秋になるとやたらブラームスを聞きたくなる。しかも器楽曲。室内楽以下。特に40を過ぎてから一段と聞くようになった。なんだろう。このメランコリーは。若い時には単純に聞いていたような気がする。それが年々胸をかき乱されながらも、締観が入り交じりながら、まだあがき続けなければいけない途方も無い時間が目の前にある。
そう言った意味では、盛岡にブラームスはよくあう。この城下町に流れる人と時間、突然過去がフラッシュバックする。人の会話、そう苦しいにしても恨みつらみにしても良かった時のはなしにしても、突然ポカっと現れ、消えて行く。人のつながりの壮大なカテドラルが現れたかと思えば、消え去った過去だったりする。
頼りあわなければいけない時代があり、憎みあう時もあったり、それでいてあり得ないほど軽薄だったり、残酷だったり、重層的なものが平気に転がっている街だ。
語りかけてくるのは人だけではない。建物も橋も木も、石も語りかけてくる。
それでもこの街で生きて行かなければいけない。逃げられない。それでいて無力だ。
最近二つ愚痴を聞いた。これは盛岡とは関係なくどこにでもある話だ。
「オレらの青春って何だったんだろう」。いやそこまで若くない。正確には「オレらって、なんなのよ!」これだ。
もう子供の頃から、大人は権威主義者ばかりだった。正確には明治大正生まれの人たちは、原則以外は極めていい加減な人たちだった。だけどある境界があって、そこに踏み入る事は一切許さない人たちだった。プライバシーではない。形式と地位を重んじるのだ。だから逆に解りやすかった。そして質問とかには鷹揚に答えてくれた。まあもの凄くはぐらかされたが。
だが時代は彼らの考えは古い!終わっている!ダメ!と否定されていた。
別な権威主義者がいたのだ。昭和生まれの元軍国少年と革命運動派だ。こちらは年が近かったので、かなり影響した。
二つの愚痴もそうだった。「お前は社会を解っていない」。そう言われてもう何年経ったのだろうか。そう言った愚痴だ。いつまでオレらは社会から外されたままになっているのだろうか。
「お前には理論すら解っていない」。おかげでポストモダン論は勉強しましたが、まあ彼らには説得力がないですね。逆に右翼の人との方が話し合えるかも知れない。未来は一つだけではないのに。
「未熟だ」さすがにもうここまで言われると。何なんでしょうね。もう半世紀近く生きています。
そうして後輩達の突き上げですね。いや先輩達のそのウサンクサさもあるけど、大切な事は教えなければいけない。
だが就職氷河期の世代は、「甘いですね、数字ですよ、確かなのは」そう言われ続けた。ありがたい事に最近彼らが弱って来ている。そしてゆとり。「人脈って大切なんですね、で、先輩は?役に立つんですか?」露骨にここまでは言わないが、明らかにこういったニュアンスはある。そして悟り世代になると「それ解んないです、だからいらないです」となる。
おかしい。僕らは上からのわけの解らなさに喘ぎながら、下にはもっと自由でいいんだと伝えるブリッジだと思っているが、それすらも全否定を食らっているのだ。それってバブルだよね?とか言われて終わってしまうのだ。
だから俺のどこにバブルがあるのさ!地方国立大にはバブルと言う言葉はなかったし、ジュリアナとかそう言った空気は吸っていないぞ。当時の収入は無いに等しかった。そして当時にはユニクロもシマムラもなかった。
なにか使命までも奪われている気がする。
「お前は社会を解っていない」というのは、2年前にヤンキーの40歳から言われた。
どうとでもなれ、と思っていたら先輩が引退した。長年付き合って来た先輩なのだが、全く人望のない人だった。そして私も嫌いだった。
だが付き合って来た時間もある。恩もある。いい思い出を捜すとやはりあるのだが、驚くほどの規則性があった。
いい思い出の後に、必ず彼はお前は未熟だと言い続けたのだった。手を代え品を代えではあったが、中身はそうだった。いや彼も苦悩していたのだが、着地点はそうでないと彼には都合が悪かったかも知れない。
着地点すらない思いでもある。「お前は表現をレンズに頼っている。だから50ミリと35ミリ以外は使うな」といった半年後、400ミリレンズを持って「スナップ楽だわ~」と言い放った時、私の殺気を彼は無視した。
正直な所、いい思い出を捜して顕彰しようと思った私がバカだった。時が経ってもダメなものはダメだった。
いつもその先輩の青臭さを嫌っていた。でもその先輩が引退したら、青臭い私を残して勝手に引退する彼を、酷く憎んでいる。
大人ってなんだろ。48歳がこんな事を言うのはおかしいだろう。
女もいなけりゃ子供もいないから大人になれないのだろうか?
私が大人でないのは間違いがないのだが、ムニャムニャは多分一生解決しないんだろう。
少なくともこの理不尽だけは、誰にも伝えたくない。
ガキなんだけどブラームスが身にしみるって、おかしくないか。