
林望は「イギリスはおいしい」がすばらしくて、他のも次々楽しく読み、しだいに鼻についてきて、それでも目に入るとちょっと読んだりしてきた。この本はひさしぶりにというか、ともかくおもしろい、すばらしい。書誌学についてシロートにもわかるようにていねいに書いたものなのだが、書誌学って科学で、考古学なのらしい。膨大な知識の土台の上で科学的に推論したりその知識をさらに積み上げていくさまがすばらしいのだ。
古書のページの文字組の周囲に枠がある。この隅がきちんと閉じているものは金属活字で、隅が離れているのは木活字。金属活字は蜜蝋と木灰を混ぜたものを流し込んで固めるので(蝋が漏れないように)四隅が閉じていて、木活字は組み木のように組んで作り、隅が離れている。
そういうことがさまざまとてもわかりやすく書いてあるのだ。
僕自身は書誌学なんてぜんぜん接点がないが、科学の徒で音楽趣味なもので、音楽がらみでとてもおもしろかった。
つまり、まあたいていバッハなのだが、バッハの使っていた紙の透かしからその作曲年代がだいたいわかる。5線紙なんて売ってないから熊手のような5線を引くペンを使っていたのだが、バッハは何本か持っていて、一本はどれかかがかすれるくせがあり、一本はどこだかの間隔がちょっと広い、そしてそれはいつ頃からいつ頃まで使っていたのがわかっていたりする。無伴奏チェロ組曲は筆写譜が4種類伝わっていて、失われたたぶんバッハの書いたものをもとにAとBが筆写されそのBを元にCとDが写されたとかなんとかがさまざまなことからわかっている。(すみませんこのABCDはいい加減です。)
そんなことを思い出して、おもしろかった。