井岡瞬「代償」角川文庫 2014年刊
数奇な運命に見舞われた主人公がその原因となった遠縁で同学年の男の弁護を受け持つという、稀に見る稀有な設定のミステリー。そのストーリー展開は見事である。人物設定も極端にエグい母子、父などを登場させ、容赦なくストーリーを展開させる。ケレン味のないところが逆に真実性を感じさせ、こんな人間も存在するかもしれない、とふっとも思わせる。
2/3は主人公が虐げられる状況の描写に費やされ、残りの1/3ないし1/4で、元の友人と反撃に出る。意外性のあるストーリーは読者を引き込むが、それに至る動機、心理描写には少し物足りなさが滲む。例えば、あれほど嫌っていた同学年生の弁護を引き受ける気になった心理変化の様子などはもっとドラマチックに描いてほしいと思うのは私だけであろうか。
しかしこれほど虐げられても冷静に、視野広く対処する主人公は見事な生き方である。その点だけでもこの一冊は読むに値する。