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温暖化懐疑論者はノーベル賞級のモデルを示し反論を

2021年10月08日 | 社会

 

温暖化対策の難しさが議論を曲げる

2021年10月8日

 米プリンストン大の真鍋淑郎氏ら3人がノーベル物理学賞を受賞します。地球温暖化を科学的に予測する研究が世界で評価されました。2、3度の気温上昇でも、気候の大変動がもたらされる。

 

 壮大な気候変動モデルは1967年、1989年などに発表されました。世界各地における異常気象の多発、国連のIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書、脱炭素社会化の動きなどを背景に、ノーベル賞を授与し、国際社会の取り組みを加速したいと、選考委員会は考えましたか。

 

 6次報告書は「地球温暖化について、人間活動の影響は疑う余地はない」としております。「国際社会を動かした影響の大きさを考えると、受賞は遅すぎたくらい」「温暖化懐疑論もくすぶっていた。真鍋氏らの受賞で科学的に決着をつけた」との指摘が聞かれます。

 

 「決着がついた」というより、真鍋氏らのモデルが「正しいと評価された」という表現が適切でしょう。真鍋氏らの研究(大気・海洋・陸上の相互関係を組み込んだ温暖化予測)はその後、精緻化され、地球全体の気象予測で実践的に使われ、理論の正しさが立証されています。

 

 これに対し、ネット論壇などでは、温暖化懐疑論が絶えていません。私が望むのは「部分的、局地的な反論、反証ではなく、反証するのならば、真鍋氏らのモデルのように全体を精緻に俯瞰する総合的なモデルを提示して語ってほしい」ということです。

 

 懐疑論は、いくつかに分けられます。「二酸化炭素などが温暖化の主因ではない」(→温暖化対策は不要)、「温暖化は認めるとしても、地球への影響を過大視し過ぎている」(→パリ協定は有害)、「温暖化は事実であり、適切な温暖化対策をとることが重要」(→対策重視)などです。

 

 まず、IPCCの報告書を真っ向から否定する識者がいます。「『広範囲かつ急速な変化』などおどろおどろしく書いてある。自然災害の増加は観測されていない。地球の平均気温なるものは、現実の暮らしとは関係がない。中世温暖期、寒冷期もあり、気温変動に人類は対処してきた」と。

 

 温暖期、寒冷期が今後もあるとしても、CO2による温暖化を否定することにはなりません。温暖化による気温上昇が地球的な気温変動に上乗せになると考えるのが正しいのではないか。

 

 都市熱(ヒートアイランド現象)の影響も大きいという説が聞かれます。これもCO2による温暖化に都市熱が上乗せになるということでしょう。

 

 ノーベル賞選考委員会は「真鍋氏らの研究は確かな科学に基づいている」とします。IPCC報告書を問題視するなら、真鍋氏に匹敵する壮大で科学的な理論、研究成果を示して、反論して欲しいと思います。

 

 次は、温暖化は騒ぎすぎとの主張です。「人為的温暖化を否定する人はほとんどいない。問題は温暖化の実害はどれだけ大きいのかにある。さらに温暖化を防ぐコストはその効果に見合うか」と。

 

 実害が過大視されているというのなら、やはり真鍋氏が予測した具体的な気候変動への反論を聞かせてほしいと思います。

 

 真鍋氏の研究では、「海洋、大気、地表間の水循環が21世紀後半に平均で5%強化される。そのため、低緯度の亜熱帯、高緯度地帯、シベリアや北米の河川、半乾燥地帯、穀倉地帯での水分、降水量が変化する。水を必要とする地帯は乾燥が進む」など、言及する実害は具体的です。どう反論するか。

 

 さらに「再生エネルギーで原発を代替して、ゆくゆくは再エネ100%にという論者は特に日本の場合は非現実的だ」という指摘もあります。確かに日本にとって、どのような対策が効果的かが極めて重要です。

 

 「原発縮小、再エネ拡大、ガソリン車禁止、石油・石炭火力の廃止」などを徹底したら、経済社会に与える影響は日本が大きい。特に自動車、電力、石油業界は深刻ですし、多くの産業に影響が及びます。

 

 真鍋氏は「気候変動の理解は難しい。変動から生じる政治や社会の出来事を理解することはもっと難しい」、「対処する方法を見出さなければならない。どういう行動をとるべきかも考えているところだ」(記者会見)と。

 

 90歳の高齢ながら、いずれ研究の成果が明らかになるのでしょう。温暖化懐疑派には、部分的、局地的な指摘ではなく、真鍋氏に匹敵するような大きな構想のもとに、問題提起、解決策を提示してもらいたい。

 

 

 


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2021-10-10 10:26:01
老害のお爺ちゃんたちは洗脳の極致だな。
権威に盲目的に洗脳される様は戦前と同じです。

環境問題の根本的論点は温暖化の是非ではなく、人口増加です。

マスゴミは馬鹿の巣窟なの
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Unknown (Unknown)
2021-10-10 13:33:49
真鍋モデルの間違いは、すでに明らかだけど
https://ieei.or.jp/2020/12/expl201223/
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Unknown (Unknown)
2021-10-11 08:51:06
ノーベル賞受賞者アル・ゴアの「不都合な真実」の不都合な真実→キリマンジャロの雪はなくなっていない

今度は「物理学賞の自殺」だそうですね。

https://agora-web.jp/archives/2053432.html
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マルテンサイト千年グローバル (サムライ鉄の道リスペクト)
2024-09-19 16:15:37
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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潤滑機素設計の基礎 (ベアリング生産技術関係)
2024-11-21 14:43:36
「材料物理数学再武装」なつかしいですね。トライボロジーにおけるペトロフ則とクーロン則を関数接合論でつなげてストライベック曲線を作成する場合、関数の交点近傍でなくても繋げることができる関数としてAI技術の基礎となるシグモイド関数が出てくるあたりがとても印象的でした。
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グリーンスチール (製鉄機械関係)
2024-11-21 15:13:29
「材料物理数学再武装」といえばプロテリアル(旧日立金属)製高性能特殊鋼SLD-MAGICの発明者の方で久保田邦親博士(工学)という方のの大学の講義資料の名称ですね。番外編のFacebookにおける経済学の国富論で、価格決定メカニズム(市場原理)の話面白かった。学校卒業して以来ようやく微積分のありがたさに気づくことができたのはこのあたりの情報収集によるものだ。ようはトレードオフ関係にある比例と反比例の曲線を関数接合論で繋げて、微分してゼロなところが最高峰なので全体最適だとする話だった。
何年か前にノーベル賞候補(化学賞)にも挙げられていたCCSCモデルという境界潤滑理論(摩擦理論)の提唱者でもありますね。摩擦プラズマにより発生するエキソエレクトロンが促進する摩耗のトライボ化学反応において社会実装上極めて重要な根源的エンジンフリクション理論として自動車業界等の潤滑機素設計のコア技術として脚光を浴びつつありますね。人類というものは機械の摩擦や損傷という単純なことですら実はよく理解していないということを理解させられる理論です。
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金型焼入れ性 (ソリューション業務関係)
2024-11-21 15:27:32
「材料物理数学再武装」なつかしいですね。私なんかは特殊鋼の熱処理の焼入れにおけるマルテンサイト変態の際、重要となる焼入れ性評価に用いるTTT曲線の均一核生成モデルでの方程式の解析をPTCのMathCADで行い、熱力学と速度論の関数接合論による結果と理論式と比べn=2~3あたりが精度的にもよいとしたところなんかがとても参考になりました。
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AI革命の旗手リスペクト (プラントメンテナンス関係)
2024-11-21 16:08:13
日経クロステックの記事に今年のノーベル賞は「「AIの父」ヒントン氏にノーベル賞、深層学習(ディープラーニング)の基礎を築いた業績をまとめ読み」と題して紹介されていましたが、物理学賞、化学賞ともにAIがらみあったんですね。しかしながらブラックボックス問題の解明には至っていないようです。
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価値創造へ向けて (鉄鋼メーカーエンジニア)
2024-11-21 16:16:06
NVIDIAのCEOも「AIと日本の優れた製造業、ロボット技術を合わせれば、日本は新しい産業革命を起こせる」と述べ、日本が持つ可能性に対して強い期待感を表明している。このようなAI技術は人口減少に伴う労働力不足の解決策ともなろう。今後ロボットは高度な多軸、多関節化がおこることが予想されるため日本人の経営者も指導力を発揮すべきでは。
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