新年早々のこの時期には何となくうれしくなるニュースに囲まれて幸せ気分に浸りたいものだが、このほどその一つに巡り会った。
☆ マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリニスト)の復活
昨年末に図書館から借りてきた「クラシックはおいしい」(2013.9.18、井熊よし子著)を読んでいたところ、マキシム・ヴェンゲーロフのことが記載されていた。この本は50人の著名な音楽家にインタビューしたうえで、それにふさわしいレシピを紹介したもので、なかなかユニークな着眼点から音楽家の“人となり”をうまく表現しており、一読に値する本。
43頁にマキシム・ヴェンゲーロフが取り上げてあった。著者の井熊氏は25歳のときにイスラエルのヴェンゲーロフの家に10日間ホームステイをしており、その時の体験をもとに「ヴェンゲーロフの奇跡~百年に一人のヴァイオリニスト~」の著作をモノにしている。
「百年に一人」なんて、ちょっと大げさそうだが、10年ほど前に彼が弾いた「ヴァイオリン協奏曲」(ブルッフ)を聴いたときに、たいへんな感銘を受けたのでこれはけっして誇張ではないと思った。けっして偉そうに言うわけではないが、40年以上クラシックを聴き込んでいると、一度聴いただけで自ずと演奏家の実力の程はしのばれるが、ヴェンゲーロフは明らかに別格。
「21世紀のヴァイオリン界を担う存在」とまで言われているのも納得の一言で、これからが非常に楽しみなヴァイオリニストだと思っていたところ、何と2007年に右肩を負傷して完治することが不可能と判断しヴァイオリン演奏の休止を宣言してしまった。
当時は「惜しいなあ!」と嘆息したものだが肉体的な故障なら仕方がないと諦めざるを得なかった。その後、指揮と教育と国際コンクールの審査員などを務めていたようだが、クラシック界は次から次に新鋭たちが登場してくる「生き馬の目を抜く世界」なので、もはや「忘れられた存在」になっていたのだが、それが本書によると完全復活を遂げたとのこと。
「もう、完全に治ったよ。心配してくれてありがとう。」来日公演でヴェンゲーロフはこう語り、不死鳥のように蘇ったとある。
とはいえ、4~5年のブランクは大きいと思う。名演奏家たちにとっては何せ練習を1日休んだだけでも調子が狂うそうだから、ヴェンゲーロフの場合には本格的な復活にはおそらく相当の時日を要すると思うが、何はともあれあの深々とした響きがもう一度聴けるとなるととてもうれしくなる。
ちなみに使っているヴァイオリンは数あるストラディヴァリウスの中でも最高傑作のひとつとされる1727年製の「クロイツェル」。
1974年生まれだからまだ40歳前後で、これから脂の乗り切った演奏に大きな期待を寄せてもよさそうだ。