「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

五味康祐さんのクラシック・ベスト20

2020年07月17日 | 音楽談義

このブログにたびたび登場している「芥川賞作家」でもあり「音楽評論家」でもある「五味康祐」(1921~1980)さん。

クラシック音楽への造詣の深さは著作「西方の音」「天の声」などで詳らかにされているが、没後40年を経てもそのレベルに追いつき追い越せる評論家は居ないと思っている。

その五味さんが秘かに遺されていたという個人的な「クラシック・ベスト20」をネットで見かけた。


1位
 モーツァルト「魔笛」(カラヤン)  2位 ドビュッシー「ペレアスとメリザンド」(アンセルメ) 3位 バッハ「平均律クラヴィーア曲集(ランドフスカ) 4位 「空欄」 5位 バッハ「無伴奏チェロソナタ第1番、2番」(カザルス) 6位 「空欄」

7位 バッハ「三つのピアノのためのコンチェルト」(カサドジュ) 8位 ヴィオッティ「ヴィオリン協奏曲」(ペーター・レヴァー) 9位 フォーレ「ノクターン6番」(エンマ・ボワネ) 10位 モーツァルト「フィガロの結婚」(カラヤン) 

11位 バッハ「ゴールドベルク変奏曲」(ランドフスカ) 12位 ミヨー「子どもと母のカンタータ」(ミヨー) 13位 「空欄」 14位 ベートーヴェン「ピアノソナタ第30番 作品109」(バックハウス) 15位 バッハ「パルティータ」(ランドフスカ) 16位 モーツァルト「弦楽四重奏曲第19番“不協和音”、17番“狩”(クロル四重奏団)

17位 ハイドン「弦楽四重奏曲第77番“皇帝”」(クロル四重奏団) 18位 ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」(バックハウス) 19位 ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」(フランチェスカッティ) 20位 シベリウス「ヴィオリン協奏曲ニ短調」(カミラ・ウィックス)

以上のとおりだが、ご覧のとおり基本的には「バッハ」「ベートーヴェン」「モーツァルト」の作品で埋め尽くされている。

1位のオペラ「魔笛」は2時間半もの長大なオペラだが、全編を通奏低音のように流れている「涙が追い付かない”もの悲しさ”」、「澄み切った青空のような透明感」が感じ取れれば「病膏肓に入る」こと請け合い。

「曲はどこまでも明るく、軽やかで、透明感に満ち、敢えて恥ずかしげもなく言えば、もはや天上の音楽と呼びたくなるほどである」(百田尚樹)

五味さんが1位に推したことも頷けるし、魔笛に溺れて40年あまり、とうとう50セットに届こうかという収集癖に及んだこの自分が言うのだから間違いなし(笑)。

ただ、2位の「ペレアスとメリザンド」、9位の「フォーレのノクターン6番」、12位の「子供と母のカンタータ」は残念なことにこれまで聴いたことがない。

さっそく「オンライン」で注文した。

まず「ペレアスとメリザンド」は新旧2枚の指揮者によるもので「アンセルメ」と「ハイティンク」、フォーレのノクターン6番は「ハイドシェックの演奏」、ただし惜しいことに「子どもと母のカンタータ」はとうとう見つからなかった。

日を置かずしてこれら3組のCDが到着した。


           

さっそく、はじめにフォーレの「ノクターン6番」を聴いてみた。「ハイドシェック」(フランス)はあまり好みのピアニストではないが、検索してもこれだけしかなかったので仕方がない。

なかなか“しっとり”とした趣があって、いかにも玄人好みの曲だというのが第一印象。五味さんは対面する相手の印象を曲目のイメージで結びつけるのが習慣だったが、この曲目の一音、一音の響きが誰かの面影をなぞっていくのに適した曲風のような気がした。

こんなことを書いてもチンプンカンプンだと思うので、もっと分かりやすいように五味さんの著作「西方の音」の一節を引用させてもらおう。(14頁)

「対人関係で誰かに初めて会ったとき、彼(もしくは彼女)に似かよった音楽が不意に、彼の方から鳴り出してくることがある。私の人間評価はその鳴ってきた音楽で決定的なものとなる。

たとえば或る男にあった。彼はファリアの三角帽子を鳴らしてきた。こんな程度の男なのか、と思うようなものだ。概して男性はまだいいが、女性となると、かりそめごとで済まない。

直感はあやまたない、誤るのは判断だとゲーテは言ったが、当てにならない。一人の未知な女性が、目を見交わしたときフランクのヴァイオリン・ソナタを鳴らしてきたために、私はどれほど惨めになったことか。」

というわけで、この曲目が9位に位置付けられている理由とは当時、思い入れのあった女性との記憶が(この曲目と)いわく言い難く結びついているに違いない。

まあ、人がずっと記憶の中に留めておく曲目とはおおかたそんなところだろう。たとえて言えば青春時代にデートしていたときにたまたま鳴っていたり夢中になっていた曲がずっと思い出として残っていたりする。

それは非常に個人的な領域に属するものなので余人が立ち入る隙間がなく、自分だって「ピアノ・ソナタ32番」(ベートーヴェン作品111)を聴くたびにある面影が浮かんでくる。おっと、これは誰かさんには内緒の話(笑)。

結局、そういうわけでフォーレのノクターンをひとしきり聴いてみた結果だが、五味さんご推薦の「6番」にはさほど興を覚えず自分の好みは「2番」だった。

次に、第2位のドビュッシーの唯一のオペラ「ペレアスとメリザンド」だが、聴いてみたところいったいこんな曲目のどこがいいんだろうというのが第一印象(笑)。

出演者が全編を通じてボソボソとしたつぶやきのような科白が延々と続いていく。何ら盛り上がりもなく、さらには美しい旋律や快適なリズム感を望むべくもなく徒に退屈感を覚えるばかり。

たしか「西方の音」に「ペレアスとメリザンド」について書かれた評論があったはずだがと、改めて紐解いてみたら五味さんの「失恋の思い出」と分かち難く結びついた曲目だったことが判明した。

結局、フォーレのノクターンと同じパターンですね。

個人の独自の思い出がいっぱい詰まった曲目の良さを、まったく赤の他人が聴いても好きになれるはずがないよなあと、きっぱり納得(笑)。

最後に、我がクラシック・ベスト10を披露させていただいて終わりとしよう。

1位 「魔笛」(ハイティンク指揮) 2位 「ブラームスのヴァイオリン協奏曲」(ヌヴー) 3位「ピアノソナタ32番」(バックハウス) 4位 「ヴァイオリンとビオラのための協奏交響曲K364」(五島みどり・今井信子)

5位 「ドビュッシーのピアノ曲集」(ベロフ) 6位 「シベリウスのヴァイオリン協奏曲」(アッカルド) 7位 「交響曲第6番 田園」(ワルター指揮) 8位 「大地の歌」(クレンペラー指揮) 9位 「オペラ ドン・ジョバンニ」(フルトヴェングラー指揮) 10位 「ディヴェルティメントK136」(コープマン指揮)

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