玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

「北方文学」第71号発行

2015年03月09日 | 玄文社
 
 玄文社では3月8日に同人雑誌「北方文学」第71号を発行しました。A5判で280頁あります。
 表紙絵は昨年9月に国立新潟病院内に美術館が出来た、佐藤伸夫さんの「深海・呼吸2014」です。昨年の柏崎市美術展覧会で奨励賞を受賞した作品で、ずっと追い続けてきた「深海」のテーマを見事に展開しています。
 同人の詩人・田代芙美子さんが昨年亡くなったので、追悼特集を組んでいます。日本現代詩人会会長の財部鳥子さんが追悼文を寄せてくださいました。
 また「北方文学」にゆかりのある英文学者で、ラテンアメリカ文学の翻訳者としても有名な土岐恒二さんも昨年亡くなったので、追悼特集としました。
 また昨年同人の大井邦雄さんが日本翻訳文化賞翻訳特別賞を受賞したので、その小特集もあります。
 新しい書き手が参加しています。十日町市の五十川峰夫さんです。まだ40代で、同人の平均年齢を押し下げてくれそうです。シェイクスピアの『ハムレット』の構造分析です。
 村上市の石黒志保さんも今号から同人に加わりました。今号に作品はありませんが、まだ30代なので同人の平均年齢がぐっと下がりました。
 大橋土百さんの「ブーゲンヴィルの黒い花」は、山本五十六戦死に関わる新資料発見に基づいています。戦後70年の節目の年にふさわしい作品です。板坂剛さんの「秋の彼方に」も戦争責任を追及した問題作です。板坂さんなりの「英霊の声」といったところ。
 私の「純粋言語とは何か?――ベンヤミン「翻訳者の使命」を読む――」は胃潰瘍の産物です。読んで胃潰瘍にならないように気をつけてください。

 目次を掲げさせて頂きます。

月に血の色が差し、そして◆館 路子
追悼・田代芙美子さん
財部鳥子◆田代芙美子さんを偲んで
 鈴木良一◆祝福と追悼と――田代芙美子さんの詩集に触れながら――
 田代芙美子◆作品4編
追悼・土岐恒二さん
土岐知子◆絶望と永遠と
 大井邦雄◆土岐君からの最後の年賀状
 霜田文子◆土岐恒二氏の仕事から――『ボマルツォ公の回想』を読む――
純粋言語とはなにか?――ベンヤミン「翻訳者の使命」を読む――◆柴野毅実
「仮面」と「告白」◆鎌田陵人
一遍と一茶へのメモ◆榎本宗俊
『ハムレット』舞台の彼方と幕の向こう側
――シンメトリー構成からTo be or not to be, that is the questionを解く(1)――◆五十川峰夫
特集・大井邦雄日本翻訳文化賞翻訳特別賞受賞
 大井邦雄◆翻訳特別賞を受賞して
 若林光雄◆精緻な注釈加え原著を充実
 冬木ひろみ◆書評『シェイクスピアはどのようにしてシェイクスピアになったか』
ブーゲンヴイルの黒い花◆大橋土百
父の出征◆福原国郎
新潟県戦後50年詩史――隣人としての詩人たち〈5〉――◆鈴木良一
高村光太郎・智恵子への旅――智恵子の実像を求めて〈8〉――◆松井郁子
秋の彼方に◆板坂 剛
長い留守◆新村苑子

一部送料込みで1,500円です。ご注文は玄文社までメールでお申し付けください。
genbun@pop07.odn.ne.jp




「北方文学」70号記念号発刊

2014年07月29日 | 玄文社
 市内小倉町の玄文社はこのほど、文芸同人誌「北方文学」七十号記念号(北方文学編集委員会編集)を発刊した。「北方文学」は昭和三十六年創刊で、これまで五十四年の歴史を刻んできた。長岡商業高校の卒業生を中心に、長岡市とその周辺の文学愛好家が集まって創刊された雑誌だが、徐々に同人も増え、中越をはじめとした県内各地だけでなく、首都圏の同人をも擁するようになり、発展を続けてきた。
 平成二十三年の東日本大震災後に「現代詩特集」を組み、いち早く辻井喬、長谷川龍生、谷川俊太郎、吉増剛造など、日本を代表する詩人達の、震災と原発事故直後の思いを託した作品を掲載して全国的に注目された。十五年ほど前から編集事務局は柏崎の玄文社が勤めてきているが、三年前に創刊者である長岡市来迎寺の吉岡又司が死去し、実質的に長岡中心から柏崎中心の同人誌に変わりつつある。
 七十号にも柏崎在住者四人と、柏崎出身者一人が執筆している。文学と美術のライブラリー游文舎企画委員の霜田文子は、日本シュルレアリスム美術への関心から、古賀春江の作品について、当時の日本の文芸理論あるいはモダニズム詩との関連において、その作品を解き明かしている。
 大橋土百は高柳町石黒在住で「じょんのびだより」編集長として活躍しているが、今号では3・11東日本大震災後の世相と自分自身との関わりを、鴨長明の「方丈記」に託して語っている。
 埼玉県の徳間佳信は柏崎出身者で二年前、米山検校の子孫の一人として『銀のつえ~米山検校をさがして』を上梓して話題となった。今号では中国現代文学研究者として魯迅賞受賞作家・石舒清の問題作を訳出している。
 石黒志保は村上出身だが、現在ドナルド・キーン・センター柏崎の学芸員として勤務している。今号では日本の古典和歌論をその言語観を中心に据えて分析するという試みに挑戦している。石黒は同人ではないが次号から同人となる予定。
 同人歴四十年の柴野毅実は、このところ言語論を中心とした原理論的な仕事を続けていて、今号ではベンヤミンの「言語一般および人間の言語について」の読解を試みている。
 また、平成二十一年の六十二号から六年間、表紙絵とカットは、市内鯨波三の佐藤伸夫さんが担っている。佐藤さんは一貫して海をモチーフとした作品を寄せていて、「北方文学」の視覚的イメージを高めている。
 全国に文芸同人誌はたくさんあるが、そのほとんどが小説と詩中心であるのに対して、「北方文学」は評論を中心とする方向を強めている。今号も評論十編を掲載するが、こうした傾向は他誌には見られないもので、同人それぞれの関心の幅が多彩な内容を実現させている。現在、二年に三号のペースで刊行を続けている。A5判、三百十四頁、特別定価千八百円(税込)。問い合わせは玄文社(電話0257-21-9261)まで。