「つがいの鶏」と「鶏のぴいぴい」と12年前に起こした型の人形は型で抜き出しているところですが、まだ他の案もあるので手がけたいと思っていますが、ふと思い出したのが、以前プールしていたお手本の中に一文人形の「諌鼓鶏」(かんこどり)があったような、、、。しまっておいた箱を取り出して捜してみたら、「諌鼓鶏」ともうひとつ捻りの鶏がありました。早速、「諌鼓鶏」のほうをお手本にして型を作ってみました。
「諌鼓鶏」というのは中国の故事に由来する鶏の姿、図案で、太鼓の上に鶏が止まっているという構図で、よく知られているところでは江戸の天下祭と呼ばれた神田祭(神田明神)や山王祭(赤坂日枝神社)で渡御する山車の列の先頭にいる鶏の姿がそれです。祭の様子を描いた錦絵にも見ることができますし、現在でもお祭りに出てきます。また地方のお祭りの山車にもこの飾りは見られます。
昔、中国に尭帝(ぎょうてい)という聖天子が朝廷の門前に太鼓を置き、天子の政道に誤りがある時は人民にそれを打たしめてその訴えを聞こうとしたが彼の政治に誤りが無く、打つことが無かった為、鳥が太鼓に巣食う有様であったと言う故事に由来します。「諫鼓苔深うして鳥驚かず」と漢詩にも詠まれ、天下泰平の象徴とされているおめでたい形なのだそうです。
各地の郷土人形の中に鶏が太鼓の上にとまっている図案のものが見られると思いますが、もともはこの 「諌鼓鶏」からきているようですね。さて今戸焼の土人形の古いものの中にこの構図はあったのかどうか、ずーっと考えていたのですが伝世の人形にも近世遺跡からの出土品にも見たという憶えがなかったので、不思議に思っていました。そして、創作として人形を起こしてみたいと思っていましたが、悶々としていたこと、、。山王様や明神様の山車に乗っている鶏の姿は2本の足で立ち上がって羽ばたいているポーズなのです。作れないこともないのですが、脆い素焼きでは負荷ですぐに壊れてしまいそうです。仕方なく足を直立させず、翼も拡げずに太鼓に止まっているしかないかな、、、といろいろ考えていたのですが、灯台もと暗し、以前プールしておいたお手本用の人形の中にそのものがありました。
一文人形なのでとても小さく、形も甘くなっていますが、実際に存在しているということがうれしいです。一文人形という言葉は今戸焼の人形についての説明には大抵ついてくる有名な「さわり」なんですが、鐚銭一文で鬻ぐために極力手間を省いて作られた粗製の豆人形というイメージですが、実際のところ壊れやすかったり小さくてすぐ失くしてしまいそうなせいか、残っているものにお目にかかることが少ないです。我が家にプールしているもの、そんなにたくさんありませんが、いくつか異なるタイプのつくりのものがあります。
①もっと大きめの標準的な人形と同じく2枚の割り型から抜き出してあるもの。
②片側1枚の型から抜き出したもの、あるいはそれに手を加えたもの。
③型を使用しないで手捻りによるもの。
今回の 「諌鼓鶏」は②のタイプなので「どろめん」にも似ていると思われる方もあるかもしれません。「打ち込み」といって片面だけのつくりの土人形の一種に属するものだと思います。
兎に角小さくて、彫もぼけているので抜き出した形状だけだと何だかわからないような感じで、色をつけてやっと何であるかわかるといった体のものです。
一文人形にあるのだから、もしかするとまだ実見していないだけで、この一文人形よりひとまわりもふたまわりも大きな 「諌鼓鶏」の人形も今戸にあったのではないかと想像してしまいます。
何だこれは?と思われるような出来になるかもしれませんが、とりあえず実在する人形をお手本に作ることのできるありがたさ。これからこのほかの案の鶏にも挑戦してみたいと思います