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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

夕暮れ奄美島唄

2016年07月17日 | 日記
 連休の週末二日間、梅雨は明けきらず曇り空の一日だった。少し前の時期から蝉の鳴き声が聞こえだした。百日紅サルスベリの枝先から鮮やかな花火のような朱色の花が咲きだしていることだし、本格的な夏の到来は、もうすぐだろう。
 夕暮れどきの午後六時十五分くらい、西方向の雲の切れ目から沈もうとする陽の光が中学校校舎へと淡く斜めに差し込み、白い壁を照らしているのを横目でみていた。すこし涼しくなってきたのか、さきほどまで裏の林のほうからはヒグラシの声が聞こえていて、これはやっぱり梅雨明けもすぐに違いない。
 
 今年の夏は暑くなるのだろうか?

 ほんの数時間前まで、まほろ駅ビルにあるデパート屋上で「奄美島唄夕涼みライヴ」を聴いて帰ってきたばかりだ。そこの催事場では、奄美群島物産展というのがひらかれていて、それに合わせたイベントの一環なのだけれど、今日はなんと元ちとせ&中孝介“お中元”コンビのステージが無料で聴けるとあって、あー都会になったもんだな(奄美からは大都会?)、と半ば感心しながらも愉しみに待っていた。
 こんな郊外の地で奄美群島物産展っていうのはじつに珍しく、姉妹都市かなにかの縁と思ったらそうでもないようだ。遡ること三年前、やはりこの時期に初めて開催されていて、屋上で若手による島唄ライブを聴いた。“お中元”ライブはそのときもあったのだけれど、これは仕事の都合で残念ながら聴くことができなかった。この年の夏の終わりには久しぶりの大学講座同窓会があって、この屋上ライブ体験とそのときの感慨を記念文集に寄せたものだから、まあよく覚えているのだ。

 ということで、満を持しての?“お中元”ライブの開始は午後四時、ほんとうにこんな地元のデパート催事イベントに出演するのかしらと思いつつ屋上に上ると、すでにたくさんの開演を待つ、ひと・人・ヒトで大盛況の混雑ぶり。
 そうこーしてると、明るく元気なMCに呼び込まれてお二人の登場。初めて生で見る元ちとせは、細身の小柄な体に黒の薄地ドレスを合わせて、その上に淡いブルーショールにサンダル、いっぽうの中孝介は、白シャツ、白ズボン、白い靴と白ずくめで焼けた精悍な肢体を際だだせてる。まずは、三線を抱えて伝統的なスタイルの島唄をデュオで一曲、独特の裏声を使った節回しで挨拶代りといったところ。すぐに中孝介のソロにかわり、バラード調オリジナル二曲をエレクトリックピアノの伴奏で歌う。なんだか、夏の夕暮れにぴったり、ちょっと風貌も似ている平井堅?みたいな印象だけれど、繊細と力強さを併せ持ったような声と節回しがなんとも独特だ。

 次は、おまちかねの元ちとせのコーナー。なんと意表をついて、伝説のデビュー曲「ワダツミの木」とあのホセ・フェリシアーノ1971年の大ヒット曲「ケ・セラ」!を謳う。じつに独特の呼吸、節回しでとても印象的、好き嫌いがわかれるかもしれないが、その声は南島の精霊を彷彿とさせるといったらよいのだろうか。とにかく、まほろで聴く初奄美の唄者、元ちとせ体験はインパクト充分なのでした。
 ただPAが良くなくてリバーヴがかかり過ぎて高音が割れてしまっていたのが残念といえば残念、催事イベントでリハーサルが充分にできていなかったのだろうか。これは、音響スタッフの責任だろうな。
 最後はふたたび二人の三線と唄によるにぎやかな曲に合わせて、群島出身者が踊り出す。


 ともあれ、これで本格的な夏を迎える心づもりが整ったような気がしてきた。すこし風も涼しくなってきたようだ。ライブの後半は別コンビに変わり、しばらく聴いた後に約束の時間となり会場を抜け出す。階下デパート内スカイレストラン街で、ジム帰りの娘と待ち合わせて夕食をとることにしていた。選ぶ楽しみ、少し迷って最初にあたりをつけていた仙台名物牛タン焼きと盛岡冷麺の組み合わせを選ぶ、じつに健康的なもの。
 店内新宿寄りの広い窓からは、まだ暮れていない街並みとその先につづく多摩丘陵が見渡せた。そんな風景を眺めているとどこにでもある郊外のひとつで一見平凡ながら、やっぱりこの地ならでは生活感情というものがわいてきて、センチメンタルな感情とノスタルジーが交錯して、ほんとうに飽きるということがない。

 月並みだが、ここからは江の島、小田原、箱根にも近く、横浜線で新幹線に乗り換えれば、名古屋は一駅、京都はその次だ。大学の頃から偶然とはいえ、住み着いて三十年を経て、周縁暮らしがすっかり身についた日々を過ごしている。やっぱり、まほろ周辺に暮らしてよかったなあとしみじみ思う。