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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

戦略の誤りは、個々の戦術や作戦の成果では取り戻せない ~書店の未来を真剣に考えてみた ① ~

2024年11月25日 | これからの働き方・生業(なりわい)

冒頭から失礼ですが、わたしは、いまの書店業界の問題解決のための第一目標は、「紙の本の文化を守りましょう」ではないと思っています。

もちろん、そうした問題が大事であることに異論はありませんが、いま私たちが直面している深刻な問題解決のためには、これからの日本社会のあり方をどうするかといった根本問題を抜きに業界内だけの問題を考えていたのでは、抜本的な解決にはならないのではないかと思うからです。

以下の文は、すでに書店数がピーク時の半分以下になり、本屋のない自治体が増え続けるなか、地域の様々な需要に応えていくこれからのフルスペック型書店「まちの最後の本屋」とはどのようなものかを考えていくために書いたものです。この考察のなかには、いわゆる独立系書店やセレクトショップ型のなんらかの専門書店や古書店、あるいはブックカフェなどは含まれていません。

そのためには多少遠回りにみえても、まず以下3つの前提を踏まえることがどうしても不可欠であると考えます。

 ① 出版業界の今問われている諸問題を解決しても、日本経済全体の衰退スピードに容易には追いつけない

 ② 業界主導の産業社会型資本主義の終わり

 ③ 本という情報のいちばんの本質は「商品」ではなく「人類の公共財」

こうした前提からまちの書店の具体的な対策を語らなければならないのは、私の関わっている書店も世代交代の時期にあることや、2028年(ずれ込む可能性あり)の教科書改訂から教科書のデジタル化が本格化することが予定され、2030年に至る時期が教科書販売を経営の柱にしているまちの本屋の大転換になることが予想されるので、、ここはどうしても長期的視点にたって根本的考察をする必要があると考え、長くなりますが以下に説明させていただきます。

 

前提1 出版業界の今問われている諸問題を解決しても、日本経済全体の衰退スピードに容易には追いつけない
       ~戦略の誤りは、個々の戦術や作戦の成果では補えない~

たしかに、出版業界内部で改善すべき深刻な課題は、ネットやデジタル領域に市場が加速的に移行していくこと、本の粗利が異常に小さいこと、流通システム改革が遅れていることなどたくさんあります。

しかし現状の危機を招いている数字上の圧倒的要因は、出版業界固有の問題ではなくて、日本社会全体の問題であると私は思っています。つまり、1996年頃をピークとして、OECD諸国のなかで日本経済だけが30年近く成長していないことです。より正確には、経済成長していないというより、一部の大企業は記録的な成長を遂げていながら圧倒的多数の国民生活は貧しくなっているという構造です。
出版業界や本屋独自の切実な課題もたくさんありますが、変動している数字の9割近くの実態は、日本の小売業全体や国民生活共通の実態を反映したものであり、国民の可処分所得の低下、将来への不安が無くならない日本の政治に由来していると考えます。

 

 

 


もちろん、賃金が上がることや適度なインフレが継続することも大事かもしれませんが、ほんとうの一丁目一番地は、「日常生活の固定費が下がり」「可処分所得が増える」ことと「労働時間の短縮」です。
この第一目標を理解せずに、「適度なインフレ目標」や「賃金アップ」や「手取り収入」だけを目標に掲げていたのでは、数値的にみかけの成果が表れたとしても、私たち国民の暮らしが抜本的に豊かになることはないと考えます。

ましてや多少の少子化対策の効果が出たとしても、下図からもあきらかなように、数十年は厳しい人口減少トレンドが変わるはずのない状況で、今のままではそう簡単に日本経済全体が回復することはないからです。

 


上のグラフは都道府県の中でも、もっとも厳しい未来が予想される秋田県の例ですが、
市町村レベルで考えたならば、
秋田県の例が決して特殊ではないことは容易に想像がつきます。

こう言うと、自分の独自努力を放棄してものごとを他人のせいにする言い訳ではないかと言われますが、経営は、業界内だけの視点に偏ることなく、まず全体を左右している大きな要因をしっかりと見据えたうえでないと、戦略を根本から見誤り、結果が伴わない努力に終わってしまうものです。戦略の誤りは、個々の戦術や作戦の成果では補えなえません。

下の図をみてもわかるように、日本史上経験をしたことのない大きな変化に私たちは直面していることを忘れてはなりません。

この大変化の構図をみると、書店粗利の数パーセントの改善や、物流システムの改善、雑誌付録の書店負担の問題などそれらすべてを解決できたとしても、書店減少の勢いを止めることは容易には出来ないことが想像つくことかと思います。

 


こうした問題をただ業界内の課題に狭めてしまうことは、むしろ国民的共通課題から目をそらす方向に、出版業界や各業界が加担してしまっていることにもなりかねないことを強調させていただきます。

また今の政治状況をみるほど、政党がそれぞれの業界(財界、労働組合など様々な業界団体)の代弁者にとどまっている限り、30年デフレ脱却への道は、いつまでたっても切りひらけないのではないかと思えます。

念を押しますがここで問うているのは、問題の立て方の順番の話です。各論は各論で、どれも大事なことに変わりはありません。

 

 

 

次回、前提2 業界主導の産業社会型資本主義の終わり

 

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