若い女性タレントが3人でトークするテレビ番組をご存知の方がいらっしゃると思います。
3月に放送されたその番組のなかで女優のKさんが、かつて交際男性から暴力を受けていた経験を語りながら、暴力を受けている女性は「逃げたら最後、絶対戻らない」という強い覚悟がなければ別れることはできないので「かくまってくれ」とでも言われないかぎり相談に乗っても無理だと思っている、といった話をしていました。
Kさんは悩んでいる女性の気持ちを考えない、冷たい人なのでしょうか? 自分自身も経験した悩みですから、そんなことはないでしょう。
暴力を受けている女性は、当然「相手の男性から逃れたい」と願っています。ところが、その願いがかなうようにと、周囲が親身になって支援しても、脱出することの困難さや、両者の間に生じている心理メカニズムによって、相手の男性のもとに戻ってしまう女性が多いようです。
Kさんは、このような女性たちをかつての自分の姿と重ね合わせ「願いを実現する意思を貫き通す覚悟が決まるレベルまで気持ちを熟成させることは、本人にしかできない(周囲が熟成させてあげることはできない)」ということを実感しているのだと思います。
同時に「本人には自分の気持ちを熟成させる力がある」という信頼を持ちながらも、最終的には「本人の人生は本人のもの」と腹をくくっていて、本人の気持ちが熟成するときが来るのを待つ覚悟が固まっていることもうかがわれます。
これは「ドメスティックバイオレンス(家族や恋人など親しい相手からの暴力=DV)」の話ですが、どのような問題であれ「支援」のあり方に対する考え方に共通するものです。
おかげさまで当メルマガは7年目を迎えましたが、長い読者の方はご存じのとおり、子どもの不登校と青年のひきこもりへの対応や支援について、私は似たようなことを繰り返し申し上げてきました。
不登校・ひきこもりの“終わらせ方”はなく、終わらせることができるのは、当の本人以外にいないからです(97号)
(堂々巡りは)自分でしかやめられないのです(119号)
このような「本人に厳しい記述」(何人かの読者の方)に対して「支援を求める当事者や支援する関係者の気持ちをどう考えているのか?」というご質問をいただいたことがあります(この場合の「支援」とは、家庭訪問やフリースペースなど、本人への直接支援のことをさしていますので、以下「直接支援」と呼びます)。
結論から言いますと、私の考え方は、今挙げたKさんと同じです。
すなわち、不登校児やひきこもり青年は「学校に戻りたい」「社会に戻りたい」と願っています。それは切なる願いです。
ところが、その願いがかなうようにと、周囲が親身になって学校や社会に戻れるように支援しても、ほとんどの青少年は拒否反応を示すか支援を受けても長続きしないのか、のどちらかです(これは本人の問題ではなく、そういう心理メカニズムだということです)。
私は、このような青少年たちをかつての自分の姿と重ね合わせ「願いを実現する意思を貫き通す覚悟が決まるレベルまで気持ちを熟成させることは、本人しかできない(周囲が熟成させてあげることはできない)ということを実感しているのです(もちろん、熟成した結果学校に戻るかどうか、どのような社会生活を選ぶか、は人それぞれです)。
同時に「本人には自分の気持ちを熟成させる力がある」という信頼を持ちながらも、最終的には「本人の人生は本人のもの」と腹をくくっていて、本人の気持ちが熟成するときが来るのを持つ覚悟が固まっている――そういう相談員でありたいと、日々自問自答しているしだいです。
そのため当メルマガでは、直接支援を求める当事者や直接支援する関係者の気持ちに、ストレートに応える記述が少ないのかもしれません。
ただそれは、そういう自分の立場を明確にしておかないと、メルマガでは言いたいことが伝わらなくなるからであって、当事者や関係者の気持ちを考えていないからではないことを、今の説明でおわかりいただけたでしょうか。
それどころか、相談場面での私は、本人や親御さんの気持ちを決して否定していないつもりです。
たとえば「直接支援を利用したい」という本人に「その程度の覚悟では無理だよ」とは言いませんし「家庭訪問してほしい」という親御さんに「そう急ぎなさんな」とは言いません。
むしろその願いに応えるように「どうしたらそれが実現するか」という視点に立って話し合いを始めます。
そして「あの直接支援団体を利用したい」とか「就労支援を利用したい」などという希望が本人から出れば、その情報を提供します。「まだその段階ではないから利用するな」と説得することはありません。
大事なのは、相談員がアドバイスしてわからせることではなく、本人や親御さんが自分自身で実感することだからです。
もっとも、情報を提供してもすぐ利用する本人は少ないし、話が進むにつれ「今はどういう段階か」という私の説明とその意味を理解なさって、先を急がずじっくり取り組む気になられる親御さんは多い、というのが、私が相談業務で経験している事実です。
私は直接支援を否定していません。ただこのコラムは、直接支援を利用する意思が固まるほどに気持ちが熟成するまでの道のり(気持ちが熟成したら直接支援を利用せずに再出発する青少年もいます)を大切に考え、その道のりに必要な対応を中心に書いているのです。
2008.10.8 [No.158]
『ごかいの部屋』案内ページへ
3月に放送されたその番組のなかで女優のKさんが、かつて交際男性から暴力を受けていた経験を語りながら、暴力を受けている女性は「逃げたら最後、絶対戻らない」という強い覚悟がなければ別れることはできないので「かくまってくれ」とでも言われないかぎり相談に乗っても無理だと思っている、といった話をしていました。
Kさんは悩んでいる女性の気持ちを考えない、冷たい人なのでしょうか? 自分自身も経験した悩みですから、そんなことはないでしょう。
暴力を受けている女性は、当然「相手の男性から逃れたい」と願っています。ところが、その願いがかなうようにと、周囲が親身になって支援しても、脱出することの困難さや、両者の間に生じている心理メカニズムによって、相手の男性のもとに戻ってしまう女性が多いようです。
Kさんは、このような女性たちをかつての自分の姿と重ね合わせ「願いを実現する意思を貫き通す覚悟が決まるレベルまで気持ちを熟成させることは、本人にしかできない(周囲が熟成させてあげることはできない)」ということを実感しているのだと思います。
同時に「本人には自分の気持ちを熟成させる力がある」という信頼を持ちながらも、最終的には「本人の人生は本人のもの」と腹をくくっていて、本人の気持ちが熟成するときが来るのを待つ覚悟が固まっていることもうかがわれます。
これは「ドメスティックバイオレンス(家族や恋人など親しい相手からの暴力=DV)」の話ですが、どのような問題であれ「支援」のあり方に対する考え方に共通するものです。
おかげさまで当メルマガは7年目を迎えましたが、長い読者の方はご存じのとおり、子どもの不登校と青年のひきこもりへの対応や支援について、私は似たようなことを繰り返し申し上げてきました。
不登校・ひきこもりの“終わらせ方”はなく、終わらせることができるのは、当の本人以外にいないからです(97号)
(堂々巡りは)自分でしかやめられないのです(119号)
このような「本人に厳しい記述」(何人かの読者の方)に対して「支援を求める当事者や支援する関係者の気持ちをどう考えているのか?」というご質問をいただいたことがあります(この場合の「支援」とは、家庭訪問やフリースペースなど、本人への直接支援のことをさしていますので、以下「直接支援」と呼びます)。
結論から言いますと、私の考え方は、今挙げたKさんと同じです。
すなわち、不登校児やひきこもり青年は「学校に戻りたい」「社会に戻りたい」と願っています。それは切なる願いです。
ところが、その願いがかなうようにと、周囲が親身になって学校や社会に戻れるように支援しても、ほとんどの青少年は拒否反応を示すか支援を受けても長続きしないのか、のどちらかです(これは本人の問題ではなく、そういう心理メカニズムだということです)。
私は、このような青少年たちをかつての自分の姿と重ね合わせ「願いを実現する意思を貫き通す覚悟が決まるレベルまで気持ちを熟成させることは、本人しかできない(周囲が熟成させてあげることはできない)ということを実感しているのです(もちろん、熟成した結果学校に戻るかどうか、どのような社会生活を選ぶか、は人それぞれです)。
同時に「本人には自分の気持ちを熟成させる力がある」という信頼を持ちながらも、最終的には「本人の人生は本人のもの」と腹をくくっていて、本人の気持ちが熟成するときが来るのを持つ覚悟が固まっている――そういう相談員でありたいと、日々自問自答しているしだいです。
そのため当メルマガでは、直接支援を求める当事者や直接支援する関係者の気持ちに、ストレートに応える記述が少ないのかもしれません。
ただそれは、そういう自分の立場を明確にしておかないと、メルマガでは言いたいことが伝わらなくなるからであって、当事者や関係者の気持ちを考えていないからではないことを、今の説明でおわかりいただけたでしょうか。
それどころか、相談場面での私は、本人や親御さんの気持ちを決して否定していないつもりです。
たとえば「直接支援を利用したい」という本人に「その程度の覚悟では無理だよ」とは言いませんし「家庭訪問してほしい」という親御さんに「そう急ぎなさんな」とは言いません。
むしろその願いに応えるように「どうしたらそれが実現するか」という視点に立って話し合いを始めます。
そして「あの直接支援団体を利用したい」とか「就労支援を利用したい」などという希望が本人から出れば、その情報を提供します。「まだその段階ではないから利用するな」と説得することはありません。
大事なのは、相談員がアドバイスしてわからせることではなく、本人や親御さんが自分自身で実感することだからです。
もっとも、情報を提供してもすぐ利用する本人は少ないし、話が進むにつれ「今はどういう段階か」という私の説明とその意味を理解なさって、先を急がずじっくり取り組む気になられる親御さんは多い、というのが、私が相談業務で経験している事実です。
私は直接支援を否定していません。ただこのコラムは、直接支援を利用する意思が固まるほどに気持ちが熟成するまでの道のり(気持ちが熟成したら直接支援を利用せずに再出発する青少年もいます)を大切に考え、その道のりに必要な対応を中心に書いているのです。
2008.10.8 [No.158]
『ごかいの部屋』案内ページへ