「測る技術」(2007年4月5日、ナツメ社刊)、「ものをはかるしくみ」(2007年7月25日、新星出版社)と相次いで、「測る」という事柄に焦点を当てた著書に巡りあった。
「測る」作業は縁の下の力持ちのようなもので、日常あまり人の意識に登場することはないが「文明は測ることから始まった」そうだ。
はるか昔、住まいを建てたり農作物などを交換し始めた頃から発達してきた人間の知恵であり、現代の科学的計測技術も人類の永年にわたる叡智の結晶の一つ。
近年の日常生活においては、スーパーなどで見る包装されたパック販売のため「測る」という作業を具体的に目にすることが格段に減ってきたが、「必要は発明の母」のとおり必要性が生まれてくると、それまで測ることのできなかったものを測る方法が次々に考え出されている。
これは長さ、質量、密度、体積など全ての量にいえることで、化学、物理学、電気工学など様々な分野の研究を広げ、進歩の速さもさらに加速している。
おかげで最近では「人の心」を測ることさえ、少しずつではあるが現実のものとなりつつあるという。
「人の心」を読み取る鍵を握るのは、「人間の脳波」だそうだ。
脳には多くの神経細胞が存在し、細かな網のようなネットワークをつくりあげているのだが、脳が何らかの働きをすると、この神経細胞に電気信号が流れ、頭皮上に電位変化があらわれる。
これが「脳波」である。
人間がリラックスしているときに脳がα波を出すことはよく知られているが、脳波は人間の精神状態や喜怒哀楽といった感情によってある一定の変化を起こす。こうした脳波の変化を類型化していくと、脳波から感情の変化がわかり、その人の心の変化を読み取れるようになるという。
この、技術については、犯罪捜査やメンタルケアなどでの活用が期待されているようだが、使い方を間違えると、人間社会を混乱させることにもなりかねない危険性を孕んでいる。
古来、人の心の奥底は解明できない闇の部分として扱われている。人類が限りなく繰り返してきた実際の人間ドラマ、それに文学やオペラなど芸術のテーマともなっており、いわば数値では計測できないとされる最後の聖域でもある。
よくいわれる「本音と建前」の使い分けにしても、コミュニケーションにおいて周囲との不必要な軋轢(あつれき)を避けるための高度な人間の知恵だろう。
これは人間だけに許された特徴のような気がするし、コンピューターがいずれ人間の知性を凌駕できたとしても、最後まで及ばない分野のように思う。
したがって、「人の心」を読み取る領域についてはできるだけ「そっとしておきたい技術」という気がするがどうだろうか。
最後に豆知識を一つ。
☆ マラソンの「距離」「タイム」はどのように測るのか。
まず距離の42.195kmの方は「自転車計測」が主流の計測方法になっている。その方法は、検定を受けた3台のメーター付き自転車に「自転車計測員」という人が乗り、道路の縁石から一定の距離の場所を走っていく。そして、この3台の計測結果の平均値を使用する。その誤差が、0.1%以内(つまり42m以内)であれば、公式のコースとして認められる。
次に、タイムだが靴にあらかじめ取り付けられた「チャンピオンチップ」というICタグによって行う。これは500円硬貨大のプラスチックで作られている、重さ数グラムの小型発信器チップで、靴にチップを装着したランナーがカーペット状のアンテナを通過すると、アンテナから発射された電波によってチップのナンバーをすばやく読み取り、その瞬間の時間をコンピューターに記録する。
このシステムの登場によって、従来計測されていなかったスタートラインの通過時間や5キロメートル、10キロメートルなど各地点の通過タイム(スプリットタイム)、フィニッシュタイムが瞬時に計測されるようになった。2007年2月に開催された東京マラソンでは大会事務局から貸し出されたICタグを選手が靴につけて走ることで3万人のタイムが精確に計測された。