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マネー市場の抵抗にあって挫折する石破新首相の改革

2024年10月06日 | 政治

 

2024年10月6日

金融財政の正常化を嫌う市場

 石破茂氏が新首相に選ばれ4日、国会で所信表明演説を行いました。新聞の見出しを拾うと、「生産性を上げ賃金増」、「成長経済目指し投資に力点」、「防災庁へ準備」などです。所信表明演説は新政権の願望に過ぎず、公約でもなく、簡単に実現できそうにない多くの項目が並んでいます。

 

 政治家、特に首相の演説、発言は注意して聞く必要があり、語っている部分には嘘(実現困難な願望)が多く、語っていない部分に真実があると、考えた方がいいと私は思います。

 

 「国民を守る」の項目では、「物価上昇を上回る賃金上昇を定着させる」とあります。物価高の大きな要因は輸入物価の上昇で、円安、資源高、海外情勢不安などです。このうち日本がてきるのは、金利引き上げによる円安阻止です。円安対策については何も語らず、語れない。そこに真実がある。

 

 「日本は有数の災害発生国です。人命最優先の防災立国を構築するために防災庁を設置する」とも、語りました。風水害はともかく、南海トラフ地震では「経済被害213兆円、死者23万人」とされます。その財源はどうするのか。大震災に備えて、異常な事態に陥っている財政金融を正常化しておく必要がある。その財政健全化については何も語っていない、語れない。そこに真実がある。

 

 「社会保障制度全般を見直し、次の世代に負担を先送りしない」と、演説しました。それには高齢者世代の医療負担を現役世代と同じ3割の窓口負担にする必要がある。それについても何も語っていません。語ると、高齢有権者の反発を買うからでしょうか。そこに真実がある。

 

 首相が分かっていたとしても、真実を国民に訴えられない大きな理由は、党内勢力の反発や「マネー市場の反発、抵抗」でしょうか。総裁選決選投票で高市氏が優勢と思ったマネー市場が円安・株高に振れ、結果は石破氏の逆転勝利となる。瞬く間に円高・株安に振れました。

 

 日経新聞などは、「週明けの株式市場は急落の可能性が高い」と、騒ぎたてました。株価先物が大幅安になっていましたので、そう書き立てたにしても、そこまで書きますか。

 

 高市氏が「金利をいま上げるのはあほや」、「アベノミクスを継承し、金融緩和を継続する」と、市場関係者が喜びそうな発言をしてきました。日本が今、やるべきことに向き合わない高市氏の「アベコベミクス」でした。石破氏は当初は「金融取引課税の強化」(高額所得者は源泉分離課税を禁止の意味)という正論をいっていたのに、うやむやになりました。

 

 日本経済は長期にわたる異次元金融緩和・財政膨張に安住し、マネー市場もそれを織り込んでしまい、そこから抜け出せない。日銀が7月に利上げした途端、3万3900円から2200円も急落し、さらに8月5日には、4400円(過去最大)の下落となりました。

 

 慌てた日銀は、内田副総裁が講演で「追加利上げは慎重に考えるべき状況にある」と、植田総裁とは逆に発言をして火消しに回りました。今回の総裁選後の動きをみても、10月2日に石破首相と植田総裁が会談し、首相は「現在、追加利上げをする状況にない」と述べ、金利政策は日銀の専管事項という禁を破った発言に及びました。財政金融政策の変更にマネー市場が抵抗して、「待った」をかけてしまうのです。

 

 要するに、異次元緩和、財政拡大(1000兆円を超す国債発行)策がマネー市場に織り込まれてしまい、それを前提に相場がなり立っている。あまりにも長期にわたる異常な政策の弊害で、新首相の政策変更についていけないのです。

 

 元日銀理事の山本謙三氏の新著「異次元緩和の罪と罰」(講談社新書)は「円安、異次元緩和がもたらし問題に対する危機感が聞こえてこない」と警鐘をならし、「異次元緩和が実質経済成長率に与えた効果は、緩和後の10年間でプラス0・67%、緩和前の10年間で0・63%で、ほとんど差はない」と、経済効果を否定してます。その一方で日銀は膨大な国債(1000兆円)、巨額のETF(上場投資信託、時価47兆円)を抱えてしまい、市場に影響を与えないように売っていくと、何十年もかかる。

 

 その間、金融緩和状態が続くわけで、円安も加わり、企業はぬるま湯に浸かった状態で、新しい産業、企業が生まれてこない。石破首相が「日本経済の活性化、イノベーション、フロンティアの開拓を」と叫んでも、掛け声だけに終わってしまう。政治はアベノミクスを断罪すべきなのに、高市氏のような「アベコベミクス」の支持者が未だに多い。

 

 経済学者の野口悠紀雄氏も「長期にわたる低金利政策によって、生産性の低い投資が行われた」、「米ダウは1992年から30年に12倍になった。日本は1989年末の4万円弱が24年7月に市場最高値(4万2200円)をつけ、30年ぶりの最高値更新(現在は3万円8600円)と大騒ぎしました。「日本は1倍、米国は12倍」です。所信表明演説でこうした問題にも触れれば、危機感が高まるのに、目をつぶってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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