玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

江戸時代観

2007年03月17日 | 日記
 なんとか九日の講演会までに、田中優子教授の『江戸の創造力』を読み終えることができた。だから講演の内容もよく理解することができた。『江戸の創造力』は二十年前の著書で、芸術選奨文部大臣新人賞受賞作である。名著だと思う。
 江戸時代に対する日本人の認識は、このところ大きく変化してきている。かつてマルクス主義全盛時代には、江戸時代は封建主義の時代で、圧政と収奪が蔓延する闇黒の時代と解釈されてきた。
 そうした歴史観の典型を、白土三平の劇画『カムイ伝』に見ることができる。『カムイ伝』では江戸時代を、藩主の暴政と農民の抵抗という階級闘争的な史観で描いているが、今日ではそんな一面的な歴史観はほとんど受け入れられないだろう。
 環境的な視点から見れば、田中教授も講演で話していたように、江戸の町は完璧な循環型社会だった。古着や紙屑はおろか、“灰”まで売買された。もちろん下肥も農民がつくる野菜などと交換された。
 そうした視点からの再評価の他に、別の視点もある。熊本の渡辺京二氏の『逝きし世の面影』(平凡社)という本は、幕末に日本を訪れた多くの外交官らの手記を通して、彼等がいかに日本の風土の美しさ、そして日本人の美質を賞讃していたかを解明してくれる。
 ほとんど江戸時代にユートピアを見るような本だが、当時の外国人が絶讃し、現代の日本人が忘れ去った美しい精神性がそこにあったのなら、江戸の時代はそんなに悪い時代でもなかったのであろう。
 田中優子教授の『江戸の創造力』(ちくま学芸文庫)は、読んでものすごく元気の出てくる本である。江戸と地方との格差は、現代の東京と地方の格差より、はるかに大きかっただろうし、江戸のまちの話が、そのまま柏崎のまちづくりに役立つとは考えられないが、講演よりずっと内容が濃いので、一読をおすすめしたい。

越後タイムス3月16日「週末点描」より)


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ひたる会

2007年03月17日 | 日記
 今週は紙面の都合で、「水野竜生を上海に観る」の最終回を掲載できなかった。そのかわりに、三月三日に産文会館で開かれた「上海の余韻にひたる会」のことを書いておきたい。一カ月前の水野竜生氏個展激励ツアーのいわゆる“はばきぬぎ”である。
 上海に滞在中から、「いつはばきぬぎをやるんだ」という話が出ていた。単なる観光旅行ではなく、共通の目的を持っての団体旅行であったせいか、旅の間中異様な盛り上がりがあり、参加者は、ある種の連帯感で結ばれていったような気がする。帰ったらすぐにでもまた集まって飲みたくてたまらなかったのである。
 お雛さまの日で、日が良すぎたせいか、参加者は三十七人に止まったが、欠席の返信葉書には“残念”の言葉が溢れていた。三十七人の中には、十日町の人もいれば魚沼の人も、なんと佐渡の人までいた。遠くから駆け付けてもらって、心から感謝している。
 上海では連日宴会を繰り返していたのに、この日も盛り上がってしまった。皆で写真を交換し合ったり、上海の思い出を語り合ったり、話題が尽きることはなく、二次会ではさらに盛り上がりをみせた。水野氏本人も翌々日は上海というのに、東京から駆け付け、中国での今後の展開を力強く約束してくれた。
 今回の個展が水野氏の大きな飛躍の一歩となったことは間違いない。今後の展開も確実なものと思われる。激励ツアーの参加者を核に、後援会をつくろうという話も現実味を帯びてきた。“上海の余韻”は、まだまだ続いていきそうである。

越後タイムス3月9日「週末点描」より)


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