障害がある子どもたちが通う特別支援学校の授業で、デジタル図書の活用が盛んになってきた。データ化した絵本や児童書の内容をiPad(アイパッド)などタブレット端末に取り入れて拡大して読んだり、読み上げている部分を色付けしたりでき、内容の理解を助ける利点がある。「読書のバリアフリー」として注目されている。
小学部から高等部まで約二百人が通う都立光明特別支援学校(東京都世田谷区)。「好きな魚を探してみよう」。中学部の生徒が生活単元の授業で、児童書をタブレット端末で大きな文字に拡大し、一文字ずつ目で追った。
同じ教室では、教諭がパソコンに取り入れたデジタル図書を、大型スクリーンに映しだした。体が不自由で車いすに乗った子どもたちは、昔話「さるかに合戦」を読んで、登場人物の気持ちを考えた。
読み書きが苦手な子どもは、紙の本では行を読み飛ばしてしまうことがあるが、デジタル図書は読んでいる部分を色付けして表示できるため、子どもが集中力を保ちやすい。文字を拡大したり自動音声で読み上げたりもできる。持ち運べるのが利点で、車いすの子どもたちがパソコン教室まで移動する必要もない。
児童生徒は、それぞれの障害に応じてタブレット端末を一人一台使える。都は二〇一四年度に全特別支援学校にタブレット端末のリースを始め、同校が借りているのは初年度十一台だったが、本年度は六十台まで増えた。
同校は、国立成育医療研究センター(同)に院内学級があり、無菌室で生活する子どももいる。絵本や紙芝居は消毒できないため無菌室に持ち込めず、窓越しに本を見せていたが、消毒液で拭くことができるタブレット端末は使用可能だ。禿(かむろ)嘉人教諭は「タブレット端末を使えば、ベッドで寝ながらでも読書ができる。病室から出られない子どもたちの楽しみになっている」と話す。
同校にデジタル図書のデータを提供しているのは伊藤忠記念財団(港区)。「読書のバリアフリー」を目指して、出版社に協力してもらい、一一年から「はじめてのおつかい」(福音館書店)などの名作絵本や児童書約二百八十話をデジタルデータ化。「わいわい文庫」と名付けたCDに編集してきた。
CDは全国の特別支援学校など延べ約三千二百校、図書館約八百四十館のほか、医療機関や障害児向けの学童クラブなど約二百八十カ所にも無償配布した。希望する団体には申請をしてもらった上で、今後も配布するという。
障害児の学習支援を行っている東京大先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授(人間支援工学)によると、普通学級でも学習障害のある子どもたち向けにタブレット端末を準備し、障害児向けのデジタル教科書を使う動きが進んでいる。四月に障害者差別解消法が施行されたことも後押ししている。
近藤准教授は「障害児の読書や学習をサポートするデジタル図書や教科書は、今後ますます普及していくだろう」と話す。
タブレット端末で文字が拡大されたデジタル図書を読む子ども タブレット端末に取り入れられたデジタル図書
2016年10月28日 中日新聞