鶴岡地区医師会だより

三原一郎目線で鶴岡地区医師会の活動を配信しています。

コミュニティー新聞 新春座談会(庄内の医療の現状と将来を語る) 4回目

2014-01-20 12:19:43 | 日記



司会 これだけ高度な庄内の医療技術や医療があるということで、それを地域の振興に結びつけていこうという視点も必要なのではないかと思う。そこで産業との連携ということで少し話を伺いたい。事前に松田先生からこういうものがあるということを話していただいたものが、ここに例として載っている。まず先端研の「うつ病の研究」について、松田先生から説明をしていただきたい

三原先生、鶴岡市で進めている未来健康調査というのはどういったものか。

三原 松田先生から話のあった先端生命科学研究所が持っているメタボローム解析というのは世界最先端の技術で、血液や尿などに存在する多数の物質を網羅的に測定できる。ものすごい数の物質を検出できるのだが、どの物質がどのような疾患に関わっているのかはまだよく分かっていない。今はうつ病やがんの診断などに応用されているが、それを検診に利用できないかという試み。
血液を採取するだけで、「あなた糖尿病になりやすいですよ」、「がんに少しかかっていますよ」ということが分かるようなことを目指している。まずは、1万人分の血液を採取し、その人たちを25年間追跡調査することにしている。

例えば、登録した人が10年後に糖尿病に罹ったら、遡ってどの物質が高くなっているのかを調べる。そうした研究を重ねることによって、こういう物質が上がっていれば糖尿病になりやすい、がんになりやすいということが将来分かるのではないのかと期待している。このような、壮大な研究を鶴岡市で始めていて、今年が2年目。登録数は現在7000ぐらいになっている。3年間で1万人を登録し、今後25年間フォローするという夢のあるプロジェクトである。

司会 これは鶴岡市でやっているのか。

三原 鶴岡市と慶応義塾大学と鶴岡地区医師会の共同研究として進めている。また、生命先端科学研究所の富田所長がすごいなと感じるのは、研究を通しての人材育成を重視していること。現在、市内の高校生を研究生として招き入れ、「鶴岡からノーベル賞を」というメッセージのもと、自由な発想でのさまざまな研究を支援している。従来、先端的な研究は大都市発であったり、国が主導したりということが多かったと思うが、これからは鶴岡のような地方都市から全国、あるいは世界へ発信していきたい、そんなモデル地区になりたいということもおっしゃっている。非常に勇気づけられているし、地域の時代だなとも感じている。

司会 未来健康調査は最終的には創薬というか、薬を開発するというところまで考えているのか。

三原 もちろん、創薬もひとつの目標だが、検査キットの開発など、先端技術をさまざまに応用可能なのではないかと思う。

三原 私の高校の同級生が鶴岡戻ってきて、地域にある優秀な技術を持った会社の人たちを集めて、医療・介護向けの商品開発をしている。例えば荘内病院で、使いにくかった回診車をオーダーメイドで作るなど、介護や医療の分野で地域にある技術を生かしたものづくりができなかと活動している。地域には、優れた技術を持った中小企業がある、それらは東京の下請けになったりしているが、地域ならでは独創的な商品づくりをし、全国に展開できないかという動きもある。そういった意味では、医療介護分野はさまざまな機器があるし、参入の余地がある分野ではないかと思う。

抱負
2025年をピークに高齢者は減少に転じるが、2040年までは医療依存度、介護依存度の高い85歳以上の高齢者が急増する。さらに、高齢化に比例して認知症も増加するし、さらには独居世帯も増えていく。今後20数年間は、高齢者をどう支えていくかがどの地域においても大きな課題。これからの超高齢社会では、認知症なっても、障害を抱えていても、独居であっても、その人らしく、安心して暮らせるシステム(地域包括ケアシステム)が必要。その実現のため医師会としても尽力していきた。

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コミュニティー新聞 新春座談会(庄内の医療の現状と将来を語る) 3回目

2014-01-20 12:19:03 | 日記


司会 非常に多岐にわたる問題提起を頂戴した。次に、ちょうかいネットの現状、地域医療機関との連携の現状がどうなっているのか。これからどういう方向で動いていくのか

司会 では三原先生、鶴岡地区のほうでは「地域医療連携室ほたる」もやっているようだが。

三原 在宅医療連携拠点事業というは、在宅医療に係る多職種の充実を図るべく、多職種間のコーディネート役としての拠点を地域に置き、多職種協働による在宅医療の支援体制の構築などを目的とした始まった国の事業。この事業の背景には、在宅医療を推進する上で、医療と看護の連携がうまくいっていないということがある。地域のコーディネート機能は、本来であれば地域包括支援センターが役割を担うべきなのだが、地域包括支援センターは、介護寄りの組織でなかなか医療との連携ができていないという背景もある。

鶴岡地区医師会は、3年前の事業開始初年度に全国10のモデル地区の一つに選ばれた。この事業は、医師会、在宅療養支援病院、訪問看護ステーション、行政など多様な組織に拠点を置き、どれだけの成果があるのかを調査研究する目的であった。翌年には、全国で105か所に展開し、各県に最低1つの拠点が設置されている。山形県では鶴岡地区医師会に一か所だけあるが、将来的には、二次医療圏に1つぐらいを設置する構想のようである。

しかし、この事業は、民主党の仕訳作業での指摘もあり、2年間で終了した。その後は、国から県へ事業が移行し、多くの県では、県の事業として継続されている。一方、山形県では、在宅医療連携拠点事業に対する認識が低く、当県には在宅医療連携拠点事業は存在しない。当地区医師会では、地域医療連携室「ほたる」と名称を変え、医師会の一つの部署として、現在4人体制でして活動している。

先般、国の議論のなかで、在宅医療連携拠点事業は在宅医療支援事業として制度化し、今後は市町村が地域包括支援センターや地区医師会へ委託することにすべきとのこと。2015年度からは、鶴岡市が鶴岡地区医師会に委託するかたちで、在宅医療連携拠点事業を継続するという流れになるのではないかと思っている。

Net4Uは、地域電子カルテとしては草分け的な存在。2000年の経産省の補助金事業で開発したシステムだが、当時開発されたシステムのほとんどがとん挫した。現在も稼働しているのは鶴岡のNet4Uだけだと思っている。13年間地域で使い続けた中で、もっとも利用価値が高いのは在宅医療の分野だ。病診連携という医師同士の連携よりも、むしろ、医師と訪問看護師、ケアマネジャーなど、多職種連携の中で有用性を発揮している。

とくに有用なのは在宅緩和ケア。がんの末期の患者さんが病院から在宅療養に移った後は、在宅主治医、訪問看護師、薬剤師、理学療法士など、さまざまな職種が患者さんに関わるが、それぞれが違う組織に属していることが多く、顔を合わせる機会が少ない。そのような多職種の情報共有、コミュニケーションツールとして威力を発揮している。

なかんずく有用なのは、病院の緩和ケア専門医のNet4Uへの参加。がん末期では、麻薬の使い方とか輸液の量とか、緩和ケアに慣れていない一般のかかりつけ医には判断が難しいことも多々あるが、Net4Uを介して、病院の緩和ケア専門医からリアルタイムにさまざまなアドバイスをもらえることは在宅主治医や訪問看護師の安心感につながっている。

さらにNet4Uは、ちょうかいネットとも繋がっており、病院の治療内容や検査結果もNet4Uを介して閲覧できる。地域の全ての医療機関がNet4Uに参加すれば、患者さんの情報を病院から施設まで網羅できる仕組みはすでに出来上がっている。あとはそれをどうやって普及するかという時代に入ってきた。

司会 普及させる上での課題は何か。

三原 まずは、コスト。仕組みを運用する資金を誰が負担するかが最大の課題。幸い鶴岡の場合、医師会に経済的基盤があるので、ある程度の費用を負担できている。しかし、収入のない医師会では難しい。医療情報ネットワークのようなある種の公共インフラにかかる費用を誰が負担するのかというのは、普及に際しての大きな課題と思っている。


三原 急性期から回復期という流れの中で、地域連携パスの話をしたい。鶴岡では2006年から地域連携パスを導入した。最初のきっかけは、荘内病院では、大腿骨骨折の患者の手術数が多く、これ以上増えたらパンクするかもしれないという危機感から、鶴岡地区に2つあるリハビリテーション病院にパス化を呼び掛けたことに始まる。パス化することで、転院がスムーズになり、荘内病院の在院日数は4週から2週間へと半減した。
続いて取り組んだのが脳卒中。多くの寝たきりの患者の原因になっている脳卒中対策は、地域での大きなテーマ。脳卒中患者は、急性期の治療を経て、回復期病院でしっかりとリハを受け、社会へ復帰するというコースをとることが多いが、この流れの中で、必要な診療情報を共有し、切れ目のない医療を継続することが求められており、そこに地域連携パスの必要性がある。当地区ではさらにパスをIT化、疾患データベースを構築することで、再発、日常生活機能低下を予防する疾病管理に取り組んでいる。

データ分析の例として、2010年1月から2年間に登録された1041名の脳卒中患者のうち、維持期へ移行した症例742名を、維持期パス移行群(742名)と非移行群(306名)とで比較した。データを分析した結果、維持期パス参加群においては、再発率の低下と再発までの期間の長期化がみられ、さらに再発の危険因子として心房細動が有意に高いという結果が得られた。このような成果は、IT化された地域連携パスの運用で初めて明らかできたことであり、地域のなかでのIT化、情報ネットワーク化を進めることが、疾病管理を通して、地域の医療の質の向上に寄与できることを示したという意味でも価値があると考えている。


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コミュニティー新聞 新春座談会(庄内の医療の現状と将来を語る) 2回目

2014-01-20 12:18:01 | 日記


司会 医師、看護師の確保が大きな課題となっている。日本海総合病院は今年4月1日時点で医師数は136人、荘内病院は73人ということだが、この数字をどうとらえるか。地域の今後の医療体制の在り方にも非常に絡んでくる問題だと思うが、どうか。

三原 医師不足、看護師不足は地域医療の最大の問題で、特に病院の勤務医不足は深刻。荘内病院の勤務医数は全国平均の約半分でしかない。総合病院としてやっていけるも、あやしくなっている。

看護師に関しては、鶴岡地区医師会は多数の施設を運営しており、多くの看護師を雇用しているが、募集してもほとんどこない。看護師不足を実感している。

看護師が定着しない要因のひとつは、特に病院勤務の看護師の仕事が過酷なためだと思う。職場環境を改善し、働きやすい、働き続けられる環境整備が重要。看護学校をつくれという意見もあるが、いくら養成しても労働環境が厳しければ辞めてしまう。男女共同参画と言われて久しいが、まだまだ女性の働く環境は改善の余地があるのではないか。看護師としての仕事を続けられる職場環境、潜在看護師の再雇用、どちらも並行してやらなければ抜本的な解決にはならないと思う。

医師不足の背景にあるのは、医師の偏在(地域の偏在と科の偏在)である。山形県内をみても村山地域だけが勝ち組で、ほかの地域では医師不足が深刻化している。それをもう少し改善できる仕組みにしてもらうと、我々としても助かる。

司会 忌憚のないところで、お一人ずつ伺いたい。今、三原先生から「これからは病院の役割分担が必要になってくるのではないのか」という発言があったが、そのあたりについてどう考えているか。お話ししていただける範囲で結構だが、将来の地域の医療を考えた場合に、医療体制、医療資源を有効に使うということを考えた場合にどうなのか

三原 これからさらに高齢者が増えていく中で、医療のあり方は大きく変わらないといけないし、たぶん病院のあり方も変わらなければならない。その単位をどこにするのかという問題だと思う。庄内全体の方が良いのか、鶴岡、酒田にそれぞれに急性期病院があった方が良いのか、ということだ。

高齢者対策というのは、介護保険で高齢者を支えていくという仕組みになっているので市町村単位になっている。そうなると、鶴岡市には開業医、さまざまな老人施設、ヘルパーステーション、訪問看護ステーションなどを支援する病院が必要。もちろんそれぞれの機能は違うのだが、地域を一つのユニットとして考え、包括的にサービスを提供できないと、高齢者が40%になる超高齢社会を生き残ることは難しい。さらには住民を巻き込んで、少子超高齢社会をどうするのか、というような議論もしていかないと、たぶん乗り切れない大きな課題を突き付けられていると思う。

だから私は、統合というのは確かに効率的だが、一方で、まちづくり、おらが町の病院というような地域としてのまとまりも必要なのではと考えている。そういう意味でも、荘内病院には、地域の支援病院としての機能を期待している。


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コミュニティー新聞新春座談会 (庄内の医療の現状と将来を語る) 1回目

2014-01-20 11:50:21 | 日記


司会 庄内には、高度な医療技術、最先端の医療機器が豊富にあると思うが、具体的にどんな医療を受けることができるのか、紹介してほしい。
例えば、日本海総合病院では、PET―CTを2012年6月1日に庄内で初めて導入した。また、同病院は、県内で3番目となる救命救急センターを2011年に開設した。同センターには、世界最速の処理能力のある320列のCTや、血管の造影装置もある。
荘内病院は、県のがん診療連携指定病院に指定され、山形県の地域周産期母子医療センターにもなっている。

司会 鶴岡地区では、どういった先端医療が受けられるか。

荘内病院の脳神経外科では、かなり以前から血栓溶解療法といって、脳卒中の超急性期に血栓を溶かす薬を使うことによって脳のダメージを軽減できる治療法を消防隊と一体化して運用している。また、血管内にカテーテルを挿入し、脳血管内の血栓を除去するという最先端の治療も行っており、日本海総合病院から紹介してもらうこともあると聞いている。

また、脳卒中については以上のような前方連携だけでなく、発症後にリハビリテーションを行い、在宅に戻すプロセスも必要だが、そのような後方連携では、地域連携パスを導入し、患者さんをスムーズに回復期リハビリテーション病院に転院させ、そこでしっかりリハビリテーションを行い、機能を回復させ地域に戻すということをシステム化して行っている。脳卒中に関しては発症から在宅まできちんとしたレールが敷かれていると思う。

ほかにも、内視鏡を利用した非侵襲的な肺がん治療なども積極的に行っており、少なくとも外科の技術はかなり高い病院だと思っている。

また、鶴岡は、全国から4か所が選定された厚生労働省の「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」を受託し、地域における緩和ケアの普及を目指し、多岐にわたる活動を行ってきた。がんに関しては、どうしても治せないという患者さんがいる。従来、そういった患者さんの多くは、病院で治療し、そのまま病院で亡くなっていた。ここ数年はその流れが随分と変わってきていて、住み慣れた自宅で家族に囲まれながら病院並みのケアを受けつつ、在宅で看取とることが可能となってきている。鶴岡の在宅緩和ケアの質はかなり高いものになってきていると評価している。

司会 今話が出た投資効率の問題は、医師不足、看護師不足のところで詳しく聞きたい。三原先生、荘内病院は脳外科、外科、緩和ケア、内視鏡技術などのレベルが高いという話だったが、地域としてはこれから何が必要になるか。

三原 そこは日本海病院との役割分担ではないか。荘内病院があえて高額の投資をして何か新しいことをやっていくというような時代にはならないと思う。とにかく、今、地域での一番の課題は少子超高齢化社会。高齢化率は鶴岡も酒田もだいたい30%ぐらい。これがさらに進み、あと20年以上、2040年頃までには高齢化率40%にまで上昇する。そういった中では、新しい治療を模索するより、高齢者を地域の中でどう支えていくか。どうすれば、高齢者が最期まで安心して生き生きと暮らせることができるのか。これからはむしろ、そういった地域づくり、まちづくりが必要になる。
もちろん、病院には先端医療もお任せはするが、地域の中で支えなければならない高齢者人口の方が圧倒的に多くなるわけだから、治す医療から支える医療へと変えていかなければならない。荘内病院のような地域支援病院は、最先端に突出するのではなく、最先端を担いつつも、地域に根差した病院であってほしいと思う。



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