妻が買ってきたブレイディみかこの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)が面白い。知らなかったことが、つぎつぎと書かれている。
英国では公立でも子どもが通う小学校、中学校を親が選択できるということだ。著者の一家は、息子が通う小学校としてカトリック校を選び、中学校としては元底辺校を選ぶ。
知らなかったが、英国では、英国教会、カトリック、ユダヤ教、イスラム教などの公立の宗教校がある。そして、宗教校の親は一般に裕福で、教育熱心である。しかも、カトリック校は色々なオリジンの子どもたちがいて、人種差別がない。
それに対して、公立の非宗教校の親は学校に関心がなく、「近くだから」が学校選択の理由になる。荒れている学校が多い。それを底辺校という。著者が選んだ中学校は、以前に、底辺校だったということだ。
私がびっくりしたのは、その元底辺校の先生方が、子どもが社会の中で積極的に生きていけるよう、いろいろと工夫をこらしていることだ。そして、子どもたちの教育を充実させるために、積極的にお金を稼いでいくことだ。
たとえば、創作ミュージカル劇を開いて、入場料をとる。入場料を取るからには、ショーとして面白いものをやる。入場料はミュージカル劇をやるに必要な器具、設備に使われる。
先生方がたくましい。学校を楽しいものにして、かつ、実際に社会に生きていけるようにする。この先生方のエネルギーはどこから来るのか。自由と民主主義の理想が、エネルギーになっているのではないか。
日本の学校の先生方は、個人的に話してみると、意外と、心の中に理想をひめている。しかし、規則にがんじがらめになって、書類を作り、文部科学省の指令に従おうとしている。無駄なことをしている。つまらない、死んだ知識を子どもたちに詰め込んでどうするのだ。
英国の中学校の教科に「ライフスキル」があると、本書から知った。テストがあって、5段階評価される。著者の子どもが受けたテストの問題は、「empathyとは何か」、そして、「子供の権利を3つあげよ」だったという。著者の息子は、前者に対して「自分で他人の靴を履いてみること」、後者に「教育を受ける権利、保護を受ける権利、声を聴いてもらう権利」と答え、満点をもらったという。ちゃんと、国連の子どもの権利条約を教わっていたという。
じつに実用的だ。日本の道徳教育は自己を殺し国に尽くすことを教えて、子どもたちを幸せにすることを全く考えていない。
empathyは他人の気持ちを推しはかることで、よい人間関係を作るのに大事なことだ。いじめれたとき、どうふるまえば、その場から脱出できるのか。いじめられた子供を見たとき、どうすれば、いじめをとめることができるのか。まさに、「ライフスキル」である。
日本の道徳教育は、いまだに、権利に義務が伴う、自由に責任が伴うと教えている。それは、戦前の天皇制の遺物で、間違っている。
英国の公立学校が素晴らしいが、ブレイディみかこも、その息子も心が強い。私がNPOで担当している子どもたちも親も心が弱い。個人を否定し、集団行動をとる教育を受けてきたからだ。みんなと異なることを怖がっている。日本こそ、道徳教育を足蹴にし、ライフスキル教育が必要である。