☆第228話『目撃者』(1976.11.26.OA/脚本=小川 英&中村勝行/監督=澤田幸弘)
殺人事件の目撃証言を拒む一般市民に、刑事はどこまで協力を求められるのか? 事件解決の為とは言え、目撃者のプライバシーを侵害する権利が警察にあるのか?
刑事ドラマでよく描かれる、定番中の定番テーマではありますが、本作ほどそれを真正面から、腰を据えてじっくり描いた作品は珍しいかも知れません。
何しろ謎解き無し、どんでん返しも無し。明らかに犯人を目撃してる平凡な主婦(木内みどり)に、粘り強く証言を説得するゴリさん(竜 雷太)の姿、その葛藤のみに焦点が絞られてます。
ヒネりがあるとすれば、真犯人が仕掛けた罠によって無実の男が逮捕され、主婦の証言が無ければ冤罪になりかねないこと。だからこそ、ゴリさんはリスクを承知で食い下がるワケです。
主婦が証言を拒む理由は、夫と結婚する以前に好きだった男と、密会した場所で事件を目撃したから。主婦がそれを認めたら家庭崩壊に繋がりかねないし、誤認逮捕が取り沙汰され、ボス(石原裕次郎)の責任問題に発展するやも知れません。
それは気にするなと言いつつ、ボスはゴリさんの信念を問います。
「それで一番傷つくのは恐らく、お前自身じゃないのか? それでもやるか?」
もちろん、みすみす無実の人間が刑務所送りにされるのを、黙って見過ごすゴリさんではありません。
高望みはしないけど、現在の平凡な幸せだけは失いたくない。だからそっとしといて欲しいと言い張る主婦に、ゴリさんは誠心誠意の説得を試みます。
「わずか2日間、俺は奥さんを見て来ただけです。でも奥さんがいい人かどうか位、俺にだって判りますよ」
そう、彼女に悪意は全く無いし、実は不倫したワケでもない。事業に失敗して落ち込む元カレを、ただ励ますために会っただけなんです。
それでも、現在の平穏な生活を壊してしまうのが、とにかく怖くて仕方がない。そうなる可能性は例え0.1%でも排除したい。その気持ちはよく解ります。
「なぜですか? なぜ善良な人間が、無実かも知れない男のための証言を拒むんですか? なぜ凶悪な殺人犯を野放しにしようとするんですか? そんな善良さは嘘です、本当じゃない!」
「…………」
「そうでなかったら、そんな善良さが本当だったら、俺たち刑事は、全国の何十万の警察官は、いったい何のために働いてるんですか?」
彼女は、自分たち夫婦にはもう愛がないと思ってる。だから密会がバレたら全てが終わってしまうと。
だけどゴリさんは、張り込みでこの夫婦を見て来て、二人の間に愛が存在しないとは、どうしても思えなかった。だから、そこに賭けたワケです。
「あなたが本当のことを言っても、何も壊れたりはしません。決して、何も失われたりはしません。そう感じたからこそ、私はこうしてお願いに来たんです」
「…………」
結果は、言うまでもありません。番組によっては、証言した目撃者の家庭が崩壊したり、最悪は殺されたりする悲劇が描かれる場合もあります。いや、そういうパターンの方がむしろ多い。その方が劇的で、話は盛り上がりますから。
だけど『太陽にほえろ!』は、基本的に「希望」のドラマなんですよね。人間の良心を信じる姿勢が一貫してる。それはもう、頑固なほどに。
そこを物足りなく感じる視聴者もいるでしょうし、現にこのエピソードも随分と地味な印象で、『太陽にほえろ!』全718話の中でも「凡作」にカテゴリーされるかも知れません。
でも、私は『太陽』のこういうところが好きなんですね。ドラマはやっぱり、観る者に希望を与えるものであって欲しい。まぁ、現実の世の中は破滅ですけどw(だからこそですよ!)
ところで、画像をご覧下さい。スコッチ(沖 雅也)が捜査会議にちゃんと参加し、ラストのコント場面ではコミカルな表情まで見せている! これもまた、希望ですよね。
目撃者を演じた木内みどりさんは当時26歳。ポーラテレビ小説『安ベエの海』の主演や『赤い○○』シリーズ、『熱中時代』シリーズ、『コメットさん』等、我々世代に馴染みの深いドラマに数多く出演され、この『太陽にほえろ!』も第75話、第196話に続く3度目のゲスト出演でした。