暗闇から
一番最初に生まれる色彩は、
青といえば、
空の色、
海の色に始まり、
青は文字通り水色、空色として地上を代表する色彩となっています。
どちらも無限ともいえる深い空間から生まれた色です。
その深さが極まれば、当然行き着く先はまた「闇」であり、
黒色の世界となります。
したがって、プリズムの原理は知らずとも
闇のなかから最初に生まれる色彩は「青」となります。
私が中学生のときの担任が美術の先生で、それは厳しく恐い先生でした。
でも、振り返ると今日まで記憶に残る大切なことを
最も多く教えてくれたのもこの先生です。
その先生が何の絵だか記憶はありませんが、私が描いていた絵の闇の部分に
この黒い面に一点だけ青絵の具をつけると深みが出ると教えてくれました。
ひとつのテクニックを教えてくれたにすぎないかもしれませんが、
今思えば黒・闇と青の関係を伝えてくれるものでした。
それともう一つ思い起こされるのは、
小学生のとき、ポスターを描く宿題で山の自然保護だかの絵を描いたことがあり、
そのとき遠くに見える山は青く見えると教わったことを意識して
山なみを三角形の直線を重ねた表現で描いた記憶があります。
これは自分なりにはシンプルに抽象化された表現がうまく出来たつもりでしたが、
なぜか先生の評価は高くなく入選しなかったことが悔しかった記憶があります。
あとで振り返れば、どこかのポスターにあったような表現であったため、
子どものポスターとしては評価されなかったのだろうと解釈しています。
古来、人びとは文明を問わず、この青という色彩を
黄金・金色、朱色・赤とともに特別な意味を感じていました。
古代エジプトの黄金と青色だけの彩色。
古代エジプトにおける青の色材は、アフガニスタンのみで産出されるラピス・ラズリ(ウルトラマリン)が珍重されたが、これは極めて貴重なもので、かつ塊状なので加工利用が難しい。そこで、手軽に利用できるウルトラマリン代替の青として、人工的な銅の顔料、エジプシャン・ブルー(エジプト・ブルー)が発明された。これは同時に、人間が化学反応を伴うプロセスで初めて合成した青顔料でもあった。
参照 エジプシャン・ブルーとハン・ブルー
https://sites.google.com/site/fluordoublet/home/colors_and_light/egyptian_blue
黄金・金色や赤・朱色に古来多くの人びとが魅了されてきたことはわかりますが、
かくも青色に多くの人びとが魅了され続けてきたのは、
いったいどのような理由によるものでしょうか。
モスクの装飾もブルーが基調
同じ古代からの文化でも、
かたや中東から北方や東方に向かうと
赤や朱色が基調になってきます。
赤の文化は、中国、日本ばかりかロシアでも、
「美しい(クラシーバ)」という言葉は 、
「赤い」と同義語であると聞いたことがあります。
こうした色彩文化の違いは、どこからくるのでしょうか。
白色の次にあらわれた青色
古代から、シルクロードを経て日本にやってきた青色は、
藍色に代表されるジャパンブルーともいわれる色彩にまで進化しました。
それは、鉱物系の色彩から植物系の色彩への変遷ともいえます。
志村ふくみ 志村洋子 志村昌司『夢もまた青し 志村の色と言葉』河出書房新社
日本語で「アオ」は、しばしば「黒」や「緑」と同義語であったりします。
このことも、闇から生まれる最初の色が青であることから考えると、黒や緑などの原初の色彩を総称して「アオ」とする見方が自然に理解できる気がします。
まさに「色即是空」の「色」が「アオ」と似たニュアンスに感じられます。
青そのものの表現バリエーションでも
水色、空色、青色の周辺に、
藍色、藍鼠、濃藍、濃紺、露草色、納戸色、縹・花田色、群青色、紺、紺青、
紺藍、瑠璃色、瑠璃紺、杜若(かきつばた)色、桔梗色、勝色、熨斗目色、
浅葱色、水浅葱、錆浅葱、新橋色(金春色)、勿忘草色、露草色、白群、
鉄色、鉄紺、青鈍、甕覗(かめのぞき)・・・・など
青が魅力的な松尾昭典さんの陶芸
上の皿は松尾さんの新作で、井戸の底から見上げた夜空をイメージしたものだそうです。
写真ではちょっとわかりにくいですが、金色の星がかすかに散りばめられています。
この青が洋風表現の場合でも、ブルー、シアンの周辺に
ナイルブルー、ピーコックブルー、ターコイズブルー、マリンブルー、
ホリゾンブルー、スカイブルー、セルリアンブルー、ベビーブルー、
サックスブルー、コバルトブルー、アイアンブルー、プルシャンブルー、
ミッドナイトブルー、ヒヤシンス、ネービーブルー、オリエンタルブルー、
ウルトラマリンブルー、ウイスタリア・・・・など
紫系、青緑系を除いても結構あります。
このように振り返ってみると、「青」という色がもつ性格は
無限の深みのなかに歴史(時間)の深さと、立体(空間)の深さ
を兼ねそなえた色彩であることにあらためて気づかされます。
しかもそれは、闇に一番近いところに生まれた色彩であるため、
まだあらゆるノイズ(騒音)も生まれる前の静寂もあわせ持っています。
このことは同時に、わずかなノイズ(騒音)さえも目立つということであり、
自ずと高い精神性もともなってきます。
源氏物語の世界にも見られるように、青の隣りにある色彩「紫」が最も高貴な色であるというのも、何かこのような青色の属性から推察できるような気もします。
現代で、ブルーというとブルーな気分として、落ち込んだ気持ち、沈んだ気分、憂鬱な気分などを指す意味もありますが、これも底の限りなく深いところに落ち込んだような感覚からきているのでしょうか。
いづれにしても、青、ブルーの色は、底はかない「深さ」のようなものを感じさせます。
そして、
闇から生まれる最初の色「青」の究極が、コレ。
以上、「月夜野百景」リーフレットのシリーズで、夜・闇の意味についてまとめる素材を洗い出してみました。
関連ページ 新緑の季節「生命の誕生」が緑色であることの意味
人の色の好みは、赤だろうが緑だろうが所詮好みの問題にすぎないと思っていました。
ところがこう振り返ってみると、今まで青色が好きだという人は、緑や赤に比べてなにをもって好きと思っているのか推し測りがたい面がありましたが、何かとても高い精神性をもった尊敬すべき人たちのように思えてきました。