14.2 コヨーテとチャパラル固有の鳥
『スーレたちは、ロマ岬の林を訪れた。一万平方メートルほどの小さな林で幼い頃のようにチャパラル(低木からなる林)特有の鳥の声を聞き、姿を見ようとした。しかし声は聞こえず姿も見えなかった。「衝撃だった。これほど深刻だとは気づいていなかったのだ」
彼らは、本格的な調査に取りかかった。サンディゴ郊外に散在する2千平方メートル~0.4平方キロの37の林を選んだ。ここの鳥たちは島嶼生物地理学に従うはずだと予測していた。すなわち、鳥の数は時と共に減少し、それも林が小さく、他のチャパラルから遠く離れているほど急速に減ってゆくだろうと。
調査開始の間際になって、スーレはもう一つの変数を加えることにした。「捕食を無視すれば、キツネやネコやコヨーテが鳥を殺したのではないとなぜ分かるのかと問われるだろう。そこで少なくとも捕食者の有無を調べておくことにした」
彼はそれから2年に渡って調査し、結果を集計した。予想通り、林にいるチャパラル固有の鳥の種の数は、林が狭くなるにつれて減っていった。しかし、分析を進めるうちに予想もしなかった第三の要因がデータから飛び出し、スーレを驚かせた。
コヨーテが生息する林の方が多くの種類のチャパラルの鳥を保っていたのだ。スーレには、すぐにその理由がわかった。子供のころスーレは、自宅のネコ用のドアが不意に大きな音を立てた。「ダダダッと音を立てて、ネコが悪魔にでも追われているかのように駆け込んできた」とスーレは語る。
スーレらはこう概説するこの結果から察するに、コヨーテは峡谷に於ける小型捕食者(ネコを含む)の数の調整に役立っており、おそらくチャパラル固有の鳥類相の維持にも貢献しているものと思われる」
これは上位捕食者が消えた場所では、それより下位の捕食者(中間捕食者)の一団が勢力をのばし、10倍にも数を増やして好き勝手をするようになるのだ。中間捕食者には、キツネ、アライグマを上回ってネコが甚大な影響をおよぼしていた。すなわちコヨーテがうろつく場所ではネコが怯えて逃走し、チャパラルの鳥は元気にさえずるのだった。』(捕食者なき世界)
北海道のオオカミは、エゾシカを狩りして、生きてきたが、明治になって和人が北海道に入植し、開墾して家畜を飼い始めた。オオカミが家畜を襲ったため、北海道庁は毒エサと報奨金によって、オオカミを絶滅させた。
そのため、今日では広葉樹の若木を食べ尽くした。知床では、この二,三十年のあいだ広葉樹の若木が育ってない。オオカミがいる時のエゾシカは、オオカミを警戒して、一本の木に長く留まることがなかったので、1本の木の皮や芽を食べ尽くすことはなかった。
オオカミは、頂点捕食者として、エゾシカの頭数と警戒心をコントロールすることによって、広葉樹の森を豊かにしてきた。
チャパラルの林や北海道の広葉樹の森は、それぞれにエントロピーに逆走した生態系であるが、頂点捕食者のコヨーテ、オオカミもエントロピー逆走の駆動力の一翼をになって、豊かな森林が形成される。(第19回)
14.キーストーン(頂点捕食者)と生態系のバランス
14.1 ラッコとジャイアントケンプの海中林とウニ
『ラッコがいるアムチトカ島と条件が同じで毛皮ハンターのせいでラッコがいない島に行って、違いを調べればいいのだ。エステスは考えた。─海に潜ってウニを数え、ケンプの大きさを測り、ラッコがいないために生じた違いをすべて記録していこう。(アムチトカ島、シェミア島もアラスカから、ベーリング海に伸びたアリューシャン列島の島々です)
最初に選んだのはシェミア島だった。アムチトカの320キロ以上西に浮かぶ15.5平方キロほどの岩の島で、ラッコは皆殺しにされ、アムチトカとは好対照になっていた。飛行機をチャーターしてアムトチカから、シュミアへ飛んだ。
翌日彼らはボートで礁へ向かった。エステスはウエットスーツを着て海に潜った。「海底はどこもかしこも緑の絨毯を敷いたようにウニで埋め尽くされていた。ケンプはなかった。ウニが急に増えたせいだ。瞬時に、ケンプの森のシステムに於いてラッコがどんな役割を担っているかがわかった。そしてそれがいかに大切だあるかということも」
シェミアにはとことん刈り取られた海の景色が広がっていた。そして唯一の明確な違いは、ラッコがいるかいないかだ。北大西洋の最も豊かな生態系は、ラッコがいなければ丸裸になってしまう。
もしエステスが見たものが全体にあてはまるなら、海洋の食物連鎖のピラミットは、最終的に上から支配されていることになる。
その夜、宿舎に戻ると、エステスはとりつかれたように日誌を書き続け、一睡もせずに朝を迎えた。ラッコからウニへ、そしてケンプへと生物の生態がもたらす衝撃と反撃が海中の世界を変える。』(捕食者なき世界(Where The Wild Things Were) ウィリアム・ソウル・ゼンバーク)
北太平洋のジャイアントケンプの海中林に於いて、ラッコは何の役にも立ってなさそうに見えるが、ラッコがキーストーンとして、ケンプとウニとラッコ自身のバランスを保っていた。ケンプの森のコンブをウニが食べ、そのウニをラッコが食べ、その排出物がケンプの養分となる。
このジャイアントケンプの海中林は、多くの魚類や貝類の住処でもあり、ラッコがケンプの海中林の代謝を高め、ジャイアントケンプの海中林は、全体としてエントロピーに逆走している。(第18回)
13. 共生と棲み分けによる緑の地球生物多様性(その2)
熱帯雨林の骨格となる樹木の水や栄養塩を吸収する根は表層30センチに集中しており、その狭い空間で巨大な地上部を支えるための栄養摂取が行われている。他の森林と同様であるが熱帯雨林でも、樹木の多くが菌類との共生した菌根をもっている。菌根とは、植物の根の組織にカビやキノコの仲間が感染して、栄養摂取のための共生体を形成するのである。
多くの樹木は菌糸が根の中に入る内生菌根をもつが、熱帯雨林で優占するフタバガキ科、マメ科ジャケンイバラ亜科などでは、外生菌根をもつ樹木がある。外生菌根菌は、菌糸を根から、外の土壌中にマット状に拡げて、より広い範囲の栄養塩を吸収する。
植物は、根から菌に光合成産物である糖を与え、菌は植物に窒素とリンを与えている。樹林の種と外生菌根菌の種の間には、ある程度特定の関係があって、ある植物には決まった菌が共生するらしい。
共進化の森として、熱帯雨林を考えると「かなめ」になる動物や植物と、それらとの共進化した生物相が、それぞれの雨林の性質を形作っている。アフリカの森林に於けるマルミミゾウ、アジアの森林に於けるフタバガキ、南米の森林に於けるハチドリなどが「かなめ」となる生物である。
アフリカの雨林からサバンナへ連続する植生には、地上性哺乳類の多さでは、他を凌ぐ。アフリカにはアフリカゾウの一亜種で森林に生息せるマルミミゾウによって散布される一群の植物がいる。これらゾウ散布の果実には、果肉が繊維質でほとんど甘くないものが多い。アフリカでは、ゾウに散布される植物を数十種あげることが出来る。
東南アジアでは高木や突出木として優占しているフタバガキ科植物は外生菌根菌との共生で現在の繁栄を勝ち得た。アジア大陸には、フタバガキ亜科16属530種が分布している。フタバガキの菌根菌は、ブナ科植物のもつ菌根菌と同じ系統の菌類である。
南米の熱帯雨林は、エネルギーと物質の流れが川を中心にまわっている水の森である。鳥媒花が多く、菌状の真紅の花があれば、ハチドリによって送粉されていると考えて間違いない。世界中で鳥類は約9千種しかいないがハチドリの仲間だけで340種を占めている。
コスタリカの熱帯雨林では、600種の被子植物のうち約100種がハチドリ類によって送粉される。熱帯雨林は、菌根菌、被子植物、昆虫、鳥類、動物へと食物連鎖し、それぞれの生命が土壌の養分となり、生命体の食欲、有性生殖による性淘汰を個々の生命体は駆動力にしながら、相互依存と共生、生存競争しながらも、熱帯雨林の各パートを棲み分けながら、熱帯雨林は、進化して来た。
熱帯雨林での一番多くの種は昆虫であり、さらには様々な毒素を持つ植物、昆虫、両生類の世界でもある。この毒素も棲み分けによる生物多様性への進化なのであろう。
すなわち、被子植物が花蜜や花粉を昆虫、鳥類、コウモリに提供することによって、それぞれの被子植物に適応する形で、生命を多様化させた。熱帯雨林は、生物多様性という形で、エントロピーに逆走してきた。しかしながら、その再生力は、この「かなめ」を失った時、あまりにもかよわい。(熱帯雨林 湯本貴和)(第17回)
13. 共生と棲み分けによる緑の地球生物多様性(その1)
緑の地球は、被子植物の繁栄に支えられている。被子植物の成功の秘密を一言でいえば、花粉の媒介を風などの物理的手段から昆虫などの動物の送粉にきりかえたことである。
自ら移動することのできない植物は、花粉の受け渡しを、昆虫や鳥、コウモリなどの飛翔能力のある動物に頼り、鮮やかな色や香りで動物を誘い寄せる。花粉を運ぶ動物、すなわち送粉者は、花粉や花蜜を報酬として得る。
このような相利共生的な関係は長い進化の過程によって、生じたものであり、美しく精妙な花の機構と花に適合した送粉者の行動は、自然界に於ける適用のみごとな実例である。(「昆虫の誘い寄せる戦略」より)
熱帯雨林はサンゴ礁と並んで、生物が造りだした地球上でもっとも複雑で巨大なある種の生命体である。ボルネオ島の熱帯雨林で最大のフタバガキやまめの仲間の高さ70mに達する。そこには1ヘクタールに400種以上の樹木が生育し、さまざまな地形と土壌を含む50ヘクタールでは1,200種を超える。
熱帯雨林の骨格は、林冠を頭ひとつ飛び抜けた70メートルにも及ぶ突出木、林冠を構成する高木、林冠には達しないが、10メートル以上に生長して非常に多くの樹種を含む亜高木、数メートルの高さで花を咲かせ果実を結ぶ低木によって構成されている。
それにシダやランなどの着生植物や、おとなの腕よりも太い蔓を延ばす蔓植物が絡みついて、熱帯雨林特有の景観が形づくられる。成熟した熱帯雨林では、林冠で浴びる光エネルギーの1%程度しか林床に達しない。
熱帯雨林の多種多様な樹木で構成される複雑な空間は、動物たちにさまざまな生活の場を提供している。葉を食う昆虫の多くは、特定の樹種の葉を食べる。このことは、植物の種の何倍あるいは何十倍の昆虫の種が存在することを意味している。林冠に住む昆虫、クモなどの節足動物は、ほとんどが未知のものであり、その種類は、数千万種に達すると推定されるようになって来た。(第16回)
12. 種としての生命と一個体の誕生から死まで
一粒のエンドウの種子を植えると、芽が出て、葉を広げ、葉緑体が日光と水と炭酸ガスをもとに糖類を合成し、花を咲かせ秋には枯れる。種子は、芽を出す条件が整わなければ、数年に渡って生きており、条件が整った時、芽を出します。時には、数百年後に芽を出すものもある。
しかし、種子も一度死ぬと決して芽を出すことはない。このことは、生命は30億年前に誕生してから、進化し、多様化し、250万種又は1千万種のすべての個体は、一度も死を経験することなく(個体は死を経験する前に次の世代に命を繋いでる)、生き続けてきた存在である。
生きるということは、エントロピーに逆走することである。生きている個体に於いては、エントロピー増大の法則のために個体の秩序を乱してくる。このために生物は、古い細胞を破壊して、自ら新しい細胞に入れ替える代謝によって、エントロピーに逆走している。人の体の各細胞も1年くらいですべて入れ替えるくらいの周期であることが放射線同位元素の動きによって確認されている。
エントロピー増大の法則は、容赦なく、生体を構成する成分にも降りかかる。高分子は酸化され、分断される。集合体は離散し、反応は乱される。タンパク質は損傷を受けて変性する。
しかし、もしやがて崩壊する構成成分をあえて、先回りして、分解し、このような乱雑さが蓄積せる速度よりも早く、常に再構築を行うことができれば、すなわち代謝によって、生命体の秩序を保つことができる。(生物と無生物のあいだ 福岡伸一)
生物は個体発生の進化の歴史を繰り返して、誕生してくる。人間がどのように生まれるか、女性の卵巣には、子供の時代にすでに一生の間に排卵する分の卵子は用意されており、それが14~45才の間に、ランダムに生長し、月に1回程度の周期で排卵される。この時、精子を得てDNAが完成され、細胞分裂を行い、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、類人猿を経て、人間の赤ちゃんとして生まれてくる。
DNAには、何か分岐点での標指板のような事柄が書かれているが、卵子の核からの細胞分裂は、ほとんどの部分は生き続けている卵子の中に存在する。母親の卵子は一見、母親の体の一部であるが一方では別の生命体である。受精した卵子は、血液型からそのDNAも別人格である。
この事は、自分の卵子が生長するために、親は生きるための駆動力を得ているようにも見える。サケが産卵のために川を遡って、産卵して親魚の生命を終えるということは、卵巣の卵子が、生命のためのドライブの一つであると考えられる。個体としては死を迎えるが種としての生命体は、連続して生き続けている。
動物のメスが、より美しい、より強いオスを選択して、その遺伝子と接合して、種としてより多様な適用力のある強い遺伝子プールを持つことによって、種としての生命の連続性を確保し、生命は種として、エントロピーに逆走している。(第15回)
11. 動物のミトコンドリア内でのATP生成
ミッチェルは、エディンバラにいた1961年に、画期的な新説を提示した。細胞呼吸のメカニズムとして「化学浸透共役(chemiosmotic coupling)」を発案したのである。「OSMOSIS(浸透)」という言葉をギリシャ語の意味「押す」で使っていた。ミッチェルにとって、化学浸透とは、濃度勾配に逆らって、膜を通過するように分子を押すことだったのである。
呼吸鎖の目的は、プロトン(H+)を押して膜を通し、向こう側にプロトンの貯えを作ることであり、膜の向こうに貯めたプロトンの力が、一度に少しずつ放出されて、ATPの生成を促すのだ。4つの呼吸鎖複合体のうち、3つはこのエネルギーを使って膜の向こうへプロトンを汲み出す。
プロトンは、正電荷をもつため、プロトン勾配には、電気の成分が電位差を生み、膜の外側の方が、酸性度が高くなる。膜をはさんだこのPH差と電位差の組み合せが、ミッチェルの言う、「プロトン駆動」を形成する。この力こそが、ATPの合成をうながす。
ATPを合成するのは、ATPアーゼの役目なので、つまりATPアーゼの動力源がプロトン駆動力でなければならない。とミッチェルは、予言した。
ミトコンドリア「共生説」はラン藻類が登場してから、酸素濃度が上昇を続け、酸素からエネルギーを生産できる好気性細菌が誕生し、酸素のほとんどない大気に適応し、有機物をエサにしてきた嫌気性古細菌は、好気性細菌を取り込み、そのATPを利用して、酸素濃度の上昇に適用しようとしました。これがミトコンドリアであり、細菌にエネルギーを供給している。
マーギュリス(margulis)説によると、真核生物の中にミトコンドリアを取り込んだものは、動物に、葉緑素を取り込んだものが植物になった。このミトコンドリアのプロトン駆動が、糖類のエネルギーを酸素によって、ATPを作ることによって、エントロピーに逆走している。
ATP:アデノシン三リン酸 (C10H16N5O13P3)はエネルギーを要する生物体の反応素過程には、必ず使用され、(解糖系:グルコースのリン酸化など、筋収縮:アクチン・ミオシンの収縮、能動輸送:イオンポンプなど、生合成:糖新生、還元的クエン酸回路など、発熱:反応の余剰エネルギーなど)「ATPは生体のエネルギー通貨」であると言われている。
(ミトコンドリアが進化を決めた ニック.レーン)(第14回)
10. 植物の葉緑体に於ける糖合成
クロロフィル(chlorophyll)は、光合成で光エネルギーを吸収する役割を持つ化学物質で葉緑素と呼ばれる。クロロフィルf(植物)は、C55H70O6N4Mgの分子式を持つ。クロロフィルfは、4つのピロール環(C4個とN1個の環)を炭素原子1個ずつ挟んで結合した環内部にMg2+をキレートした錯体である。(クロロフィルの分子構造を参照ください)
葉に含まれている葉緑素が光エネルギーを吸収し、電子の流れを作りATPを合成し(循環的光リン酸化)、NADP+(ニコチンヌクレチドリン酸)を還元して、助酵素、NADPHを作ります。(水の光分解) この時、分解される水は根から吸い上げ、水素(H)を使って、空気中に酸素を放出する。(明反応)
次に空気中から吸収されたCO2はカルボキシムスターゼという酵素の働きによって、リングセリン酸が作られ、ATPからリン酸を受け取り、NADPHから水素を受け取って、三炭糖-3-リン酸となり、リン酸を分離して六炭糖(C6(H2O)6 =ブドウ糖)となり、デンプンを合成します。(暗反応)
葉緑体によって、ほぼすべての動物と植物は、このエネルギーにより、生体の活動を行い、エントロピーに逆走することを可能にしている。
花の雄しべの花粉がミツバチによって飛翔し、雌しべの花柱に達し、花粉から花粉管を発芽し受粉し、実を結ぶ。種子は、ある条件を満たした時、発芽し葉を茂らせ太陽光と水と炭酸ガスから花を咲かせて、実をならせる。
これは、通常のことのように感じるが、糖化合物とタンパク質と酵素による非常に多様な化学反応によって、エントロピーに逆走し、花を咲かせ、実を結ぶことは、本来、不思議なことである。この光合成を工業的に可能になれば、革命的であるがその可能性は当分見えないだろう。(第13回)
9. 有機化合物の遼かな道(エントロピー逆走への道)
前回の(マイルドストーン)に於いて、多くの読者は、糖化合物(糖類)、脂肪酸、アミノ酸、タンパク質、酵素、ホルモン、DNA、葉緑体、ミトコンドリア、細胞、生命体へと向かうと思ってないだろうか。しからば、なぜ有機化合物は、より複雑でより精緻な連繋するシステムへと向かうのか。それはすなわちエントロピー逆走である。
その第1のヒントは、有機化合物は基本的に酸素分圧下では、エネルギーを持っていることである。グルコースから、酵母によて、アルコールと炭酸ガスが生成される。
C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2
従って炭酸ガス2分子が排出した分エネルギーレベルは、低下している。すなわち、有機化合物は、エネルギーを持ているため食物となる。食物は基本的に酵素の力を借りて、分解されて吸収される。すなわち糖にはエネルギーを内在しているので、アルコール、脂肪酸に変化する。
第2のヒントは、アミノ酸がATPのエネルギーを利用しながら、RNAを指標として、様々なタンパク質をその役割に応じて生成する。アミノ酸は、22種類あり、これは、アルファベットの文字に例えられる。アミノ酸がATPの力を借りて生成されるタンパク質は、単語や文節に例えられる。この各種のタンパク質が生命体を形成する。この生命体は、感動する文学作品に例えられる。
第3のヒントは、葉緑体、ミトコンドリアは独立した生命体であり、葉緑体を取り込んだ真核生物が植物であり、ミトコンドリアを取り込んだ真核生物が動物である。
又細胞膜も細胞核(染色体(DNA、RNA))も、自分を認識し、外を知っているように行動する。細胞膜は、外から自分(細胞内)に必要な分子を選択的に取り入れ、自分(細胞内)に不要な分子を外へ排出する。細胞膜は、複雑な構造である。細胞核(染色体(DNA、RNA))は、自分が生命体の中心であり、ドーキンスの言う生命体の他は、自分の乗り物ように振舞う。
有機化合物の環式炭化水素の三次元構造(セルロースなど)によって植物の世界、特に被子植物の繁栄、更には緑の地球へのエントロピー逆走への道を歩んだ。
生命の多様さは、タンパク質の多様さに起因している。タンパク質は代謝から運動、飛行から視覚まで、身体のあらゆる能力を実現しており、その機能はおおまかに数種のグループに分かれる。
一番重要なグループは、酵素かもしれない。酵素は生物に於ける触媒として、生化学反応の速度を格段にアップさせ、反応物質に対して驚くべき選択能力を持つ。ほかの重要なグループとして、ホルモンとその受容体、抗体などの免疫タンパク質、細胞骨格などの構造タンパク質がある。
アミノ基H2N-とカルボキシル基-C-OH(=O炭素に付く)を持つ、22種のアミノ酸から、合成された酵素、タンパク質とその及び鉄、亜鉛、マグネシウム、銅を取り込み、無限に近い立体構造がうまれる。
炭素原子の結合から、アミノ酸からATPと酵素によって、タンパク質の立体構造によって、昆虫、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類と向かうすなわち、エントロピー逆走の道を歩んだ。(タンパク質の反応温度は、15°C~40°Cであることが条件である)
(第12回)
9. 有機化合物の遼かな道(マイルドストーン)
有機化合物とは、炭素を骨格とした化合物で、生命体を構成する化合物である。炭化水素(有機化合物)は、炭素骨格が一列に繋がった鎖式炭化水素と炭素骨格が5角形又は6角形の環式炭化水素に分類できる。
有機化合物の主要な元素は、C、H、O、N である。準主要元素は、P、K、Ca、S、Na、CL、Mg、Fe であり、微量元素は、Cu、Mn、Mo、I、Cr、Co、Se、Zn である。
有機化合物は、基本的には植物や動物によって、生成される化合物であり、糖化合物、脂肪酸、アミノ酸、タンパク質、酵素、ホルモン、DNA、RNA、葉緑体、ミトコンドリア、細胞、生命体へと続く道である。
糖化合物は、CO2、H2Oと太陽光により、植物の葉緑体で生成される。EX.グルコース C6H12O6 (\/\/\ の角にHO-,HO-,HO-,HO-,HO-,=Oで各-Hを繋いだ構造)。
脂肪酸は、基本的には植物によって、生成される。EX.ラウリン酸 C12H24O2
(\/\/\/\/\/\ の角に10個に-Hを2つ,後2個に=O,-OHを繋ぐ構造)。
アミノ酸とは、基本的にマメ科植物によって生成され、アミノ基H2N-とカルボキシル基-C-OH、=O(この部分もCに繋がる)の両方を持つ有機物の総称である。EX.グリシンC2H5NO2 (C―C の炭素にH2N-と-H、=Oと-OHを繋ぐ構造)。
タンパク質は、22種類のアミノ酸が多数連結(重合)して、動物の様々な内蔵、筋肉、コーラゲン、ケラチンなどを生成する。
酵素とは、生体内でおこる化学反応に対して、触媒として機能する分子である。酵素の機能はおよそ6つに分類できる。酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素、リカーゼである。
ホルモンとは、動物の体内で分泌され、血液を循環し、特定の器官の働きを調節する。その濃度は、10‐9mol/L程度(10億分の1に薄めた値)と極めて低濃度である。
遺伝子は、DNA、RNAによって構成され、細胞の染色体群の中に存在する。人間の染色体は46個で、それぞれの中に4種類の基が、連なって遺伝子情報として解読される。
葉緑体は、植物体内にある生命体で、CO2とH2Oと太陽光から、糖類を生成するミクロで非常に精巧なプラントでもある。
ミトコンドリアとは、糖類からATPを生成し、細胞に供給され、生命体のエネルギーとして利用される。
細胞は、生命の基本単位で、細胞膜によって包まれた原形質で原則として自己増殖でき、生体の構造体である。
生命体は、受精後、卵子の核から、遺伝子のRNAを読み解かれ、個体発生をたどりながら、それぞれの臓器として形成され、代謝しながら生存する。(第11回)
8. リン(ミネラル)の大循環
リンは比重が重いので、陸上であれば河底、沼底に海であれば、深海の方にたまりやすい。従って、リンは山から川を経て海へ、海から深海へと重力により、低い方へ移動する。豊富なミネラル(リンを含む)は、深海水が海洋大循環の湧昇流にのって表層域に移動する。時には、海底火山の爆発によって突発的に海中、表層域に運ばれる。
海洋大循環によって、表層域に湧昇したミネラルを含んだ海水と太陽光によって植物プランクトンが大発生する。植物プランクトンは、このような海域では、数日で何倍かに増加する。このような所は、大漁場やサンゴ礁などであり、一般にイワシやニシンの大群を発生させる。離島のサンゴ礁に海鳥がこれらの魚を食べての糞が、数万年に渡って堆積して、化石化したものはグアノと呼ばれ、リン肥料として利用してきた。
イカなどの深海に住む魚類も、産卵のために表層域に上昇し、鳥や大型の魚類の食物連鎖により表層域に運ばれる。サケ、マスは、海を回遊して、産卵のために、川を遡上し上流で、産卵して後、自らの命を森に還す。アユやイワナ、カニさえも河口から上流部に遡上することによって、内陸深く食物連鎖により、ミネラルを運び上げる。
気仙沼の牡蠣養殖家の畠山重篤によると、ウナギは、マリアナ諸島沖で稚魚となって、黒潮に乗って日本沿岸まで旅をし、さらに川を遡って日本の田や川で育って、産卵のためにマリアナ諸島沖に帰ってゆく。ウナギは、森と川と海を繋ぐ指標生物である。「海は森の恋人」と言っているが、森は海と川によって、森から海に水ばかりでなく木葉の養分や稚魚が川を降り、魚や鳥は川を遡り相互に連環している。室根山の森、大川が実り豊かな時、養殖の牡蠣も大きく美味しくなる。
従って、リンは深海から表層域に、表層域から河口域へ、河口域から中流上流域へ、上流域から森へ、主として魚と鳥の連繋プレイによって、リン(ミネラル)は、結果的に、再び深海部から森へエントロピーを逆走して、森に戻った。これらがこのリンの大循環のエントロピー逆走エンジンである。
森の樹木は、花や実をつけるためにリン(ミネラル)を地中から吸い上げ、花を咲かせ実をつける、その花蜜や花粉や実は、鳥や昆虫や動物が食べ、鳥や動物の糞は、微生物によって分解され、森の樹木の養分となる。
リンの大循環は、海洋大循環、川を遡上する魚、鳥が魚を食べて森でひなを育てる等の複数の過程によって成り立っているため、北極の海氷が消えたり、ダムによって魚が遡上できなかったり、環境ホルモンによって鳥の産卵を攪乱したり、雛を家猫が襲ったりする時、このリンの大循環のリングは、切り離され緑の地球のポテンシャルは確実に低下する。(第10回)