2011年の冬シーズン、テレビ朝日系列の金曜夜9時枠で全8話が放映された、朝日放送とテレビ朝日の共同制作による異色の刑事ドラマ。
世間ではイマイチ話題にされず、刑事ドラマが特集されても振り返られる機会がほとんど無いんだけど、私自身は当時『デカワンコ』の次にハマった番組で、言わば幻の名作です。
賄賂による情報収集、暴力団との裏取引、囮捜査、証拠隠滅、監禁、拷問、盗聴、乳首、足の裏などの違法捜査を繰り返す、横浜港町警察署・刑事課第四係の刑事たちの悪行三昧が暗いタッチで描かれてます。大衆ウケしなかったのは当然かも知れませんw
だけど彼らは快楽や私利私欲の為にルールを無視するんじゃなくて、目的はあくまで正攻法じゃ裁き切れない悪を確実に駆逐すること。朝日放送さんのお家芸とも言える『必殺仕置人』や『ザ・ハングマン』のスピリットを継承してるワケです。
なのに堺雅人さんの『ジョーカー/許されざる捜査官』ほど世間に受け入れられなかったのは、出演者たちの面構えがあまりにワル過ぎたせいでしょうか?w 一見温厚な優男にしか見えない堺さんの方がよっぽどアブナイと思うんだけどw、深読みが出来ない昨今の視聴者たちは見た眼だけで判断しちゃったのかも知れません。
そんな第四係の悪党たちを束ねる主任=富樫正義(高橋克典)は、失踪した妻(森脇英理子)が残していった養子縁組の娘=のぞみ(宮武美桜)の面倒を見ることだけが生き甲斐の男ヤモメ。
一見優秀でクールビューティーな紅一点=飯沼玲子(内山理名)は、プライベートじゃなぜかロクでもないDVヒモ男(敦士)と別れられない優柔不断女。
やはり一見切れ者のイケメン刑事=山下(平山浩行)も実は妻子と別居中で、息子の声が聞きたくて夜な夜な無言電話を掛けては、独りむせび泣くという人間臭さ。
唯一、私利私欲の為に暴力団から裏金をむしり取る乳首野郎=柴田(鈴木浩介)はやり過ぎて命を狙われ、警察にもいられなくなって途中から離脱しちゃいますw
そして富樫たちの暴走を知りながら日和見を決め込む課長=石黒(梅沢富美男)も一筋縄じゃいかない男。
かように多面的に描かれ、単純な善人でも悪人でもない刑事たちの複雑なキャラクターがまた、過剰に解り易く作られた昨今のテレビ番組に感性を奪われた大衆には、とうてい共感しづらかったのかも知れません。
そんな富樫たちを支援しつつも何やら良からぬことを企む県警本部の前島警務部長(村上弘明)が、彼らの動向を監視するために送り込んだのが、チョー堅物の新任係長=里中警部補(小泉孝太郎)。ドラマは、ただひとり裏表のない善良一直線なイケメン坊や=里中の視点から描かれます。
「あなた達のやり方のどこに正義があるんだ!?」
世間一般的に言う「正義」とは程遠い富樫たちのやり方に、激しい怒りをぶつける里中。
「正義? 正義なんて言葉、軽々しく口にするな。俺たちのことを誰にチクろうが構わねえが、あんたも刑事だったらやる事やってからにしろ!」
そんな富樫の言葉には、法や組織のしがらみに縛られた正攻法じゃ本当の意味での正義は実践できない、警察の矛盾が示されてるんだけど、これも大衆には悪徳刑事の言い訳にしか聞こえないのかも?
まぁしかし、それも無理からぬ事かも知れません。なにしろ卑劣な凶悪犯を殴る蹴るの体罰で自白させた富樫が、最後に言って聞かせるアドバイスがこれですから。
「法廷で余計なこと喋ったら、地獄の果てまで追い詰めてやる。……殺すよ?」
私はただただ拍手あるのみだけどw、良識派には通じないだろうと思います。なぜなら、彼らは人間という生き物の本当の怖さを知らないから。
この世に住んでるのは善良なウサギだけじゃない。それを狙い、襲って、骨までしゃぶるハイエナどもがウヨウヨいる。
あくまで正攻法を主張する坊や里中に、富樫は言います。
「あんたもウサギだ。ハイエナどもからウサギがウサギを守れるのか? ハイエナを倒せるのは、ハイエナだけだ」
まったくその通り! そして、堂々とそれが出来るのは「刑事ドラマの中の刑事さん」だけなんです。それをやらずして、何のための刑事ドラマなの?って話です。
何度も同じこと書いて恐縮だけど、テレビ業界の現状が変わらない限り、私は何度でも書き続けます。
ただ突っ立って殺人事件の謎を解くだけなら、家政婦にだって三毛猫にだって出来る。凶悪犯に「眼には眼を」で被害者の苦しみに相当する罰を与えられるのは、刑事ドラマの刑事さんだけなんです!
現実世界じゃ有り得ないって? だ・か・ら・こそ、でしょうが! 実際には出来ないことを、さも出来るように見せて、我々大衆のストレスを解消させる。それが本来あるべきテレビ番組の姿だと私は思うワケです。もう謎解きなんかいらん! 飽きた! 刑事なら凶悪犯をぶん殴れ! 撃ち殺せ! それが国家権力を背負ったアンタたちの使命でしょうが!
最終回で富樫刑事は、部下である玲子との仲を誤解した、彼女のしょーもないヒモ男に刺されて殉職しちゃいます。『太陽にほえろ!』のマカロニ刑事を彷彿させる「犬死に」だけど、富樫もそうして最後に罰を受けるワケです。
自分の拳を痛めないで、命を賭けることもせず、ただ突っ立って謎を解くだけでハイエナを倒せるのか? 笑わせんな!って話です。
思えば、昭和ドラマの刑事さんたちは普通にやってた事なんですよねw それがいつの間にやら……そりゃ日本って国も衰退するワケです。破滅です。
そんなワケで本作『悪党/重犯罪捜査班』は、2010年代に入っていよいよ絶滅危機に瀕した、本当の意味での刑事ドラマの数少ない生き残りです。機会があれば是非、刮目してご覧頂ければと思います。