弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード 法の聖域

2011年03月27日 | 政治、経済、社会問題

イギリスBBCで2001年~2007年に放送された法廷ものテレビドラマです。
平均視聴者が680万人を超すという人気ドラマだったようです。
CATVのANXミステリーでこの3月から放送されています。

法廷ものですが、高等法院の判事が主役です。
イギリスの裁判所の仕組みは複雑です。高等法院(high court)といいますが、
日本の高等裁判所ではありません。
刑事事件でいえば殺人や強姦などの重罪の一審を担当する裁判所です。

ジョン・ディード判事は、どちらかといえば異端の判事で、ごますりやコネを使う
などは一切なく、むしろ圧力などに屈することなく、自らの信ずるところに従って
正義を貫きます。つまりは真実の追究です。
彼のいう正義は、犯罪の被害者、大抵は弱いものですが、のために罪を犯した者が
罪を逃れたり、不当に軽い罪で免れるなどがないようにすることです。
いうまでもなく、証拠もなく有罪になるなどということがないように公平な訴訟指揮
は当然です。

また、しばしば、政治的な圧力がかかるのですが、それに対しては安易な妥協は
しません。
ですから、嫌がらせや何とか陥れようとする者の妨害があります。
しかし、それを機転を利かして、煙に巻いてしまうのが、爽快です。
ディードのような正義感の人には、強い味方が必ずいるものです。

第1話の「ジョン・ディードの正義(Rough Justice)」では、3人の若者による強姦事件
と妻に対するDV事件が並行的に審理されます。
DV事件の加害者である夫はMI5(情報局保安部)の情報屋であり、情報収集活動
に支障がないように、収監は避けたいということで、警察側から圧力がかかったのです。
本人は認めて悪かったと反省しています。
しかし、DVが頻繁に行われ、しかもこの事件では熱湯をかけるという残虐なものだった
ので、慎重に審理が行われました。
刑務所入りは回避、警察側を安心させたかと思うと、その後すぐに長期にわたる医療
施設入りを命じ、結局、圧力を完全に撥ねつけてしまうという具合です。

ところで、ディード判事(弁護士の妻と離婚、現在は独身)は女性に弱いのです。
第1話では、プレッシャーをかける大法官府事務次官の妻との不倫現場のビデオ
が脅しに使われそうになる(ビデオの存在を密告するものがいる)のですが、
いつの間にか、肝心な部分は消されたコピーに差し替えられ(こういう協力者がいる)
あやうく窮地を脱するのです。
こういうことが、おそらく毎回あるのだと思います。
これが人気の秘密ではないかと、予測しています。

気になったこと2つ。
1 どの事件を担当するかを、判事が任意に決めていたこと。
  DV時事件は、友人に頼まれ、ほかの判事が担当することになっていたのを
  ディード判事が取ったことになっているのですが、
  日本では受理した順番に自動的に割り当てがなされることになっています。
  判事たちの間で、事件の割り振りをめぐって貸し借りの話し合いが、食堂などで
  それとなく行われていましたが、これがイギリスの現実なのか。
2 判事室に監視ビデオが設置されていましたが、これはドラマだから、あるいは
  それが現実?スイッチをきることはできるというのですが、これじゃプライバシー
  などないわけで、ちょっと信じられない感じです。

アメリカの法廷場面は見慣れていますが、イギリスの法廷ものはドラマはやはり
珍しいので、楽しみです。

なお、主役のジョン・ディード判事役のマーティン・ショウは、
「アダム・ダルグリッシュ警視」や「孤高の警部ジョージ・ジェントリー」などで馴染みの
顔でしたので、余計親しみを感じました。
ハンサムでスマートで甘いマスクのマーティン・ショウにははまり役だと思います。


敷引特約「高すぎなければ有効」最高裁判決

2011年03月26日 | 政治、経済、社会問題

敷金から修繕費等として一定額を差し引く「敷引特約」について、
有効・無効がわかれていたことについて、最高裁が初めて、金額が契約書に明記
されていれば合意ができており、そして金額が高すぎなければ、有効とする判断をしま
した。

どの程度なら高すぎるかですが、本件の場合は家賃月額9万円で、敷引金が
居住年数に応じて18~34万円とされていたことについて
「家賃の2倍から3・5倍」というのは高すぎるとは言えないと判断したものです。

事案については次をどうぞ。http://www.asahi.com/national/update/0324/TKY201103240370.html

賃貸借契約も商取引ですから、妥当な判断のように思います。

こういう契約は、時代によって判断基準がかわるものですが、
これまではどちらかというと借り手有利な判断が優勢でしたから、ちょっと流れが
変わり始めたのかもしれません。
賃貸借契約の実務に相当影響があると思います。


衆院選 1票の格差違憲状態

2011年03月25日 | 政治、経済、社会問題

国会議員の定数を削減することは本当に難しいです。
投票する本人自身の利益と直接関係するからです。
しかしながら、人口が大幅に減少に向っている中で、しかも国の財政事情が
大幅に悪化し、人件費のような固定経費は大幅に削減する必要がある時代に
なっているにもかかわらず、今の定員を維持する正当性は
とっくになくしていると思います。

問題となっている1人別枠ですが、これは小選挙区制に移行するときに、
人口比のみに基づいて定数配分すると、人口の少ないところで急激に定数減となり、
当然、自らの首をしめるような制度改革に、議員さんたちが積極的に賛成するわけはなく、
そこで過渡的な措置として採用されたものです。
最高裁がいうように「時間的な限界があ」ったはずのものです。

しかしながら、いったん制度として定着すると、本来は時限的なものであったとしても、
安定した運用がなされればなされるほど、実際は、削減する方向での
改正は難しくなってくるのです。
議員さんたちは、自分の身分とは直接関係のない、公務員の削減については
バッサリと実行しますが、自分や仲間の首切りになるような制度など
バッサリとできるわけないのです。
このあたりは制度の自己矛盾ですね。

これまで、何度も最高裁まで持ち込まれていたのですが、10年以上経って、
違憲状態と判断されることになったのです。
そして、「できるだけ速やかに1人別枠方式を廃止し、投票価値平等の要請に
かなう立法措置を講ずる必要がある」としました。

しかしながら、議員さんの運命を決める法律という特殊性を考慮すると、
一気に違憲と判断すべきだったかもしれません。
2人の裁判官は「違憲」とはっきり認めました。
一人の裁判官は「過去の最高裁判決でも制度に関する疑問は指摘されていたのに
見直しに向けた検討の着手にさえ至っておらず、合理的是正期間を過ぎ」たからだと
いうのは、このような議員心理を見透かした上での判断です。
だからこそ、もう一人の裁判官の「判決主文で選挙の違法を宣言すべきだ」という
のは現実的な判断だと思います。
このくらいしないと、国会は動かないのではないかと思います。
「国会が速やかに同方式を廃止して立法措置を講じない場合、将来の訴訟で
選挙を無効にすることがある」というものもっともです。
これくらい追い込まないと国会は動かないのではと私は悲観的に思っています。

これを書きながら、ふと思ったのは、最近の政治主導も、案外、議員の延命措置
が狙いかもしれません。
これだけやることがあるじゃないか、議員は足りないことがあっても
あまっていることはない、などというためです。
ちょっと裏を読みすぎでしょうか。
公務員が本来やるべき仕事を副大臣などというわけのわからない人たちが取り上げ
るのも、こういう文脈で読むと意外にすっきり理解できるとおもいません?

しかし、最近の国会議員の質の低下をみると、兎に角頭を揃えることで
精一杯という感じです。
これは明らかに多すぎるからです。

焼け太りとならないような、真の改革をそろそろすべきときです。