司会 これだけ高度な庄内の医療技術や医療があるということで、それを地域の振興に結びつけていこうという視点も必要なのではないかと思う。そこで産業との連携ということで少し話を伺いたい。事前に松田先生からこういうものがあるということを話していただいたものが、ここに例として載っている。まず先端研の「うつ病の研究」について、松田先生から説明をしていただきたい
三原先生、鶴岡市で進めている未来健康調査というのはどういったものか。
三原 松田先生から話のあった先端生命科学研究所が持っているメタボローム解析というのは世界最先端の技術で、血液や尿などに存在する多数の物質を網羅的に測定できる。ものすごい数の物質を検出できるのだが、どの物質がどのような疾患に関わっているのかはまだよく分かっていない。今はうつ病やがんの診断などに応用されているが、それを検診に利用できないかという試み。
血液を採取するだけで、「あなた糖尿病になりやすいですよ」、「がんに少しかかっていますよ」ということが分かるようなことを目指している。まずは、1万人分の血液を採取し、その人たちを25年間追跡調査することにしている。
例えば、登録した人が10年後に糖尿病に罹ったら、遡ってどの物質が高くなっているのかを調べる。そうした研究を重ねることによって、こういう物質が上がっていれば糖尿病になりやすい、がんになりやすいということが将来分かるのではないのかと期待している。このような、壮大な研究を鶴岡市で始めていて、今年が2年目。登録数は現在7000ぐらいになっている。3年間で1万人を登録し、今後25年間フォローするという夢のあるプロジェクトである。
司会 これは鶴岡市でやっているのか。
三原 鶴岡市と慶応義塾大学と鶴岡地区医師会の共同研究として進めている。また、生命先端科学研究所の富田所長がすごいなと感じるのは、研究を通しての人材育成を重視していること。現在、市内の高校生を研究生として招き入れ、「鶴岡からノーベル賞を」というメッセージのもと、自由な発想でのさまざまな研究を支援している。従来、先端的な研究は大都市発であったり、国が主導したりということが多かったと思うが、これからは鶴岡のような地方都市から全国、あるいは世界へ発信していきたい、そんなモデル地区になりたいということもおっしゃっている。非常に勇気づけられているし、地域の時代だなとも感じている。
司会 未来健康調査は最終的には創薬というか、薬を開発するというところまで考えているのか。
三原 もちろん、創薬もひとつの目標だが、検査キットの開発など、先端技術をさまざまに応用可能なのではないかと思う。
三原 私の高校の同級生が鶴岡戻ってきて、地域にある優秀な技術を持った会社の人たちを集めて、医療・介護向けの商品開発をしている。例えば荘内病院で、使いにくかった回診車をオーダーメイドで作るなど、介護や医療の分野で地域にある技術を生かしたものづくりができなかと活動している。地域には、優れた技術を持った中小企業がある、それらは東京の下請けになったりしているが、地域ならでは独創的な商品づくりをし、全国に展開できないかという動きもある。そういった意味では、医療介護分野はさまざまな機器があるし、参入の余地がある分野ではないかと思う。
抱負
2025年をピークに高齢者は減少に転じるが、2040年までは医療依存度、介護依存度の高い85歳以上の高齢者が急増する。さらに、高齢化に比例して認知症も増加するし、さらには独居世帯も増えていく。今後20数年間は、高齢者をどう支えていくかがどの地域においても大きな課題。これからの超高齢社会では、認知症なっても、障害を抱えていても、独居であっても、その人らしく、安心して暮らせるシステム(地域包括ケアシステム)が必要。その実現のため医師会としても尽力していきた。