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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

三浦半島小網代の森を歩く

2014年12月13日 | 日記
 関東周辺で、源流から河口が海まで注ぐ生態系が自然のままに残る唯一の森、というふれこみで今年の夏に遊歩道が完成し一般オープンした「小網代の森」を、ようやく!機会を得てガイドつきで歩いて巡る催しに参加してきた。
 
 横浜から京浜急行に乗り込んで一時間余り、午前10時前に終点の三崎口に到着。肌寒いものの、よく晴れあがった透明度の高い空、列車がホームに滑り込む少し手前で、相模湾の向こうに冠雪の富士山が望めた。森の遊歩道入り口は、国道134号線引橋バス停の脇を下って行ったすぐにあった。すこし歩いていっただけで、もう視界のすべてが森と空だけに変わっていく。小さな谷からの流れがいくつか集まって、浦の川と呼ばれる小川になり、かつては水田耕作が行われていた山間の平地は、ここ数年の手入れによって湿原へと変わり、その中央を整備された遊歩道が河口に向かって伸びていく。

 そこは、三浦半島の先端に近い油壺マリンパークの手前の小網代湾に面した約70ヘクタールの手つかずの自然地域で、明治神宮とほぼ同じ広さだと説明されたが、湾に向かったいくつかの谷からなる丘陵地なのでその表面積を比較すればはるかにこちらの森のほうが大きいだろう。分水嶺に降った雨が森の谷間を流れて上流の小川となり、中・下流へと次第に姿を変え、河口では干潟となって海へと注ぐ「流域」のランドスケープ全体の豊かで多様な自然の営みが、この70ヘクタールの貴重な森の中で完結してみることができる。ガイドの柳瀬さんの説明が的確で素晴らしく、この森への愛情と熱意がひしひしと伝わってきた。

 入口からわずか1.5キロメートルほどで、展望テラスのある湾に注ぐ河口=干潟へと到着。その先には小網代湾の入り江が伸びていき、正面にシーボニアマンションとマリーナがみえる。短い距離なのにまるで、写真でみる北欧国フィヨルドのような風景のような不思議なデ・ジャヴゥ感覚に目がくらむ。干潟の先には、プライベートビーチのような小さな岩場と砂浜もある。まるでここは、いつか訪れてみたいと念願しているスウェーデンの国民的建築家、グンナール・アスプルンド(1885-1940)「休日の家」のあるストックホルム郊外の湾風景を彷彿とさせる。大きく異なるのは植生で、あちらは針葉樹ばかりでこちらのほうは混合樹林と、気候の違いによる植物の多様性が際立つ。春になれば新緑が鮮やかに吹きだし、生命の営みがあちらこちらで謳歌されるのだろう。美しいその時期に、きっとまたここを訪れて歩いてみよう。

 
 河口干潟から見た小網代湾。ここではかつて戦前にアコヤ貝による真珠養殖が試みられていたそうだ。


 ここで、この森の保全の中心的役割を果たされている岸由二さんが引用している一文に共感したので、そのままを掲げてみたい。小網代の森を歩いてみて五感を通して感じられることは、次の一文に象徴されていると実感したからだ。そこには人類が自然と対立し征服することではなく、自然との共存をとく東洋的思想との共通点がある気がする。

「大地と海と空とそこににぎわう生き物たちの影響のもとに自ら進んで身を置こうと思うものには、
 必ず永続的な自然との接触による喜びが神の恩恵(霊感)として与えられる」
レイチェル・カーソン「センス・オブ・ワンダー」より

 さて、かえり道はすこし急な坂を上り、初音町三戸との稜線にでて海風を体全体に受けながら、広い台地一面に広がる三浦大根とキャベツ畑からなるあたり一面の広大な緑のランドスケープに歓声を上げる。こんな風景が三浦半島の先っぽにあるなんて本当に驚きだ。相模湾越しに臨む丹沢山塊と、雲に霞んでかすかに山裾がのぞく富士を眺めながら三崎口駅まで歩く。


この海を臨む緑一面のダイコンとキャベツ畑の雄大さ! 水平線の向こうの空が澄み切って眩しく光っている。
 
(2014.12.13初校、12.14改定)