乗り気を見せないロシア
2017年9月9日
北方領土の返還交渉は、ロシアにいいように翻弄され、返還はますます絶望的になってきたとみるべきでしょう。北方領土での「共同経済活動」を日本側が返還への糸口とするつもりなのに、ロシア側は色丹島に経済特区を設置することを決め、中国、韓国企業などを受け入れかねない構えを見せています。くせ玉ばかり投げ、本気で領土返還に取り組む気持ちを持ち合わせていないことは明らかです。
それなのに安倍政権はあきらめずに必至です。可能性は乏しくても、「努力するか、そのふりをする」が政治的に重要だからなのでしょう。返還がいくら至難でも、「返還をあきらめた」ということは政治、外交的にできないという事情はあるでしょう。それにしても、協議や会議があるたびに、大々的な報道がなされることに、違和感を持ちます。返還交渉の意義を再考する時期にきました。
誤解のないように申しておきますと、北方4島はロシア側の不法占拠であり、終盤になって第二次世界大戦に参戦し、戦後秩序が混乱している最中に日本から奪い取ったのです。だからと言って、日本政府の領土交渉が暗礁に乗り上げ、絶望的になっていると指摘することが愛国精神に反するとは思いません。ロシアにいいようにあしらわれている、返還交渉の意義を再考しようといっても、反日的ではありますまい。
大々的な報道に違和感
新聞などのメディアは、実現性がますます乏しくなった北方領土の返還交渉を、なぜ大々的に報道するのか不可解です。北方領土の返還というだけで、ニュース価値が高いとみるのはいかがでしょうか。実態に即して、報道の扱いを思い切って地味にしてもいいのではないですか。
日経の社説(9月9日)に奇妙な解釈が載っていました。「共同経済活動が実現すれば、北方領土で日本の存在感が高まり、地元住民との相互理解が深まる」というのです。そんなことはあるでしょうか。海産物の養殖、温室栽培、風力発電などが実現していけば、喜ぶのはロシア住民であり、島の経済、居住環境がよくなり、島を返還する気持ちが後退していくに違いありません。ロシア住民が島を離れる動機は失せていくはずです。
かりに日本領土として返還されても、ロシア住民付きでしょう。人口減少の日本から移住する日本人は、あまりいないでしょう。一体、何のための領土交渉かを考えてみる時期にきていると、思います。「領土返還を口にすれば、プーチン大統領と接触する場を設けることができる。欧米から孤立しているプーチン氏とのパイプを維持するのは重要である」という価値はあるかもしれません。そういう副次的効果はありうるにしても、領土交渉本来の目的ではありませんね。
北方領土には、ロシアの軍事基地がすでに存在しており、太平洋に抜ける海路は、ロシアにとっては地政学的に大きな利益になります。そこで「領土交渉を通じて基地拡充に対し、けん制球を投げる」という考えもあるかもしれません。それもどうでしょうか。北朝鮮の核ミサイル開発は、米欧日に対する対抗軸になると考えているロシアです。北方領土の軍事的価値は増していると考えるているとみるのが自然です。