「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

サッパリ面白くなかった「江戸川乱歩賞受賞作」

2012年12月06日 | 読書コーナー

日本における推理作家の登竜門とされる「江戸川乱歩賞」。

創設が昭和30年で今年(平成24年)で58回目を迎える長い歴史を誇っている。過去の受賞者では東野圭吾や高橋克彦など錚々たる作家を輩出しているが、何といっても副賞としての1千万円も大きな魅力で、粒ぞろいの作品が集まる中で選出されるのも注目の的。

幼い頃からホームズや金田一耕助、明智小五郎などの活躍に胸踊らせてきたミステリー・ファンなので、これまで同賞受賞作はほぼすべてと言っていいほど読んできたが、当たりはずれがなくいずれも面白かった。

先日の新聞の見出しで今年の受賞作は「カラマーゾフの妹」(高野史緒)とあり、単行本で発売されているのが分かったが、オークションと違って期限が切られているわけでもなく、そのうち読める機会があるだろうと悠長に構えていたところ、隣町の鄙びた図書館で運よく借りることが出来た。

                          

現在、4つの図書館をハシゴしているが人気本を借りられるのはいつもこの図書館ばかりで、自分にとっては実に貴重な穴場的存在である。しかし、住民票を持たない人間が面白い本を先に読む機会を奪ってしまい、管内の町民の方々にはまことに申し訳ない(笑)。

さて、「カラマーゾフの妹」という題名は、なんという文学的な香りを放っていることだろう。もちろん名作「カラマーゾフの兄弟」をもじっていることは言うまでもない。

著者である文豪「ドストエフスキー」の偉大さについては、もはや申し上げるまでもなかろう。

「小説家が読むドストエフスキー」という本の中で著者の「加賀乙彦」氏(小説家、精神科医)は次のように述べられている。

 世界の全ての小説の中で「白痴」が一番の傑作(72頁)

 「白痴」が分かると「悪霊」が分かりやすくなり、「悪霊」がわかってくると最後の大作「カラマーゾフの兄弟」が分かりやすい。(102頁)

 20世紀の作家は全てドストエフスキーの肩の上に乗っている。ドストエフスキーを読まずに小説を書きはじめた人は私の周辺を見回してもいない。(116頁)

 ロシア的なキリスト教の形のもとで、いずれの作品ともに犯罪、殺人が主題になっており、罪の極点を描くことで逆に神の愛が描かれている。罪も愛も無限定で極端で途方もないエネルギーに満ちていて、この作品群の究極の姿、総決算が「カラマーゾフの兄弟」です。「カラマーゾフ万歳!」(212頁)

周知のとおり、名作「カラマーゾフの兄弟」は続編の第二部が予定されていたが、著者の死亡により未完に終わっているが、この「カラマーゾフの妹」はその続編に挑戦したものだというからいやが上でも期待に胸が高まる。

さあ、「音楽」も「オーディオ」もしばし忘れて意気込んで読書開始~。

ところがである。どうもイマイチでストーリーに惹き込まれない。そもそもカタカナの長ったらしい名前の登場人物が多すぎて何がなんやら~。ときどき巻頭に戻って人物紹介を見ざるを得ないのも大きな手間。

しかも、面白いと一気読みをするのだが、あまりピンとこないものだから日を置いてときどき読むことになり、そうすると益々”あらすじ”や登場人物が分からなくなる。

それでも無理してようやく1週間ほどで読み上げたが後半部の山場に惹き込まれることもなく、全体を通じてサッパリの印象だった。「江戸川乱歩賞」受賞作でこんなに面白くない本は初めて。

しかし、本書の巻末にある5人の選者(いずれも作家)の選考経過を読んでみると、うち4名が最終候補作5編のうち本書を一押しなので、自分の読解力が落ちてきたのだろうか。ちょっと不安になった。

選者の一人、「桐野夏生」(作家)さんは次のように述べている。

「物語は、カラマーゾフ事件から13年後、次兄イワンが未解決事件課の捜査官となって「父親殺し」の真相を探るために帰省するところから始まる。しかも多重人格者ときている。この荒唐無稽さを乗り越えてしまえば次第に著者の世界に引きずり込まれていく。前作の長大さに比べれば何ともミニマムながら実は精緻で深い世界を構築している。」

どうやら、本書の展開についていけなかった原因の一つは主人公の多重人格という荒唐無稽さに無意識のうちに拒絶反応を起こしたらしいことが分かってきた。

著者はSF作家だというが、ミステリーにSFを持ち込むのは「ルール違反」だと思うんだけどねえ~。



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