村上春樹・安西水丸「村上朝日堂」1984年刊 新潮文庫
少々古い本だが、日刊アルバイトニュースに連載されたエッセイ集である。電車とその切符、豆腐について、引っ越しについて、など日常の何気ないことを題材に、彼が軽やかに語る。
アルバイト先を探している人を対象にしているせいか、深刻な切り口はなく。「ふふん」と何気なく読み終えてしまいそうなものばかりである。
これがプロ作家というものであろうか。読み終えてほとんど何も残らない。かと言って無味乾燥でもない。一応興味深く読ませる。感激するとか感動するとか感銘すると言った方向とはまるでベクトルが違う読み物である。
もっとも、アルバイト先を探している人、当時は学生がほとんどだったろうが、に小難しい人生訓を垂れても全く読まれないだろう。
そうしてみるとこういう層を対象として書くのは意外に難しいのかもしれない。気楽な旅先に持参し、気楽に読める、いわゆる暇つぶしにもってこいの一冊である。と言ってしまってはノーベル賞候補作家に対して暴言であろうか。