「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「ピアノ・ソナタ8番 KV310」(モーツァルト)

2013年05月14日 | 音楽談義

「高校時代の同窓」が取り持つ縁で、我が家にたびたび試聴に来てくれるオーディオ仲間たち3名(福岡)。

そのうちのU君がイングリット・ヘブラー女史のモーツァルトのピアノ・ソナタ全集を愛好していることから話は始まった。

U君からメールが来て「モーツァルトのピアノ・ソナタ全集のうち皆さんがお持ちの各ピアニストのCDの中で共通の曲あるいは楽章を選定して、出来れば1枚のCDに収めて聴き比べてみるのはいかがでしょう?」

もちろん、もろ手を挙げて賛成。しかし、企画段階はともかく、いざ実現の手段となると「?」。

とにかく、報告だけでもと7名のピアニストが集結した。

アシュケナージ、アラウ、内田光子、グールド、シフ、ピリス、ヘブラー
(アイウエオ順)。

そして、それぞれの手駒と演奏時間を検討した結果、選定されたのがピアノ・ソナタ8番(KV.310)の二楽章。7名の演奏時間を合計してみるとCD1枚分の丁度75分以内に納まるとのこと。

ところが、「ピアノ・ソナタ8番」と決まってみると、全集ものではないが往年の名ピアニスト「リパッティ」が弾いたのが我が家にもたしかあったはずだがと、探してみると、やはり「リパッティ全集」(4枚組)の中に収録されていた。

たまたま図書館から借りてきていた「名盤鑑定百科~モーツァルト編~」(吉井亜彦)によると、この8番は「モーツァルトの天才とリパッティの天才とが鋭く照射し合うような記念碑的名盤」とされている。

こういう“殺し文句”を目にすると、もう一刻も待てない。一足先に我が家でピアノ・ソナタ8番を聴き比べてみることにした。

アラウ、内田光子、グールド、シフ、ピリス、そしてリパッティの6名。いやあ、今さらながら凄い顔ぶれ!

             

シナリオ作家の石堂淑朗さんによると「一生の間、間断なく固執して作曲したジャンルに作曲家の本質が顕現している。ベートーヴェンは9つの交響曲、32のピアノソナタ、15の弦楽カルテットに生涯の足跡を刻み込んだ」(モーツァルトを聴く~私のベスト1~、70頁)とあるが、それをそっくりモーツァルトに当てはめると、オペラとピアノ・ソナタというジャンルになる。

とにかく昔から、彼の「オペラ」と「ピアノ・ソナタ」には目がなく、収集癖も相当なもので「魔笛」はCD、DVD合わせてとうとう45セットに到達。「お前はバカか!」という声がどこからか聞こえてきそう(笑)。

さて試聴に入る前に「ピアノソナタ8番(KV310) 三楽章構成」について、U君への報告ついでに各ピアニストの演奏時間を調べてみると実に興味深い事実が判明した。(順番は第一、第二、第三楽章)

アラウ「8分48秒 10分11秒 3分8秒 計22分7秒」、内田光子「8分4秒 10分42秒 2分48秒 計21分34秒」
グールド「3分16秒 6分19秒 2分27秒 計12分2秒」、シフ「5分37秒 7分52秒 2分55秒 計16分19秒」、ピリス「8分 9分11秒 2分49秒 計20分」、リパッティ「4分6秒 6分22秒 2分55秒 計13分23秒」

合計時間でいくとグールドが最短で12分2秒、最長がアラウで22分7秒と10分以上も大きな開きがある。同じ曲目でもこれだけ演奏時間に差があるとなると曲目の印象も演奏者によってすっかり変わってしまうはずである。

13日(月)は午後から来客予定だったので午前中にこれら6名のピアニストのソナタ8番にじっくり耳を傾けた。

ほとんどが演奏が気に入って購入したCDだし、自分ごときに大ピアニストたちを聴き比べする資格なんて毛頭ないが、それでも個人的には感銘の度合いが違っていた。

この8番(イ短調)は「ただならぬような悲壮感を漂わせた音楽」とされている。作曲された当時(1778年)、パリへの旅の途中で同行していた母親の死にみまわれているのでそのせいとも言われているが理由は定かではない。

以下は、あくまでも個人的な試聴結果である。

グールドの演奏に一番感銘を受けた。もっとも耳に馴染んでいるせいもあるが、何ともロマンティックな演奏でハミング交じりに弾かれるともうたまらない。心から降参。よく計算しつくされた演奏である。全体のストーリーを組み立てるうえで第二楽章を山場と踏んで、第一楽章はまるで序章並みの扱い。

それは演奏時間に端的に表れている。他の奏者がみっちり8分程度かけるところをわずか3分余と、目まぐるしく早く弾いていることでもよく分かる。

彼の十八番のバッハの「ゴールドベルク変奏曲」でさえ、部分的に「愚の骨頂みたいなところがある」と言って憚らないくらいだから、どんな作曲家でも気にくわないパートとなるとめちゃ早く流すのが彼のポリシーらしい。バッハ演奏と同様に独自の解釈に基づき「私のモーツァルトを聴いてください」というわけだが、メチャ説得力があるので文句のつけようがない。


そのほかの演奏者ではリパッティは正直言ってあまり共感できなかった。アラウはちょっと古臭い大家の印象を受ける。シフはピアノ・ソナタ32番(ベートーヴェン)に感銘を受けて、その余波で購入したものだが、やはり自由奔放、天真爛漫なモーツァルトよりもベートーヴェンに向いているようだ。

内田光子とピリスは良かった!ともに「歌心」に満ち溢れている。とりわけ前者のフィリップス・レーベルの録音の秀逸さにはいつものことながら感心。

ところで今回は最初に「JBL3ウェイ」システム、次いで「AXIOM80」システムとあわせて2回試聴したが曲目の印象はそれほど変わらなかった。クラシックでも、ことピアノの再生に関してはJBLなりの良さがあって実に頼もしい。

とにかく、今回はU君のおかげで久しぶりに8番をじっくり聴く機会が持ててありがたかった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする