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核融合発電の実現へ、一歩前進

2010年01月30日 | 川柳

核融合発電の実現へ、一歩前進

ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト2010年1月29日(金)18:55

核融合発電の実現へ、一歩前進
(Photograph courtesy Lawrence Livermore National Laboratory, U.S. Department of Energy)

 核融合発電の実現が一歩近づいたと科学者が発表した。研究を支えたのは史上最強のレーザーシステムである。核融合反応は太陽などの恒星でも起こっており、地球上でも効率的かつカーボンフリーなエネルギー源として期待されている。しかも、現在の原子炉のように核分裂がもたらす超長期かつ高レベルの放射性廃棄物が生じることもない。

 研究を率いたアメリカ、カリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の物理学者ジーグフリード・グレンザー氏によれば、「10年以内に核融合発電所のプロトタイプを稼働できるかもしれない」という。

 研究チームは今回、約5ミリの燃料ペレットを数千万度まで加熱するため、LLNLが誇る世界最大のレーザー核融合施設「国立点火施設(NIF)」を利用した。「レーザーパルスを燃料ペレットに照射することにより、100億分の1秒という極めて短時間でアメリカ全土の電力消費をまかなえるエネルギーを生産できる」とグレンザー氏は解説する。

 今回のテストでは、慣性核融合という技術で核融合を点火できると確認された。核融合とは水素などの2つの原子核が融合する現象のことで、途方もない過剰エネルギーを生み出す力を秘めている。一方、核分裂とは文字通り原子が2つに分裂する現象のことだ。

 兵器として利用するのではなく、エネルギー生産に核融合を使うのなら点火を完全に制御する必要があるが、過去に成功した試しはない。しかし今回のデモンストレーションの成功により、実現へ向けて大きく前進したと言えるだろう。

 研究所で核融合を起こすには膨大なパワーのレーザー出力が必要になるが、制御された核融合が成功すればその10倍から100倍もの電力を生産できるはずである。何十億年も輝き続ける夜空の星がなによりの証拠だ。

 しかもパワフルなだけでなく、クリーンかつエコでもあるという。「長期にわたって悪影響を及ぼす核廃棄物が生じないのも強みだ。それどころか、放射能の汚染値を化学的に下げる効果も期待されており、実際に核廃棄物問題の解決策として核融合の利用を提唱する科学者もいる」とグレンザー氏は説明する。核融合で発生する中性子には放射性原子の配列を組み替え、放射能を除去する力があるらしい。

 核融合はカーボンフリーなエネルギー源としても期待されている。実現すれば炭酸ガスを排出せずに発電でき、地球温暖化の進行に歯止めがかかる。

 また、石油や石炭などの化石燃料およびウランなどの核分裂燃料には限りがあるが、核融合の燃料は地球上や内部、はては宇宙にも無尽蔵に存在するというメリットがある。その量たるや、太陽の寿命が尽きるまで地球上の電力を賄えるほどだ。

 今回の実験では小指の先ほどの純金製シリンダーに燃料ペレットを格納し、それを目掛けて複数のレーザー・ビームを照射するという方法をとった。

 レーザーのエネルギーはシリンダーに吸収され、X線熱エネルギーに変換された。X線はシリンダー内を四方八方跳ね回った後、最終的にあらゆる側面から燃料ペレットに衝突した。そしてX線を吸収したペレットは約3300万度まで加熱され、爆縮したのである。

 この実験はレーザーによるシリンダーの加熱効率をテストする目的で行われた。したがって燃料ペレットはプラスチックとヘリウムが主成分であり、実際の燃料はほとんど使用されなかった。本来、水素の同位体である固体の二重水素と三重水素で作られたペレットが燃料となり核融合の点火に至るという。

 グレンザー氏は次のように話す。「今年中に核融合実験を実施したい。実際の燃料ペレットを使用すれば、サッカーボールが釘の頭ぐらいになるほどの爆縮が起こるだろう。中心部が高温に達して核融合が始まるはずだ」。

 研究チームの見積もりでは、1秒あたり燃料ペレット約5個を融合炉に投入すれば、1発電所あたり最大10億ワットの電力を継続的に生産できるという。サンフランシスコの電力消費をまかなえる規模である。「10年以内に実用レベルのプロトタイプ発電所を建設できるのではないか」とグレンザー氏は予想している。

Ker Than for National Geographic News

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