土鈴愛好家の方のご希望により試しに土鈴仕様に鈴口を切って、紐通し孔をあけて作っています。
拙作の人形をはじめて手に取って振ると音がするのでびっくりする方や、「吉田さんの人形は土鈴のようですね。」と言われたことが何度もありますが、いつも「土鈴は鈴口が切ってあるから土鈴で、人形には鈴口を切らないで仕上げます。昔の人形、昔の今戸焼の人形にはガラ(土玉)を入れて、振るとカラカラ鳴るようになっているのが特徴のひとつなのでそのようにしています。」とお答えしています。今戸の土人形は今戸での窯業の展開の途中から当時上方からの下りもののひとつだった京都の伏見人形が江戸に入ってきて、その模倣から始まったという歴史があるので、古い伏見人形の備えていた特徴を受け継いでいるポイントのひとつがガラを入れることだと思いますし、歴史の証としてみることができると思います。江戸明治の今戸人形、そして最後の生粋の今戸人形作者であった尾張屋・金沢春吉翁(明治元年~昭和19年)がお作りになった人形の中にもガラ入りが存在します。秋田の八橋人形、横手の中山人形の古作、鶴岡の土人形他新潟県内の古い産地のものにもガラが入っているのは、昔の伏見人形にガラが入っていたものを模倣したという遺伝子のようなものだと思います。
これまで土鈴愛好家向けに鈴口を切ったことが数回ありますが、今回、丸〆猫(昭和戦前風型)と本丸〆猫と提灯持狐の3つを試しに土鈴仕立てにするということでやっています。
割型に土を詰めて押し、型から外してバリをとるところまでは普段と同じ。(土鈴の場合肉薄のほうがよいとか言います。)すぐに切ると粘りや貼りつきで鉄ベラが使いにくいのでしばらく置いて、土が落ち着いてからはじめます。まずは鈴口の両端にくる丸孔を「ポンス」で開けて、更にしばらく置いてすこしでも土が落ち着くのを待ちます。「ポンス」は金属製の筒で斜めに尖っているものや王冠のように先端がジグザクになっていて回転させながら粘土を刳り貫く道具で、うちでは大抵「ぴいぴい」(鞴つき人形笛)の背面の孔あけに使っています。
しばらく置いてから定規を当てながら丸孔同士を細い切り口で繫ぎます。ここで土が刃先にねばりつくと汚くなります。
すぱっと潔く切り込んであまりいじらないで、もう少し落ち着いてから鞣すか、またはしっかり乾燥してからサンドペーパーを当ててきれいにします。鈴口の切れのよさは愛好家の方のチェック点のひとつなのですが難しいです。
紐通しの孔開けも難しいと思います。土鈴としてデザインしたものではないので孔を開ける位置で猫が可愛そうに見えたり(動物や人の頭や顔を孔が貫通しているのは残酷な感じです。)
といって可哀そうでない位置に開けた孔が紐を通した時の全体の重力のバランスに沿っているとは限らないからです。
この丸〆猫の場合、前掛けの紐の結び目付近に紐通し孔を開けることが人形のためには一番無難ですが、紐を通せば重心は前屈みになって、人形の底が素直に真下にくるとは限らないからです。今回はこの様子を見ていただいて、相談の上今後の位置の変更など考えることになります。
昔の今戸人形やその周辺には純粋に土鈴としてモデリングされたものも若干あり、いつかはそれらも手掛けていきたいと思います。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます