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日々礼讃日日是好日!

まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

冬至の朝澄んだ光のなかで、ワルツを。

2014年12月28日 | 日記
 名古屋から午後の新幹線で帰ってきた翌日のちょうど冬至にあたる月曜日、よく晴れて澄み切った冬の青空が拡がった朝に、ちかくの成瀬山吹緑地へと車を走らせる。相模と武蔵の境目の丘陵地のここからは、180度の視界が大きく広がって、まほろ市街のむこうに丹沢大山の山並みに富士の白き冠雪がちょこんと望めるとっておきの場所。この日は昨日まで気持ちのクールダウンが必要だと感じていた。

 週末20日は一般的にはどんな日だったのか?歴史的には東京駅開業100周年の記念日であり、個人的にはデビュー35周年を迎えた竹内まりやの新アルバム「TRAD」発売に合わせた全国ツアーの最終地、日本武道館コンサートの日、といったことで記憶されるだろうな。
 と、当日はそんなことはすっかり忘れて、堀川納屋橋詰の旧加藤商会ビル(1931竣工、設計者不明)『サイアムガーデン』で食事するという幸運に恵まれていた。名古屋の中心地、栄オアシス21でMと待ち合わせて、芸術文化センターに上がり、展望スペースからしばしクリスマス前の大通り公園の夜景、名古屋大通公園沿いに伸びるの都市空間を眺める。そしてレストランの賑わいを横目に広場に降りて通りを渡り、広小路の街並みを10分ほど歩いて辿り着いたそのビルは、交差点に面した重厚な入口が花崗岩でゆるくアールを描いていて、二階以上が三面の縦長窓であり、その左右の壁面には赤煉瓦タイルが貼られた歴史洋式の鉄筋コンクリート造り。かつては旧シャム王国領事館が置かれていたこともあったという三階建ての歴史的建築をリノベーションし、タイ料理店に転用したなんて実に運命的とも思えてくる。堀川沿いのプロムナード夜景と合わせて、ロケーションと雰囲気は最高、トムヤムクンスープとパクチーの香りがとてもエスニックだった。
 翌日は、タイ王国ゆかりの覚王山日泰寺参道で今年最後の縁日市をひやかしながらぶらぶらと歩く。途中、横道に入いると閑静な高級住宅地で、松阪屋初代社長の別荘地だった揚輝荘と庭園に立ち寄り、かつての栄華をしのんだ。そのあと本堂に戻ってお参りして、さらに先の敷地にある釈迦の真骨がおさめられているという、仏舎利奉安塔(1918竣工、設計は伊東忠太)を望む。花崗岩の仏塔の先の相輪は抜けるような冬の青空の先にむかって、ありがたくも金ぴかに輝いていた。
 境内周辺には、張り付くように弘法大師八十八カ所霊場巡の祠があって、土俗的雰囲気を残していたのがなんとも面白かった。遅めの昼食に、参道の庶民的な食堂の奥座敷で、中庭を望みながら名古屋名物きしめんをいただく。

 そして戻っての翌日、成瀬山吹緑地である。青い空を背景に、丹沢のうしろに富士の白い頂が寒さで吹雪いているよう。このひらけた場所で大きく深呼吸をして、きのうまでのことをゆっくりと反芻してみる。なんだか30年分の縁(えにし)の糸につながれて想いつづけた大事な夢がようやく交差したみたいな気がする。あるいは、ずっと待って探し続けてようやく見つけた二つの焦点がゆっくりと描いた楕円の軌跡みたいで、ワクワクドキドキ不思議出会いに感謝したい気持ち。そしてこの日からまた少しずつ陽が長くなっていく希望の日のはじまりだ。
 あとでわかったことだけれど、この日、ジョー・コッカーが黄泉に旅立っていた。1969年ウッドストック音楽祭で歌い、1982年の映画「愛と青春の旅立ち」の主題歌をジェファー・ウォーンズとデュエットしてた、あの髭面のイギリス人ロック歌手。大学生時代にヒットしたのでよく覚えている思い出の曲。なんとなく、センチメンタルな気分になったせいはそのことがあったのかもね。

 
 さて、この日の午後は思い切って、先月から見てみたいと思っていて名古屋では見れなかった新作の北欧映画を見にいく。小田急線で新宿にでて、東口武蔵野館で上映中の「ストックホルムでワルツを」(2013年、スウェーデン/監督ペーター・フライ、主演:エッダ・マグナソン)がそれで、ビル・エヴァンスとの共演で知られる(といってもこの映画を見るまでその事実すら知らなかったけれど)、スウェーデンの歌姫モニカ・ゼダールンドの実話をもとにした映画だ。
 北欧の風景のなかでのジャズソングが流れる演奏シーンがとにかくカッコいい!アイスブルーの丸まっこい車体のバスに、主演のエッダの扮する主人公の透き通るような肌と輝くブロンドヘアー、ターコイスブルーの吸い込まれる瞳、ファッションのカッコよさ!軽やかなスウェーデン語で歌われる「歩いて帰ろう」「モニカのワルツ」がいい。そして、当初はやや傲慢で身勝手とも映るモニカが、挫折を重ねた最後にとうとうNYでビル・エヴァンズとの共演を果たし、喧嘩ばかりだった父親と和解して電話で話すシーンはジーンとくる。実は父娘の心理的葛藤と和解、シングルマザーの生き方がこの映画の隠れたテーマ。最後は、思いを寄せられていたべーシストのストォーレと子連れ再婚してハッピーエンド、となるのだけれど、彼と別れることになる相手の女性の心中を想うと、どうしても複雑な気持ちになってしまう。彼女にもやっぱりいつか幸せになって欲しいと思う。

 モニカとエヴァンスとの関係から連想して久しぶりのことだけれど、同じ北欧はノルウェー出身のシンガー、“セリアSILJE”とパット・メセニーの共演曲「tell me where you are goinng やさしい光につつまれて」を想い出す。このセリアのアルバム内「ワルツ・フォー・ユー」含めた三つのワルツ曲、ビル・エヴァンス・トリオ「ワルツ・フォー・デビイ」とチャリー・ヘイデン&パット・メセニー「ワルツ・フォー・ルッス」について感じたことを、いつか書いてみたいと思う。

 この日は、帰ってから冷えた体をゆず湯に入ってゆっくりと温めてあがると、そのあとに囲んだ食卓にはカボチャのサラダが用意されていた、やっぱり冬至だものね。

(2014.12.28初校、12.29加筆・改定)