
大荒れを心配したけれど台風は平穏に過ぎた。
電車も定刻に動き、昨日とは逆の一番電車で帰った。
柊の花が盛りと咲いて木犀に似た良い香りがする。
季節は一直線に冬に進む。
出先から帰ると、町会長さんから鹿が罠にかかったので手伝って欲しいと連絡があったという。
その夜の会議で町会長と顔を合わせたので、昼間の留守を詫びて仔細を聞いた。
その日の朝 雄鹿が罠にかかったので、猟友会に出動を求め一発で打ち殺した。
100キロ近い大物で三又の大角を持っていた。
大概の場合そのまま穴を掘って埋めてしまうのだが、集まった近所の人から鹿肉の所望があったので、解体し上肉部分を少量切り取って後は土に埋めた。
今回は人手があったので埋めるのが楽だった、と町会長は言った。
前回は二人で樹の根と格闘しながら大穴を掘って埋めるのに半日かかったとのこと、前回に懲りて今回町会役員全員に声を掛けたということだった。
同じ夜に開くと予想した月下美人は、その夜1輪だけが開花した。
その姿は、留守を託されていたカミサンがカメラに収めてくれた。
そして二輪目が昨夜、目の前で咲いた。
それが今年咲く最後の花になるだろうと、寒気団に抑え込まれた室内で、ストーブに当たりながら思った。
月下美人が我が家に来て既に20年余が過ぎる。
寒さ対策にさえ気を使えば、極めて育てやすい丈夫なサボテン類である。
咲き始める時に発散するふくよかな香りが部屋に満ちてくる。
先日留守を託したカミサンは、この香りのおかげで重要な?任務を思い出したという。
鉢植えでは、か弱く見える月下美人が、一度だけ行ったハワイの民家で、頑丈な垣根を形成していた。
月下美人は草でなく、灌木なのであることを知った。
いつだったか年を経て、木質化した古株を取り除くのに鋸を使ったことがある。
今年は月下美人の蕾の多くが変色して落下した、気温の低下によるものかと思われて急遽室内に取り込んだ。
残った健常と思われた5ケの蕾が更に減り、残った3輪だけが順調に成長を続けていた。
町会の会計監査慰労の酒に酩酊した翌朝、気が付くと昨夜咲いたらしい1輪の月下美人は葉の蔭で既にしぼみ始めていた。そうゆう失態が最近増えている。
残りの2輪は今晩咲くと見当をつけたけれど、あいにく高校の「最初で最後」の同級会があって浅間温泉に泊まることになっている。
月下美人の今年最後の開花は、かみさんに撮影を託して家を出た。
土気市の写実専門館ホキ美術館を堪能してホテルに戻り、同行者を誘って、街に出た。
こんな時、向かうのは大概居酒屋である、両側に趣向を凝らした居酒屋が軒を連ねている、
「北の味紀行と地酒」の看板にひかれて「北海道」という店に入ると、メニューには北海道の秋の味覚が並んでいた。
3人はそれぞれの好みを選び、私はホッケと「熊ころり冷酒」を頼んだ。
それぞれの皿を互いにつつきあって、選択眼を競う中で、最年長者対する遠慮が少しあったかもしれないが、軍配はホッケに上がった。
名前に強いインパクトがある熊ころりは、若者の日本酒離れが進む中で今回は隅に置かれた。
急に冷え込んで、風が冷たくなった東京赤坂見附の居酒屋で、熊ころりに再会するとは思わなかった。