原田マハ「生きるぼくら」徳間文庫2012年刊
泣けてきた。本作品は情感に触れる傑作だと思う。引きこもりの若者が蓼科のおばあちゃんの懐に飛び込んで、しかも認知症を発症しているおばあちゃんのところで、少しずつほんの少しずつ自分を取り戻してゆく物語である。
考えてみるとこの舞台は何も小説向けに設定された特殊なものではなくて、現代社会ではどこにでも出現しそうな、ごくありふれた環境ではないのか。母子家庭、引きこもりの若者、過疎の田舎。ただ違うのはそこにいる人達が一皮むけば皆善意の助け合う人々であるというところだ。
後半の舞台が蓼科ということもあり、原田マハの共感を呼ぶ語り口とともに、高齢化社会の現実が迫る。そこに生きる若者もよく描けていると思う。美しい自然の中で少しずつ少しずつ心が解き放たれてゆくさまや、親切な大人たちのアドバイスが効いてくる状況など実によく描けている。
是非オススメしたい一冊である。