAPDハリウッド署の刑事。ドールメイカー事件の容疑者が丸腰だったにもかかわらず射殺してしまったので本署から飛ばされていたのだ。今回の事件、見つかった遺体はジャンキーが薬物過剰摂取したように見えた。しかし、彼はボッシュの知り合いだった。ベトナム戦争で一緒に戦った男メドーズだったのだ。殺人として事件にしようとすると、事故死とされそうになる。FBIから圧力がかかったからだ。メドーズはFBIの未解決の事件、銀行の地下から潜って貸金庫を破った事件の容疑者だったのだ。ボッシュは圧力に負けず捜査を進めようとする。加わる妨害。メドーズ殺害事件の真相とは。貸金庫事件の真相とは…

うーむ。面白かった。すごく好きになった。マイクル・コナリーという作家。ハリー・ボッシュというキャラクター。

二転三転するプロットと自分というものを決して見失わないボッシュがいい。アメリカが抱えている問題をうまくストーリーに絡めている、その手腕がいい。

このシリーズは10作以上翻訳されているが、翻訳の権利の高騰(=アメリカでは人気が高い)で最近の作品については翻訳の出版の見通しが立っていないそうだ。それでもほとんどの作品が翻訳されている。もちろん以後の作品も読んでいく所存である。

今日の一曲

ナイトホークスと言えば、みんな連想するのはナイトレンジャー。だよね?ソフトバンクホークスじゃないよね?
Don't Tell Me If You Love Me



では、また。

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『「音漬け社会」と日本文化』中島義道・加賀野井秀一

2013-10-02 | books
「携帯電話の電源はお切りください」「席をゆずりましょう」「危険物の持ち込みはおやめください」「犬のフンは飼い主が責任をもって始末しましょう」…目に耳に飛び込んでくるお願い、諸注意。そうゆうのっていちいち言われへんとアカンのかなー?なんや子供っぽいなー。外国で見かけへんなー。と思っていたところで読んだのがこの本。

ドイツ哲学とフランス哲学が専門の二人の大学の先生。二人とも巷に溢れる「騒音」が大嫌い。店に文句を言い、本社に文句を言い、本人に面と向かって文句を言う。日々マナー違反の者たちと闘う。そんな二人の往復書簡がこれ。

大学の先生というかなり「まとも」な人たちであるはずなのに普段からなかなか過激な言動。しかも哲学者らしく非常に理屈っぽい。

私は騒音よりも目に飛び込んでくる車内の注意のようなビジュアル方面の方が気になっていた。似たようなものと言えば似たようなもの。しかし二人のおじさんがかなり厳しいやり取りを読むと、ちょっと冷めてきた。(悲しくなったときに、自分よりも激しく号泣している人を見ると、自分の涙が止まってしまう。みたいなもの?)

しかも、この二人が「そうですね」「いやいや。おっしゃる通りですね」とやり取りするのかと思えば、そうでもなく反論しあったりしている様がまた面白い。読む人全員が同意できるような内容ではなく、「そこまで言わなくてもいいんじゃないかな」と思われるようなことも書いてあるけれど、そこのあなた。自分が100パーセント同意できるようなことだけを毎日読んでいたら、「脳がちっちゃくなっちゃいませんか?」@今田耕司

ご興味がある方はぜひ第三章だけでも読んでみると面白いと思う。

・ 日本人は不合理であっても、その状況を受容する。
・ 「一般」に向けたスピーカーが立てる音は自分個人に向けたものではないからスルーできる。自分に向けられると非常に苛立つしちゃんと受け答えできない。
・ 日本は、言葉そのものを重要視するよりも、どういう状況で言われたかを大事にするハイコンテクスチャル・カルチャーだ。 

コンテクストを重視する文化は決して悪くないと思う。ローコンテクスチャルなヨーロッパ文化にはない、書かれていないことを読み取ったりできるのは「世界遺産級」の、保存すべき珍しい文化ではないだろうか。ただそれが日本で暮らす者たちにとって生きやすいかと言えばまた話は別なんだけれども。

純粋に言葉に書かれたことのみで勝負しないといけない外交とか議論の場には向かない思考なんだろうと思う。

古き良き日本を残しつつ、しかし感情的にならないで議論できるような、21世紀型ハイブリッド日本人がこれから求められていくのではなかろうか。

今日の一曲

映画「野生の証明」のテーマ 町田義人の「戦士の休息」



懐かしい。闘うおじさん二人にもたまには休息が必要だってことで。

では、また。

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