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在宅医療を考える会 講演会
「在宅で”食べる”をささえるということ」
日本歯科大学教授 口腔リハビリテーション多摩クリニック
院長 菊谷 武 先生
2月22日(日曜)13:30-16:30
慶応大学生命先端研 レクチャーホール
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配布資料
在宅医療を考える会は、庄内プロジェクトの地域連携WGに属し、在宅医療を担う医師を中心とした会で、年に3-4回のペースで研修会や勉強会などを行っています。今回は、在宅医療を担う医師、看護師、介護スタッフなどにとって必須の知識である「食べる」をテーマに、この分野では第一人者の口腔リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷 武先生をお呼びして、勉強会を開催しました。
菊谷先生の講演は、過去2回聴いたことがありますが、内容もさることながら、聴き手を飽きさせない、笑いをとれるという意味でも、大変参考になります。
まず、冒頭である医師会で講演したときの話がありました。その地域では、年間350の死亡例のうち、250人は医療機関で亡くなっていたが、100例は検死事例だったとのこと。すわなち、医療が介入しないままに亡くなっている例が1/3程度あるという衝撃的な数字だったとのことでした。そのような背景を踏まえ、「在宅医療は、医師としてのモラル」(医師は最期まで責任をもって診なければいけない)と、その医師会長は語っていたとのことです。
さて、高齢者では、食欲の低下や食べる機能(噛む力、飲み込む力)の低下などにより、十分な栄養を摂取できなくなり、低栄養から、体重減少、筋力の低下、骨折、認知機能の低下、病気になりやすい、歩けない、寝たきりなどの症状を引き起こします。
そこで、注目されているのが介護食(最近はスマイルケア食と呼ぶそうです)です。低栄養予防にもつながる豊富な栄養素はもちろん普通の料理と変わらない見栄え食べやすさ、そしておいしさを備えた介護食が注目されています。
スマイルケア食については以下のビデオをご覧下さい。
今回の演者である菊谷先生がゲストとして出演し、コメントを述べています。
徳光・木佐の知りたいニッポン!
~食べる喜びと笑顔を!新しい介護食品 スマイルケア食
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg10939.html?nt=1
摂食・嚥下は、以下の複雑かつ精緻な運動で行われています。
・すりつぶす力(咀嚼)
・押しつぶす力(広義の咀嚼)
・まとめる力(食塊形成)
・送り込む力(口腔咽頭移送)
・飲む力(嚥下)
どの部分の障害かによって食形態が決まります。
一方で、「できること」と「していること」には開離が多いのが現実です。
例えば、食べる機能は残存しているのに食べることに全く興味がないため食べない人もいます。すなわち、心理的要素や患者自身の価値観に左右されることもあるのです。
認知機能が低下すると以下のような現象がしばしばみられます。
右欄のような対応を試みます。
食事がはじめられない → 行動提示
口を開かない → 感覚刺激の導入
一皿づつ食べる。食べ物を無視する → 促し
食事に集中できない → 環境の整備
食べるのが速い → 食形態の変更、介助導入
口の中にため込む → 感覚刺激の導入、姿勢の調整
食事中にうとうとする → 食事時間の検討、低栄養防止
こんな事例があったそうです。
特養入所中の90歳の食べなくなったルツハイマー患者。胃ろうをしないとあと1-2週間と施設から言われた。1-2週間程度なら自宅で看取ろうを連れ帰ったら食べ始め、6か月以上経つが今も存命。介護する側の家族はあてが外れたと(笑)。
食べる機能を改善することは難しく、食べることを支える環境を整備していくことが重要です。そのためには、適切な食形態の選択や、食べ方の指導、上手なスマイルケア食の選択などの工夫が大事になります。
まとめ
・「食べる」ことは介護に力を与える
・患者を取り巻く環境に目標や予後が左右される 新しい環境を作っていく努力
・地域における嚥下医療はシステム論である
医学が進んでいないのではなく、システムが進んでいない
多職種連携が必要だが、その構築には苦労も多い
川上(病院) から 川下(在宅)まで切れ目なくつながる必要性
・「できる」 より 「している」 を目指す (本人ではなく周りを変える)
・普遍性よりも個別性、物語を志向する。