「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

読書コーナー~「脳によく効く栄養学」~

2010年08月02日 | 読書コーナー

「音楽は耳で得た情報を脳で変換しながら聴いている」。

したがって音楽・オーディオ愛好家は日頃から脳の栄養状態に人一倍気を配って健全な状態にしておくことが肝心。

   

「脳によく効く栄養学」(朝日新聞社刊)   

副題に「ボケたくなければ肉を食え」とある本書は、この猛暑の時期の軽い不眠症状やうつ状態などを乗り切るのに有益な本。

コレステロール、砂糖、アラキドン酸など肥満や生活習慣病の”大敵”といわれるものを脳はなぜ「欲しがる」のか、を主要テーマに最先端の医学で最新脳栄養学に切り込んだ本である。

著者の高田明和氏は浜松医科大名誉教授でご専門は生理学・血液学。

この本の前提になっている考え方は次のとおり。

現在の私たちは脳の重さがおよそ1450gであり、これは体重の2%くらいに過ぎないが、このたった2%の脳が何と食べる全カロリーの24%を消費している。

したがって脳にきちんとした栄養素を与えなければ、脳の機能は阻害され老化も進むので食生活において脳の栄養をいかにきちんと摂るかがカギ。

以下、主要項目ごとに箇条書き。

”コレステロール”

この本の冒頭から中程まで脳に必要な栄養ということでコレステロール(以下、「コレステ」と略)の功罪について延々と展開される。

とにかく健康上の問題でコレステほど議論のある物質も珍しいそうである。

ご存知のとおり、コレステ値は心筋梗塞などの心臓病にはたしかに大敵なのだが、脳の健康、老化防止にとっては実に大切なもので、不足するとうつ病による自殺と事故死の率が高くなるとのこと。具体的なデータをもとに論じられておりなかなか説得力がある。

コレステ値が下がると、うつ病による自殺と事故死の率が高くなる。つまり心筋梗塞は減るが、逆に自殺や事故死の比率が高まり、全体的な死亡率はむしろ上昇する。

コレステ値が高いと、認知症、アルツハイマー病になりにくいし、脳梗塞になった場合でも機能障害も少ないし、回復も順調

コレステ値は情動と結びつきがある脳内物質のセロトニン、ドーパミンと関係しており、高いヒトほど温厚で社会性がある。(米国ジョージア大学の研究)

”うつ病”

最近のうつ病の増加は驚くほど。うつと自殺の関係はまだ不透明の部分があるが日本では2005年の自殺者が3万3千人くらいとされ、人口比率では先進国中1位でアメリカの2.5倍。この解消は国民的課題。

情動を支配する脳内の神経伝達物質としてモノアミン、なかでもセロトニンが特に注目されている。

うつ病の治療薬はセロトニンの取り込みを優先した薬(SSRI)が使用されているが、その前にヒトはそもそも体内でセロトニンの量を食べ物から増やす必要がある。

セロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸からしか生成されないので、多く含んだ食物を優先的に摂りいれる必要あり。

トリプトファンを効率よく摂るには大豆より肉。割合の含有量はブタ肉赤身がトップで0.24g/100g、次に牛肉赤身の0.21g/100g、その次はずっと離れて豆腐の0.1g/100gといったところ。

トリプトファンの摂取は即効性に特徴があり、たとえば朝摂取すると午後には影響が出る。

脳内に摂りこまれたトリプトファンからセロトニンへの合成は光、運動、睡眠、ストレスの排除などの環境因子の影響を受ける。

ヒトが能動的にできることとして、まず光(太陽)をよく浴びる、次に運動、その次が呼吸。息をゆっくり長く吐くことで血中の二酸化炭素の量を増やし、脳の縫線核部分の細胞を刺激するとセロトニンの活性が高まる。

”砂糖は脳に大事な栄養素”

脳のエネルギーはブドウ糖だけであり、ブドウ糖の摂取は脳機能を高める。

砂糖に代表される炭水化物は生存に絶対必要な栄養素であるために哺乳類は無意識にこれを好み確保しようとする。

”肥満と健康”

肥満は必ずしも寿命を縮めない

肥満になるような生活習慣が悪い

「小動き」にも運動の効果

運動抜きダイエットは疑問

運動していれば痩せなくても病気にならない

”脳が食べるものを決める”

ヒトの大きい脳は肉食のおかげ

炭水化物、脂肪、タンパク質の三大栄養素は脳が求めている

人間の感情は脳の栄養欲求に由来する

結局、冒頭に書いたコレステなどの生活習慣病の大敵をなぜ脳が「欲しがるのか」→ その回答は次のとおり。

ヒトの感情、喜びとか不安、精神の安定などは本来脳に必要な栄養素の摂取を可能にするための仕組みとして生まれてきたのではないかと考えられる。

喜びとか恐怖、不安が神経伝達物質により支配され、その物質が食べ物からしか供給されないことは食べ物が確保されない限り、不安とか恐怖などがなくならないことを示している。


なかなか回りくどい表現だがよく読むと含蓄のある内容である。

これからはある程度意識して時々「豚肉の赤身」を食べねばと思った次第。

この本は豊富なデータを駆使して医学的な専門知識のもとに書かれた内容のため学術的な色彩が強く気楽に読める本ではないが、それだけに論理的にしっかりしていて強い説得力を感じた。


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