前々回のブログで採りあげた新しい組み合わせのスピカーシステムについて、早くも第三者のご意見をお伺いする絶好の機会が訪れた。
ここ20年来のお付き合いで我が家の音を熟知しているオーディオ仲間のAさんがお見えになったのは18日(土)の午後のこと。
お仕事でたまたま近くにご用事があったとかで、「いやあ、ホントに日頃から気にかけていただき助かります!」
はじめに既存のJBL3ウェイ・オールホーンシステムを聴いていただき、次に「AXIOM80」3ウェイシステムを聴いていただいた。試聴盤は「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」(モーツァルト)。
「率直にお伺いしますが、どちらの音がお好きですか?」
「JBLは以前よりも随分良くなった気がします。ほとんど肩を並べると言っていいくらいですが、強いて言えばいつものことながらAXIOM80の方が好みですね。」
そして、いよいよ新品ほやほやの第三の組み合わせのシステムの試聴に移った。
ここで、ちょっと“くどい”ようだが改めてこのシステムの概要を記しておくと、
☆ 低音域(~200ヘルツ、6db/oct)
「JBL-D130ユニット(38センチ口径)」(ウェストミンスターのボックス容り)をアンプ「01-A」(ケンウッド)で駆動
☆ 中高音域(200ヘルツ~、6db/oct)
AXIOM80を真空管アンプ「WE300B」(モノ×2台)で駆動
☆ 高音域(20000ヘルツ~、6db/oct)
JBL-075ツィーターを真空管アンプ「2A3」で駆動
しばらく傾聴されていたが「演奏会場で聴く音に近づきましたね。こういう低音域がしっかりしている音は好みです。3つの組み合わせの中ではこれがベストではないでしょうか。低音と中音がうまくマッチングしています。この音を聴くとJBL3ウェイシステムもAXIOM80も何だか普通の音のような気がしてきました。」
オーディオは自分さえ良ければグーの世界だが、やはり第三者からいい評価をいただくと自信がつく。次々にソースを替えてみた。「ベイシー・ビッグ・バンド」(ジャズ)、「日本歌曲集」(米良美一)、そして「ワルキューレ」(ワグナー)。
いずれもうまく鳴ってくれたようで、懸念していた音像定位の問題、低域ユニットと中高域ユニットのスピードの差もどうやら低音域の迫力でカバーしたようで「まったく違和感はありませんよ」に、勇気百倍。
最後に「内田光子とピリスを聴かせてくれませんか」とのご所望があった。Aさんは試聴に見えられると、必ずと言っていいほどピアノの再生音を求められるが、楽器の中で一番音域が広いので、帯域のどこかに不自然な響きがあればたちどころに分かるからだろう。
そこでピアノソナタ8番(モーツァルト)の第二楽章を順番に聴いていただくと「両方ともいいですけど、ピリスの方が凄くセンスが良くてお洒落な演奏の印象を受けます。」
「私もどちらかといえばピリスの方が好きですね。贅肉のない引き締まった演奏で、しかも躍動感があって歌心も十分です。これ以上の演奏となると、あとはグールドぐらいでしょうか」と、自然にグールド全集に手が伸びて、同じ8番の第二楽章をかけてみた。
「まるっきり、二人とは次元が違う演奏ですね!楽譜にまったく縛られないグールド独自の世界ですが、それでも“これぞモーツァルト”になっています。
それにしてもこれだけ低音域がしっかりしていると、改めて音楽の造形の重要性を痛感します。グールドの本当の良さはこういうシステムでないと味わえないのかもしれませんね。」
グールドの線の太いタッチのもとで、“ガツッ”とくるような打鍵音の鋭さと重量感を再生するには、システムに対してもそれなりの厳しい表現力が求められてくる。
五味康祐さんが名著「西方の音」の中で、「タンノイ・オートグラフはワーグナーの音楽を聴くためにある」みたいなことを仰っていた記憶があるが、これをもじって「我が家の第三システムはグールドを聴くためにある」と、言わせてもらおうかな(笑)。
ちなみに、Aさんがお帰りになった後でどのくらいの低音が出ているものかと、音響機器性能試験用テストCD「サウンドチェック」をかけてみたところ、通常の試聴レベル(ボリューム)のもとで、20ヘルツで「ブブッ」とした音声信号への反応があり、25ヘルツのときはたった5ヘルツ上がっただけで「ブブブブッ」と、より明確な反応があり、「31.5ヘルツ」では連続して完璧に再生した。
20~30ヘルツを曲がりなりにも再生出来るとなると音楽のピラミッド型構造の土台がしっかりしてきて、これが実在感と大いに関係してくる。
近年、ハイレゾ音源とか称してやたらに音の細部にこだわる聴き方が流行っているが、音楽を鑑賞するうえでは低音域の十全な再生の方が優先順位として上位ではなかろうかと思う次第だが、いかがだろうか。
ただし、「俺は低音があまり出ない方が好みだ」と言われればそれまでで、要らぬお節介にすぎないが(笑)。