JBLのパラゴンといえば、35年前のオーディオ雑誌のよくあるカタログ的に並べた中で、一番最後に出てくるものだった。つまりはお高いのだ。だが音については誰もが「異次元の音」「パラゴンとしか言いようのない」とか、よくわからないことばかり書かれたスピーカーだ。
で、それが盛岡にある。BAR CAFE THE Sにベーゼンドルファーのグランドピアノと共にある。オーナーが宮古市出身で津波にあって盛岡で店を開いたと言う経緯がある。ベーゼンドルファーは直すのが大変だったようだ。何しろ響板に水が入っただけでも大騒ぎなのに、津波にあったからだ。詳しくは聞かなかったが、このパラゴンも全ユニット交換だからこれも津波にあったのだろう。
なおパラゴンという意味は「最上等の最高の」という意味になる。「天国の」という意味でいいだろう。なおこの言葉の意味を初めて知ったのは、オランダのチューリップバブルについて書かれた本で知った。チューリップのパラゴンは家一つと取引された。その意味ではJBLのパラゴンはお安いかもしれない。とはいっても最後期の350万はどうなんだろう。ただ標準パラゴンはそういったものだが、受注生産なので黒檀仕様とかオネダンには上限がなかったと言われている。でも現代のピュア・オーディオのアホくさい価格に比べれば、良心的だったかもしれない。
わからないところがある。初発売は1957年で、確かにステレオ勃興期で需要はあった。なのでプロ用機材を作っていたメーカがこぞってこの高級コンシューマーに参入したのだ。だが誰がこれを買ったのだろうか。
構造上、音を拡散させて反響させるようになっている。ウーファーの長いフロントホーンはかなり珍しい。予想される音は、「柔らかい」の一言だ。でもホーンから出てくるウーハーとツィーターの音とは周囲に馴染むように拡散しなければいけない。そして中央の円形の板に反射されるミッドレンジホーンからの音は、そこにあることを証明するように定位が出ている。全部が柔らかく拡散する音で、音が出ているところだけは明快になるようにしている。
問題なのは、それが必要な場所とはどういったものか。多分お城だろう。そのダンスフロアーにあるスピーカーという感じだ。今現在だったらダンスをする人はサラウンドシステムの音が踊りやすいい。理由はどの位置でも音の強弱に変化がないからだ。確かにスピーカーから近ければ音は大きいが、ダンスフロアーは大きい。最低でもバスケット2面欲しい。その中でのサラウンドシステムになるが、当時だったらどうなのでだろうか。
楽団がいるイメージがあっただろう。楽団がいて全体に音が行き渡るシステムというのが当時の理想だろう。それをスピーカーで作るというのが、パラゴンだったように思える。
簡単にいえば広い面積で左右にスピーカー置かれるより一点で音が出た方が踊りやすかったと考えている。しかも部屋の隅にだ。
ということで、パラゴンはそういったスピーカーだと。そういったお金持ちのスピーカーだったと思う。だがステレオに慣れてしまうと今度は初期のBOOSになるわけですね。これまた音を壁にぶつけて拡散させるタイプのスピーカーでした。
あんまり音量を上げてくれないSということですが、何か仕方がないような気もします。
多分これでも部屋が狭いのでしょう。スピーカーが近いと欠点が見えます。でも圧倒的に中域のホーンが素晴らしすぎる。これはすごい。多分このミドレンジのホーンがあったからこの設計があったのだろうと思わせるほどに素晴らしかったです。
最後に、当時のJBLが単純なプロダクトインでものを作っているとは思えません。需要があったというのが正しいと思います。その需要がどういったものかというのはよくわかりませんが、前に書いたダンスだ。
そしてなのだが、Sのマスターいわく「盛岡には4台パラゴンがあると考えています」。確定しているのは2台でそのうちの一台がこれだが、他に2台ありそうなのだ。盛岡だけで全生産台数の1/250があるというオソロシイ話だ。岩手県では公開されているパラゴンは3台ある。そう考えると日本にはパラゴンは何台あるのかという話になる。もしかすると人工割で400台はあるかもしれない。アメリカから買ってきているようだ。「それらも中国に流れているようですね」。ただ中国人の方がもしかすると正しく使ってくれると思う。パラゴンを買ってくれる中国人はきっと見事な部屋を用意してくれるだろう。ここには確信がある。
やっぱり異次元ですから。ニアーで聞いたらダメだよ。やっぱりこいつは遠くで聞くものだ。
最高に面白い楽器なのは間違いがない。イタリアあたりのお城が買えたら考えてもいいな。