クローズアップ2010:「脱官僚」立て直し 菅氏、特別会計にメス
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◇刷新会議の役割増す
10年度予算編成や米軍普天間飛行場移設問題で指導力不足が指摘されてきた鳩山内閣は「菅・仙谷ライン」で態勢の立て直しを図ることになった。11年度予算編成へ向け掲げたのが「207兆円の総予算組み替え」。省庁が抱え込む「隠し金庫」(特別会計)に菅直人副総理兼財務相が切り込み、仙谷由人国家戦略・行政刷新担当相が天下り法人の「仕分け」に取り組むことになる。霞が関改革をめぐる「政と官」のバトルが本格化しそうだ。
「昨年はまだ政権を取って3カ月。無駄遣いをなくすために歳出削減を一生懸命やりました。しかし、特別会計、特殊法人その他、見えないところがあり、時間的な余裕が十分とれなかった」。鳩山由紀夫首相は7日夕、10年度予算案の編成を振り返り、民主党が衆院選マニフェストに掲げた「無駄遣い根絶」が不十分に終わったことを認めた。
9月の政権発足から3カ月で予算を編成するのに当たり、鳩山政権は財務省を中心とする官僚組織と協調する「ソフトランディング路線」をとった。しかし、子ども手当の完全支給などが始まる11年度は10兆円を超える財源が必要となる見込みで、今度こそ「官」の既得権益に切り込まなければならない。その主導役を「菅・仙谷ライン」に託した。
仙谷氏が指揮する行政刷新会議は10年度予算編成で「事業仕分け」を実施し、一定の成果を上げた。11年度予算編成へ向け重視するのが公益法人改革。民主党は野党時代、約4500の天下り法人に年間12兆円以上の国費が補助金や委託費などとして支出されていると指摘。今後、公益法人の運営や財務内容を事業仕分けの手法で精査し、官僚OBの人件費に「中抜き」されるなどしている無駄な支出を洗い出す方針だ。
一層、役割を増すことになる刷新会議。そのため担当の首相補佐官を置くことになり、白羽の矢が立ったのが昨年、「仕分け人」統括役を務めた枝野幸男元政調会長だ。「反小沢の急先鋒(せんぽう)」として知られるが、鳩山首相は「私の方から『枝野君にやってもらいましょう。事業仕分けで大変活躍したわけだから、彼が適任だ』と(仙谷氏に)申し上げた」と強調した。
一方、刷新会議と並ぶ鳩山政権の「車の両輪」とされてきた国家戦略室の影は薄いままだ。仙谷氏が兼務することで「一輪車」状態になりかねない。「国家戦略は総合的に中期的、長期的道筋を作り、刷新会議は過去に積もった行政のあかを洗い流す」。仙谷氏は7日、NHKのラジオ番組でこう説明した。当面、経済成長戦略の肉付けや中期財政フレームの策定などに取り組むが、11年度予算編成をめぐる「政・官」対決の主役はあくまで刷新会議になりそうだ。
そこで鳩山首相は、自ら掲げた「東アジア共同体構想」の具体化に国家戦略室で着手するよう仙谷氏に指示。仙谷氏自身、党政調会長を務めた04年ごろから同構想に関心を示してきた経緯もあり、3月をめどに「4本柱の具体的な提言」をまとめたい考えという。
本来の役割とされた国家ビジョンの策定は、戦略室から「局」へ格上げされる4月以降の課題となる。【小山由宇】
◇「人事権を行使」--財務省警戒
「財務省はいろんな情報を持っていて、いろんな米びつも見える立場にある。その情報を公開していく」。菅直人副総理兼財務相は7日の就任会見で、これまで財務省が独占し、予算配分や財源探しを仕切る力の源泉となっていた財政情報を全面公開し、特別会計などに潜む財源(米びつ)発掘につなげたい考えを示した。
民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)は、国の一般会計と特別会計の総予算計207兆円を抜本的に組み替え、子ども手当や高校無償化などの公約実現の財源を作るとしていた。
しかし、事業仕分けなどによる無駄の削減が思うように進まず、10年度予算案ではマニフェストの一部修正を迫られる結果に。国家戦略担当相として予算編成にかかわった菅氏は年頭の会見で「(財源確保の)困難さに対する準備が十分でなかった」との反省を述べていた。
菅氏は就任会見で「あらゆる特会、独立行政法人、公益法人の問題にしっかりと取り組む」と発言。各省庁の政務三役に、所管する特会などの精査を求めるとともに「財務省はそれ(特会など)にかかわるいろんな情報を持っている。きちんとオープンにして(精査を)進めたい」と語った。
「予算編成権は財務省にある」(藤井裕久前財務相)という同省の特権的な立場を情報公開で失わせ、政治主導による総予算洗い直しを加速する狙いがあるとみられる。
だが、各省庁が自らの所管する特会、独法の廃止、縮小に反発するのは必至。抜本見直しには、行政刷新会議や国家戦略室、各省の政務三役など政治家の指導力が不可欠となる。10年度予算編成では、閣僚間の調整が難航するなど指導力が発揮できないことも多く「財務省主導」との批判を招いた。今回も「政治主導」の予算編成を確立し、米びつを見つけ出せる保証はない。
菅氏のスローガンである「脱官僚依存」については「大臣は役所の代表ではなく、国民の代表」と述べるとともに「やるべき時は(閣僚として)人事権を行使するのは当然のこと」と強調。省内からは「幹部人事に影響を及ぼすのでは」(幹部)との警戒感も出ている。
一方、「官僚にはしっかり仕事をしてもらわなければいけないし、正確な情報を出していただき、いろんな提案もしていただく」「行き過ぎた官僚依存は(鳩山政権で)相当変わった」とも語り、官僚との対決路線を転換する可能性もにじませた。【平地修】
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毎日新聞 2010年1月8日 東京朝刊